TOKYO SPEAKEASY 2020年8月20日放送分ゲスト富野由悠季、中村正人

TOKYO SPEAKEASY 2020年8月20日放送分ゲスト富野由悠季中村正人

富野監督と中村さんの過去の対談はこちらを参照。
char-blog.hatenadiary.org
char-blog.hatenadiary.org

中村 本当に結構呑んじゃいましたね。
富野 まぁ時間が時間ですからね(深夜1時)。
中村 大丈夫ですか、この時間で。
富野 うん、そういう事で言えば今この時間が一番呑みながら一番やってる時です。
中村 作業してる時はね。呑むのお好きですよね、「健康的に生活を送んなきゃならない」って言って健康的になろうとするんだけども、クリエイティブはやっぱり1時過ぎがやっぱりちょっと僕なんかは調子出てきちゃう。
富野 やっぱり2時、3時くらいまでが一番いい時間。
中村 冴えますよね。一日中考えてて結論出なかったことが1時辺りからパンパンパンパンと入ってきます。
富野 僕の場合もうちょっと違う部分があって。フェードインがダーッと来て。だから2時くらいに一番酔える様にしていきたいなっていう呑み方はしています。
中村 (笑)。そうですか、ほんとに?
富野 はい。そういう意味では……(フェードアウト)。

中村 (笑)、キツいですよね。まぁちょっとね。そんな話をするとは思いませんでした。え? 流れてなかったの? 今の話。今の話流れてないみたい(笑)。残念でしたねー(笑)。そんなわけですけど、避けて通れないのがこの状況。どうしてました?
富野 結局、仕事をやるために生きているわけじゃなくて。生きるために仕事をやってただけのことなのよ。だから「こういう作品が作りたい」とか、「アニメが好きだからやってたんでしょ」ってのは嘘八百でね。食ってくためなの。住宅ローンを返済するためにやってたの。
中村 (笑)
富野 それだけのことなの。そして、そのモチベーションがなかったら、なんて言うの? 飽きもせずにアニメのコンテなんかやってられないよね。演出なんかしてられないよね、そんな上等な仕事じゃないんだから。っていう風に舐めてる節があったもん。今度は逆に舐めるんじゃなくって、「あいつがやってるんだったら、あいつを黙らせてやるためにはこういう風に作る」みたいなことで、言ってしまえば創作意欲みたいなものを気が付いた時に、何が起こるかって言うと、自分に創作能力がないってことに気が付くっていう地獄が起こるわけね。
中村 はい、聞いてみましょ、一応。
富野 その繰り返しだったな、っていう。
中村 じゃあやっぱり監督の「殺すぞ」発言というのはその辺から始まったんですかね? やっぱり。
富野 あのね、劇中でもそうなんだけども、「あの野郎、叩っ殺してやろう」っていうくらいに思い込んでいかないと、実を言うと、フィクションは作れない。
中村 うんうん、はい。
富野 で、そのくらいやっぱり気合いを入れなくちゃいけないことが分かってくるわけ。そして、元々の能力のある「作家」と言われている人はね、それをしないでね、どうもできるという才能を持ってる人。
中村 成程。なんか今来ました。
富野 それと後、そういう人ってどういうことかと言うと、資料を読めるとか、過去にかなりの作品を読み込んでいるというデータがあるのね。僕に、やっぱりアニメの仕事を始める前に、それが全くなかったんで。番組任された時にあなたさ、って時に、一番始めに結局……。
中村 アトムでしたっけ?
富野 違う、違います。番組を任されたってのはつまりシリーズの総監督をやらすことになる。って時に一番始めにやったのは、子供に読ませるお話を一切知らない人間だったので、「児童文学の書き方」って本を探してきて、それを読むことから始めた。
中村 うわー……。
富野 その時に本当に地獄だったんだよ。ましてその時にやったのは、手塚先生の原作(青いトリトン)がありながら、この原作は使えないってことだけは判るわけ。
中村 (笑)。それはちょっと何かで読んで。
富野 そう。
中村 それはすげぇなぁって思いますけどね。
富野 その使えない原作を使える様にするための能力っていうのが僕にはない。だから「え? 児童文学の書き方から始める?」っていう三か月くらいの間は本っ当に辛かった。
中村 監督辛い時は持っちゃうんですか? それとも人に当たり散らすとか?
