ガンダムA 06年02月号 篠原保インタビュー

―― どういった経緯で「リーンの翼」のオーラマシンデザインを担当されることになったのでしょうか?
篠原 なんでも富野監督と河口Pとの雑談の中で、監督はウルトラマンよりも仮面ライダーのデザインの方が好みだ、という話になったそうなんですよ。「じゃあ仮面ライダーのデザイナーを起用してみては」という流れでお声がかかったらしいです。もっとも私は「仮面ライダー」を描いていたわけではないんですが(笑)。ただ、私は最初の「聖戦士ダンバイン」はもちろん、その後の外伝や小説版の「リーンの翼」まで読んでいるほど富野監督のフォロワーだったので、仕事ととしてできるかどうかはともかく、「監督に会える」ということがまずうれしくてお話をうかがうことにしました(笑)。
―― 今回のオーラバトラーのデザインコンセプトはどういったものだったのでしょうか?
篠原 最初の監督との打ち合わせで「昆虫の持っている形態のバリエーションであるとか機能美を前面に押し出したものがいいよね」というお話はうかがっていました。そして自分なりにこのショット・ウェポンがいないこの世界でのオーラマシンの成り立ちを考えた結果、まず最初に現状の下半身だけ、つまりウイングキャリバーのようなマシンができ上がって、その後に格闘用の上半身をくっつけることでオーラバトラーができ上がったという解釈に至ったのです。そこからコクピットの位置も必然的に股間になり、翅も腰から生えることになりました。デザイン作業自体も股間から進めていますね。機種的には、アイデアを練るのはほぼ同時進行なのですが、オーラバトラーで言えば「ライデン」、オーラシップで言えば「ジンザン」と、その世界でスタンダードとされているものから完成させて、バリエーションを広げる形で他の機体を仕上げています。
―― 主人公機である「ナナジン」に関しては?
篠原 旧帝国軍人である迫水が率いるホウジョウ軍が作った機体なので「零戦」を意識して作ろうとは思っていました。そしてその「軽快なプロペラ機」という印象からトンボをイメージしています。ギム・ゲネンは「やっぱドラムロがいないとマズいよな」ということでバリエーションとして上半身にボリュームを持たせた機体を考えました。サコミズの乗るオウカオーは蝶の翅はついていますが、「ライデンと同じ系統の最上位機種」を意識しています。
―― デザインを上げてゆく上でのやり取りは多かったのでしょうか?
篠原 いや、動き出してからはダメ出しはほとんどなかったですね。何も言われないと逆に「もっとプラモデル売れるようにしなきゃいけないんじゃないか…」とか余計なことまで気に病みましたけど(笑)。戦艦はアニメの方では3DCGで再現されているのですが、コミックス版の作者の方には線が多いので苦労をおかけしています。あと副腕など、どう動くか読み取りにくい部分に関しては必要に応じて作画用の資料を随時描いています。
―― オーラシップのデザインに関しては?
篠原 「第二次世界大戦中の日本軍の戦艦を意識して」というのと「虫の足が生えたものを」という2つのオーダーがあって、最初に「シンザン」「レンザン」のデザインができ上がりました。それを先方に見せたところ「これです」ということで(笑)ほぼそのまま決まっています。迫水がカリスマになっている世界なので、多分ジャポニズムみたいなのが蔓延しちゃってると思うんですよ。だからオーラバトラーに関しても顔が能面っぽいとかそれは多少意識しています。
―― オーラバトラーの戦艦からの発進の方法も独特なんですよね。
篠原 ええ。「虫を意識して」ということだったので、オーラバトラーの発進口を蜂の巣のような構造にしています。発進シークエンスとしては、そこからまずお尻を突き出して半身を出し、その場でブーンと羽ばたいて飛び出してゆくんです。これはかなり初期の段階から考えていたアイデアでした。
―― これから「リーンの翼」を見る読者に一言伝えるとしたら?
篠原 もしかしたら皆さんが「聖戦士ダンバイン」の続編としてのバイストン・ウェルの物語に対して期待しているものとは少し違うかもしれません。ただ、それとはまた少し違うものとして、頭を真っ白にして楽しんで頂ければ幸いです。