富野 違う違う。籠る時間もないの。つまり、その本を読み切らない限り、手塚治虫の原作を直すとこに行けない訳よ。
中村 成程。
富野 その時、シナリオライターが5人くらい集まってくれて(松岡清治、辻真先宮田雪、松元力、富田宏)。「じゃあどうする?」って話になった時に、「お前が方針出せ」って。「だからこうする」っていうのを嘘でも言う訳ね。嘘でも言いながら「これ違うんじゃないのかな~)って。「これやってまた下らない怪獣ものになっちゃうんだよね」っていう事を言いながらシナリオライターに頼む。すると今度シナリオライターの正体が判ってくる訳。
中村 成程。
富野 「あ、こいつはこの手の作品をやることに関してはプロだけども、つまり、子供に向けて作品を書くってことを何も考えてない。スポンサーとTV局のことしか考えてない」っていうことが分かってきたりする、っていうものとの闘いだったの。
中村 逆に言うと、それらの職業の人たちもやっぱり食うためにはそれ。
富野 全くそうです。
中村 監督も食うためにそれじゃダメと。
富野 だけど、重要なことがあって。食うためにこういう仕事をやってやるということで、実を言うとこれをコツコツやってくと、修行になる、勉強になるかもしれない。だから、ある時から分かったことがあるのは、お金を貰いながら、つまり、貰いながら勉強ができるのはなんてありがたいことなんだろう、っていう時期が数年ありましたね。
中村 たぶん今、そういう考え方の人はすごい少ないかもしれないですね。
富野 ん~、その辺は僕にはもう判らない。
中村 でもチーム(サンライズ1stやG-レコ制作スタッフ)の中にはいっぱいいるでしょ? そこのラストで出た……セクションはよく分かんないですけど。監督の目の前に?
富野 いないいない。
中村 いっぱいいるんじゃないですか?
富野 いない。どうしていないかと言うと、僕の周りにいるのは僕と一緒に仕事をやってた様な年代の人な訳よ。
中村 あ、そうか。
富野 若くないの、もう。うん。で、若くない人たちからの意見をこの10年くらい聞き続けてる訳で。そうすると、「いやぁ僕は今こういう風にしか仕事ができないからねぇ」っていう話を聞かされる。「それで暮らしていくのは大変だよね」「大変なんだけど、何よりも手が動かなくなってくる」
中村 (爆笑)。
富野 「絵が描けない」とかって話になっちゃうのね。
中村 まぁ「眼が見えない」とかね。
富野 そうそう。
中村 ありますよね。
富野 それこそ「病気が出てきた」とかって話が先に出てくる。「50過ぎてもね、この仕事をやってられるってのはありがたいね」ってとこにバン!って行っちゃうから。いわゆる創作の話じゃなくなる訳ね。
中村 総監督のチームでさえそんなこと起きますか?
富野 ……まぁ、これはだって、60過ぎたらはっきり「そっち」しかないよ。
中村 (笑)。そうですか。
富野 だけどそういうことで言ったらそういう年齢に入ってるんだから。
中村 じゃあ僕も61、今年で62ですか。確かにレコーディングの現場にしても、そういう話ばっかですね。
富野 だから現に、ここんとこのそれこそドリカムだから、嫌でもドリカムのライブの映像なんてのを観られる訳よ。嫌でも観られる訳。どうして「嫌でも」って言い方するかって言うと、つい最近見ちゃったからなの。(吉田)美和さんがこの身体、あの身体でね、国立競技場でさ、えっ?ってこれ50過ぎたらこれ止めなくちゃダメよね、っていうところ。
中村 過ぎてやってますからね。
富野 そう。
中村 本当にもう(笑)。
富野 本当、何故これができるんだろうか、っていうのも含めて考えるとね、これは実を言うと悪口になっちゃうのかもしれないけども、吉田美和って業がさせてることなんだろうな、とかってとこに行く。
中村 それは……まぁなんですかね、僕もやっぱり、話ぐっと戻っちゃうけど、「才能がある人」って監督が仰って。例えば僕らも含めて監督は才能の塊だと思ってるけど、そうじゃない見方をするじゃないですか。
富野 はい。
中村 で、「才能がある人」って結構「誰かに勝ちたい」とか、「殺す」って思ってない人が多いですよね。なんか人と比べないっつーか。どうなんですか?
富野 あのねぇ、僕そういう言われ方したことないから本当にびっくりするんだけども。本当に「才能がある人」ってのはそうでしょうね。まさに「唯我独尊なんだお前は」ってことも含めて「え、何? 唯我独尊って何なの? 私自分ができることをこういう風にしか、こういうやり方好きだからやってるのよね」とか、「こういう歌い方って素敵でしょ?」とか、「私が出てくると皆がこっち見てくれるじゃない? だから皆さんに対して私はこうよ、こうよ、こうよ」っていうことしか考えてなくって。
中村 それがたぶん吉田の業というものかもしれない。
富野 そう。するとね、それでものが作れるんだったらそれはまさに才能ってのはそういうもので。才能がない僕みたいな人間がやる時にはどうするかと言うと、「本当、あの野郎ぶっ殺してやろうか!」と思わない限り、絶対にね、物語の発端さえ出てこないのよ。
中村 (笑)。とにかく悔しいとか誰かをやっつけてやる、っていうモチベーションが物語の始まり?
富野 そうです。そういうものが全くないとこで、「お前、作れるものあるだろ」って作りたいものないんだもん。
中村 いや、なんかね、「監督と一緒だ」って言ったらほんと申し訳ないんだけども、僕も実は作りたいものがないんですよ。
富野 うん。
中村 例えば、ドリカムだったら「今好きなことばかりやってるでしょ?」って言われるけど、いや、好きなことって何か、って言うと、やっぱり仕事をいただくこと、いただいた仕事を自分の表現としてお返しすることしかなくて。
富野 全くそう。
中村 種はやっぱり与えて、その種は吉田から与えられることが多いので。それはもちろん、吉田がこういう曲やりたいとか、こういう表現やりたいとか。でも監督にその種を与えるのは誰なんですか?
富野 誰もいなかったから辛かった。
中村 (笑)。泣きそうになってますけど、誰もいなかった?
富野 誰もいなかった。
中村 それは例えば手塚先生?
富野 手塚先生!? 何言ってんの! あれはあの人は、僕が自分が、手塚原作を「これは使えないから、作り変える」ってやった時からライバルだもん。
中村 ……うん、はい。
富野 だから師匠だとも思わないで「手塚をいつか黙らせる!」
中村 (爆笑)。やっぱりそっちに行くんだ。そっちのモチベーションなんだ。
富野 そうでなければ、10年20年、こんな仕事やってられないよ。
中村 あの、音楽業界は本当にアニメの制作の現場の、まぁこういう時代ですから色んな話ありますけども、当時まさに総監督が寝ずに働いていた頃、そういうことですよね?
富野 そういうことです。
中村 地獄ですよ。
富野 だから、本当に才能のある人ってのは、本当に羨ましいと思う。だからこそ、(笑)、ドリカムの曲聴いた時に「あっ、これで出てきて、これで売れて、尚且つこれで千人じゃないんだよね、一万人って単位だよね、二万人って単位に向かってライブをやる。それでやってける面子が二人しかいない? こいつら本っ当、殺してやろうかと思ったもん。
中村 (笑)。いやぁ、今僕、米津(玄師)君にそう思ってますけどね(笑)。
富野 本当、そうなの。
中村 米津君も全部自分でやられますからね、彼も。
富野 そうそう。
中村 ジャケット絵上手でしょ?、ま
富野 上手ですよね。
中村 ビデオも撮れる。元々はYoutuberって言いますかね。ハチっていう。
富野 うん。
中村 ボカロから出てますから。あんな歌上手で、あんなパフォーマンスが素晴らしいのに、最初ボカロですよ? そりゃないだろうって。
富野 そうそう。
中村 後出しジャンケンみたいなもんですよ。
富野 それこそ米津さんに限って言えば「自分自身、いわゆるアレンジ? 全く分かんなかったからよ」って平気で言うじゃない? ちょっと待ってくれよ、ってさ(笑)。
中村 本当にですよね。
富野 ふざけてねぇかって思うもん。
中村 本当ですよ。
富野 だけどあれがまさに才能だ、っていうのが分かる様になってきたし。分かる様になってくると……あぁ、余分な話になりそうだから我慢する(笑)。
中村 今日はもうお互い呑んで喋ってるんだから何でも言ってくださいよ。
富野 だけどよ。
中村 マイク切っちゃいますから、なんかあったら。大丈夫ですよ。
富野 (笑)。典型的に……。
中村 なんか最近辛いことあったんじゃないですか? なんか今日、どうしたんですか?
富野 あぁ、そういうことで言えば、もうこの10年ぐらいずっと辛いもん。
中村 (笑)。
富野 楽しいこと殆どないもん。
中村 そうですよね。分かりますよ。
富野 だから、つまり天才の名前を出して、誰からも文句を言われないただ一人の人がいる訳。モーツァルト。本当この5、6年、僕ね、モーツァルトのね、50(歳)まで聴くとは思ってなかったもん。
中村 うんうん。
富野 「あんな曖昧でよく分かんねぇ曲なんて」って思ったけど。
中村 まぁビートルズもけちょんけちょんに言ってますからね、監督ね(笑)。
富野 だけど、本当この5、6年、ずっとモーツァルト聴いてる。
中村 あのね、僕もモーツァルト……。
富野 それで最近分かってきたことは何かって言うと、楽曲のことは分かんないのよ。モーツァルトがすごいなと思うのは、何書かせても、つまり何作曲させてもちゃんと音楽になってて。煩わしくない。
中村 あのね、本当に仰る通りで。しかもモーツァルト、皆さん聴いてらっしゃる方は素晴らしいピアニストいらっしゃるとと思いますけど、モーツァルト、あれ弾いてますからね自分で。
富野 そうなの。そうするとね、才能ってこれであって、僕、若い時それこそワーグナーなんかさ、嫌いじゃなかったのね。モーツァルト聴く様になって、ああいうわざとらしい曲、ってのがね、ダメになっちゃった(笑)。
中村 (笑)。
富野 っていう地獄を経験しちゃって(笑)。
中村 ビジネス考えてるんですかね? でも僕が見る限り、映画とか伝記しか読んだことないですけど、やっぱりモーツァルトも依頼を受けてすら食うために書いてますよね
富野 そうですよ、全くそうです。
中村 パトロンのために。
富野 全くそうなの。そういう意味で商売人なのよ。そういう意味ですごく俗な奴で。だから僕は「アマデウス」って映画大好きなのは、絶対ね、モーツァルトはあぁだったと思うわけ。
中村 サリエルね。
富野 あのくらい俗物で。俗がね、これができるんだってのが分かってきた時に……あぁ、また余分な話しそうになった。
中村 (笑)。でも監督ね、ちょっと横道逸れますけども、今才能のある人も品格とか求められちゃうじゃないですか。
富野 うん。
中村 それはおかしくないですか?
富野 おかしい。だからモーツァルトなの。
中村 そうなんですよ。だからおかしいですよ。なんで才能のある人が善い人でなくちゃいけない、社会に貢献する人でなくちゃいけない。だってその才能自体が人類のためなのに。良いじゃないですかめちゃくちゃでも。
富野 それもあるし、人間ってね、めちゃくちゃじゃなかったらね、天才的な仕事できないんだよ!
中村 仰る通り。
富野 吉田美和さんそうなの(小声)?
中村 あのー、ここでは言えないですけど、めちゃくちゃです(笑)。めちゃくちゃな僕らにね、監督が依頼してくれた、G-レコのテーマソング。聴いていただきましょう、「G」。
DREAMS COME TRUE 「G」)
中村 という訳で、G-レコのテーマソング聴いていただいてますけども。サーッと流しておいて。今ちょっと言ったんですけど、吉田はこれをちょっと冷静に歌ってるというか。「calm down」と英語で言いますけども。そういう風に歌っているのはすごくね、G-レコの登場人物に似てるなと思って。
富野 はぁー! だからなんだ! 俺気に入ったのは。そこか。
中村 はい。G-レコの登場人物って、普段はそんな燃えてない。
富野 そう、燃えてない。
中村 結構こう、ライトで軽くて。まぁなんか熱血漢でもない。ただ、戦闘とかミッションを与えられたら、もう火の玉の如く戦い、動く訳じゃないですか。それがね、なんか音的に今回出せたな、って。
富野 (拍手)
中村 でも「G-レコの登場人物って不思議な人たちばっかり」って思っていたら、まさに今の人たちなんですよ。皆calm downなんですよ。
富野 へぇー!
中村 意外と冷静で。
富野 うん。
中村 それで一挙に色んな情報を頭に入れてるんで、その分析にも時間がかかるんで。
富野 はぁ~。
中村 感情的になってる暇がないんですよ、今の人たちって。若い人ばかりじゃないですよ? 我々の世代も含めたいわゆるオンラインの人。
富野 分かります。……ほんと中村さんさ、そういう解析すごいね! 上手ね~。
中村 上手(笑)。
富野 僕そういう風に分析できないから、グタグタグタグタしてるんだけども。
中村 だから、監督は才能のあるエリアの人で、僕はそれを吉田と共に今回はフォローするというお仕事をいただいて、毎回ヒヤヒヤしてる訳ですよ(笑)。
富野 そうか~。俺才能あったらもう少し楽してると思うんだけどな。
中村 才能がある人は才能がないで大変でしょうけど。本当にやっぱり、僕何べんも言ってますけどメディアで。素晴らしい主題歌、EDテーマをG-レコは積み重ねてきたじゃないですか。やっぱりファンの中には「ん?」と言う方もいらっしゃる。それは重々承知して、重々分かった上であえて僕らは胸張って、これを劇場用に注ぎ込みたい、という気持ちで作りましたね。
富野 そう。それが分かってるから、今その3本目が、どういう風にするかって、かーなりキツいのよね。
中村 俺訊きたかったんですけど、どうなってるんですか3本目? どうしますコロナ禍?
富野 よく分からない。全然分かんない。
中村 全然よく分かんない(笑)。
富野 ただ、先週、3本目と4本目と5本目のBGMの発注を菅野祐悟さんにして。
中村 菅野さんお元気でした?
富野 元気なんてもんじゃなくて。本当にあの人は元気なんてもんじゃなくて。「米津なんだー!」って人ですからね。
中村 おっ、良いですねぇ。良いですね。
富野 そういう意味ではね、ちょっとびっくりした。そして「なんだ」ってのが僕と違ってて。「だって30秒聴けば判るでしょ? あの人は天才ですよ」って。
中村 仰る通りです。
富野 「だからあの人とどうこうしようと思わないから、俺流に仕事させてください」それで締めたもん。
中村 でも「この野郎」と思ってるのは、そういう天才、時代を区切る、ユーミンさんもそうだし、(中島)みゆきさんもそうだし、宇多田ヒカルちゃんもそうだし、そういう天才たちって、やっぱりもっと影響与えるんですよ、そうやって。それは今の人に一番ウケてるという事象以上に我々クリエイターに。
富野 そうだね。
中村 端っこの人って言っちゃうと菅野さんに怒られちゃうけどさ。でも菅野さんですらインスパイアする訳。定点観測させる。
富野 そうそう。
中村 「米津に比べて俺はこうだから、こういう方法で行くよ」。
富野 だから、本当先週久しぶりで。つまりG-レコの作品のことを考えながら話をしなくちゃいけなかった。せざるを得なかったんで。だからトミノさんも自分でも内心偉ぶりましたもん。
中村 あ、そう。
富野 つまり「この1年、何もやってないのにG-レコってすごいな。色んなこと考えさせる作品だ。だからこうしてくださいよ」って話が菅野祐悟って才能に対して言えた自分って嬉しかったもんね。
中村 でも、客観的に見れたってのすごい良かった。勿論大変な方々、今も戦場で戦ってくださった方々たくさんいる中で、我々こんな呑気に呑みながら話している場合じゃないんですけど、ただまぁ今日は良いか。
富野 っていうだけじゃなくて、この時間がなかったらね、それこそG-レコさっき言った様に作っているのはどういうことかと言うと、人間ね、24時間ピーンとなんて張ってられないもの。
中村 仰る通り。
富野 だからこれで良いんです。良いからこそなの。僕の理想がある訳よ。作り手だったらね、って。実を言うと、秋元(康)さんみたいにずーっと作り手風にしたかったけども、それができてないのを悔しい! っていう。
中村 (爆笑)。コマーシャルに行きましょうか。
(CM)
ホルスト「惑星 第4曲 木星、快楽をもたらす者」)
中村 今日みたいに仕事抜きの機会はあんまりないので、僕が好きな曲を監督と是非聴きたい曲がありまして。
富野 はい。
中村 今鳴ってるやつなんですよ。これがですね、ベルリンフィルなんですけど、ホルストの「惑星」という曲で。平原(綾香)さんで有名になっちゃいましたけど、「Jupiter」って曲なんですよ。これ是非一緒に聴きたかった。これご存知ですか?
富野 少しは知ってます(苦笑)。
中村 あ、そうですか。これですね、まさに宇宙ってこういう音なんだろうな、と。
富野 うん。
中村 まだ人類が宇宙に飛び出てない頃にホルストという作曲家が作ったんですけど。この中でも「火星」も素晴らしいんですけど。
富野 うん。
中村 この組曲で一番最初の。あらゆる映画音楽家の元ネタになっている様な組曲なんですけど。この「Jupiter」ってのがね、まさに僕らが少年時代に見た、あるいはG-レコで宇宙が舞台になっていた時に聞こえてた音だったんですよ。こういう音楽を僕はいつか作りたいと思って。これを今聴いていただいて。「中村こういうの作りたいんだよ」ってプレゼン(笑)。
富野 いや、っていうよりも、すごく実を言うと僕にとっては当たり前だから。
中村 これが?
富野 うん。当たり前の曲調だから。正直びっくりしました。もう少し違うもの、そういう意味で偏見があったんですよね、ドリカムに対して。
中村 ずっとそれ言ってるからね、監督(笑)。もう偏見の塊だから、富野さん。
富野 (笑)。だから、まさに「Jupiter」なんてのは当たり前に宇宙そのものなんだから、良いんだよ。それで逆にこういう記憶が僕の中にあるからなんです。「2001年(宇宙の旅)」は困っちゃった訳。
中村 あぁ~。
富野 「え~これで来られたか」。
中村 あー、そういう意味でね。
富野 そう。
中村 でもこの楽曲ってすごいテクノロジーも感じるんですよね。雄大な自然だけじゃないんですよ、僕の。
富野 分かりますよ。
中村 分かります? だからそれこそ巨大ロボットも見えるし。あらゆるG-レコで登場する。
富野 拡がりそのものが見えるし。もう一つ重要なことがあるのは、景観と言うよりも、水平線と言うのかな、地平線と言うのかな。
中村 まさに。
富野 ズァーッと走ってるのね。そういう見事さというのはあるという意味では、本当にこれは認めます。嫌いな曲ではありませんが……。
中村 あんまり驚かなかったってこと?
富野 うん。さっき言った通り。最近モーツァルトも自然体に(笑)。
中村 もうちょっと驚いてくださいよ。「おう中村こういう曲選んだんだ、いいなお前」とかちょっと言ってくださいよ。
富野 それだって大前提だもん。当たり前で。今更そのことで「お前ら偉いね」なんて言ってたらナメてることになりません?
中村 (笑)。はい、分かりました。でも今日ホルストを選んでたから、さっきモーツァルトの話仰ってた時に、ちょっとビクッとしました。そこか、って。モーツァルトか、って。
富野 それね、自分の中でもなんです。趣味性の問題みたいなことを考えていた時に、自分に一貫したものがなくって。結局皆が一番言ってるモーツァルトに戻らざるを得なかった自分、っていうのは本当に嫌だった、ってこともある訳。
中村 総監督、皆が言うからモーツァルトじゃなくて、モーツァルトだから皆が言ってるじゃないですか。それはもうガンダムと一緒ですよ。
富野 はぁ~。
中村 「巨大ロボットものは結局ガンダムに戻らなくちゃいけなかった」って監督の周り、屍(死)累々ですよ。ねぇ? (小形)プロデューサー、おんなじこと言ってるでしょ?
富野 中村さんってさ、ほんとプロデューサーね(笑)。すごいね。
中村 (笑)。
富野 ほんとお上手。
中村 お上手なのは監督。でも本当に同じこと言ってますよ。屍累々ですよ、巨大ロボットものの監督たちは。
富野 (唸る)
中村 このヤローって言わないでしょうけどね。でもちょっと言ってほしいでしょ?
富野 言ってほしくない。
中村 (笑)。絶対そうだと思った。
富野 強がりじゃなくて、これを基準にしちゃいけないんだよね。やはり僕は……やっぱりなの、大学以後の、つまり20歳以後のことで言うと、やっぱり戯作者になりたかった、っていう、すごくシンプルな思考っていうものを身に着けちゃったのに、結局巨大ロボットものしかやらせてもらえなかった、っていう意味で「手前らぶっ殺してやろうか!」って日本の映画界全部に対して思ってる人間ですから。
中村 でも番組の始まる前、ここに呑みに来る前にね、「巨大ロボット捨てて、トミノがなんとか……」って言ってましたけど(戦艦大和登場予定の新作?)。何を言ってんですか、って感じだね。まだ極めるんじゃないですか?
富野 違う違う違う。結局巨大ロボットっていうギミックを使わせたらほんとに天下一品だろう、っていうまさにそれが縛りになっちゃって。劇なんて作れなくなってしまった、っていう。「戯作をする」ということはそういうことではないんだよ、っていうことが分かった。だから、言ってしまえば……うーん、僕は未だにドストエフスキーは読めないんだけれども……そう、バルザックなんかは読んでガックリくることはあるんだけれども。人を観察する能力が全くなかった、っていうことを知らされて。本当に愕然とするんだよね。
中村 あの、敵対する人がレベルが違いますから(笑)。
富野 あ、そうか。
中村 例えば吉田も今回、「G」でね、シェイクスピア出してますけども。監督とシェイクスピアはきっと同じことを言ってるんだろう、ということで吉田はシェイクスピアを出したんですけども。でも、ちょっと僕今日、監督に久しぶりにお会いできて、でもシェイクスピアもエンタテイメントやりたかった訳ですよね?
富野 そうですよ。
中村 エンタテイメントとして、芝居の中に……。
富野 それから、あともう一つシェイクスピアがあったのは「自分が田舎者なんだけれども、ともかくロンドンにいる連中に少しはね、俺のこと偉いと思ってよ」っていう、そういうね、下心があった。というのは本当によく分かる訳。そういう意味では向上心を持っている、だけど実を言うと自分はこういう風にしか劇を書けない。だから日常芝居がものすごく多いシェイクスピアってつまんない訳よ。長~くって。「こういう風にしか書けない俺」っていうコンプレックスをずっと持ってた人なんじゃないのかな。これまた袋叩きに遭うかもしれない(笑)。
中村 今シェイクスピアを表現したのは富野総監督の気持ちとちょっと被るところあるんじゃないですか? 「俺は巨大ロボットものしかできない」っていう。
富野 分かったから。はっと気が付いた! 別にあの、自分がシェイクスピアと並んで考えていませんからね。世界の文豪と(笑)
中村 世界のトミノですよ。僕おべっか使う必要全くなくてですね。おべっか使ってもなんの得もないですよ僕。もうテーマ曲書かせていただきましたし(笑)。
富野 (笑)
中村 損得全くないところで。今回監督がG-レコで強調してらっしゃったのは、ガンダムっていう先入観なしで観てほしい。逆に言うと、ガンダム知らない人に観てほしい。今の子供たちに観てほしい、っていう意味では僕は年食ってますけども。でも結構同じとこから入ったんですよ。で、あらためてG-レコオリジナル版(TV版)をあえて観ない。まさにポスター(劇場版キービジュアル)ですよ。「ポスターだけ見て、これから感じる音楽書いてくれれば良いんだよ」って言ったのと全く一緒の角度で入って。やっぱりね、G-レコは面白い。でもね、まだね、得体が判らない面白さなの。
富野 そうなの。その辺の典拠が最近ようやく分かる様になった訳。亜阿子さんから昔から言われてたんだけども。「登場人物が多いやつはダメ! 映画っていうのは二人とか三人とか四人、出ても五人まで。G-レコはキャラクターも多すぎる。(ファースト)ガンダムも多すぎる。それダメ。映画になってない」って言われて。本当にすいません、っていうのは、最近本気になって分かる様になったからね。
中村 でもどうです、僕亜阿子さんに逆らう気はなくてですね。何故かと言うと、ドリカムを使えと言ったのは亜阿子さんですから。本当亜阿子さんには感謝してて、監督にはちっとも感謝してない。
富野 はい。
中村 でも、この前もちょっと対談で喋らせていただきましたけども、今、例えばNetflixとかそういう海外ドラマも含めてヒット作っていうのは群集劇とか登場人物が多くて、でもその登場人物を本当に丁寧に描いて。
富野 あ、そう?
中村 そうですよ。例えば、ゾンビ映画でもなんでもいいや。そういう意味ではG-レコはまさにベルリだけを描いてんじゃなくて、ベルリを中心にもしないじゃないですか。
富野 そう。だけど、映画っていうのは2時間以内でピシッと観られて分かるというのが映画なのよ。って言った時に、そういうものに収まってないG-レコってやっぱり映画じゃないのね。
中村 でも今の映画は15秒で分かる映画もあれば、Netflixみたいに10シーズン各話18話とか、そういうので延々見せるのもあって。その劇中の一人として自分を感じてきちゃう訳じゃないですか、例えばそういうのを観てると。
富野 はい。
中村 G-レコはそういう要素いっぱいある、って前の話で。亜阿子さんの意見ももちろんわかりますけども。「今」じゃないですか。
富野 だからこそなの。G-レコは五部作で作っても良いんじゃないのかというのは5年前から思ったし。それを実行させてもらってるんだけれども、やっぱり戯作者としての理想論がある訳ね。高い! シェイクスピアに勝ちたい訳。
中村 もちろんです。
富野 (笑)。
中村 勝ってます。
富野 そういう時に、これでなぁ……というのがあるから。だから今回本当に、「G」の曲をいただいた時に一番びっくりしたのは、本当にあの単語が出てくるっていうことのすごさ。っていう意味では、今の若い人そういう言い方しても分かんないだろうと思うけど、「ドス突き付けられた」って感じがあるからね。
中村 監督は僕の大先輩ですけども、「今の若い人たち」という分類もままならなくなってきて。
富野 はい。
中村 まさにそのオンラインの人類と、オフラインの人類に全く分かれてて。年齢関係なくオンラインとして実績のない人間は尊敬されないというか。尊敬まではいかない、相手にされない。例えばうちの娘に僕がアドバイスしても、僕は動画の編集の仕方も知りませんし(笑)
富野 (笑)
中村 本当、ガジェットの使い方全く分かんないんで。色んなことで人生の先輩として教えても、iphone使えなかったらアウトなんですよ、説得力が。
富野 きっとそうなんでしょうね。今僕の周りにはそういう人がいないから。
中村 そうなんですか。
富野 そういう敗北感がないの。同年齢しかいないんだもの。
中村 でも作画の現場って最終はガジェット使ってますよね?
富野 使っているんだけれども、ああいうもの使ってる奴は他人だもの。他人なんてもんじゃない。スタッフ以下だもん。絶対付き合わない。鉛筆で絵が描ける人としか仕事しなくなっちゃってる(笑)。
中村 何言ってるんですか。宮崎駿さんみたいなこと言わないでください。よく分かんないなぁ、もう。
富野 だってそういう歳だから。年齢には勝てない部分があるんだって(机叩きながら)。
中村 監督、(19)41年生まれじゃないですか。
富野 うん。
中村 ポツダム宣言が45年じゃないですか。
富野 (笑)
中村 もうすごいと思って、俺なんか。現役ですよ? こういう言い方したら軽くなっちゃって誤解を受けて困るけれど、だけど、よく考えたら僕も58なんで、生まれが。ポツダム宣言からたった13年しか経ってないんですよ。今の13年前ってこれ、皆さんどう思います? 昨日のことでしょ?
富野 言われてみりゃそうだよね。だけど今の若い人、ポツダム宣言の話分かんないですよ、絶対に。
中村 いやいや、今検索してますよ。簡単ですよ。
富野 (笑)
中村 あっと言う間に。今「ポツダム宣言」上がってきますから。ガンガン。本当に(笑)。ふざけてる訳じゃなくてね。
富野 全然分かる。
中村 ただ、やっぱりその中で、猛烈な体験をなさってきて。
富野 してない、僕の場合。
中村 それはWikipediaで読みました。
富野 一番の理由ってのは、今8月期だから、要するに終戦記念日みたいなこともあるんで、そういう記事もいっぱい読まざるを得ない訳。読んでてつくづく思うことがあって。「なんでこんな風な日本になってしまったんだろうな」っていうよりも、「なんであんな戦争をやれたんだろうな、すごいよね、気違い沙汰」……あーっ、ごめん!
中村 大丈夫です、大丈夫です。41年生まれなんで普通の言葉です。当時の表現を忠実に今再現してる訳であって。今監督はそういう概念を持ってらっしゃらない。
富野 だけれども、概念を持ってないからこそ、逆に本当にね、謎なんですよね。なんでああまで国力が違うのに、戦争を仕掛けられたんだろうかな、っていうのは常軌を逸してるものではないんですよ。そういうレベルではないのに、実を言うと戦後の問題でよく分かることがあるんだけれども。一番仕掛けた、仕掛け人をした人たちというのは、全部発言をしていない、戦後は。つまり、特攻に行けと言った奴は、いなくなっちゃったの。一切合切いなくなっちゃったの。特攻をさせられて死んだ痛みだけを持った人たちが戦後発言をしてる訳ね。特攻を仕掛けるということを思いついて、それをやることが戦争だと思えて、そして特攻で国に殉じたということで、「立派な戦死なんだ」という言葉遣いを発明する奴がいる訳。
中村 それで救われる方も。
富野 それは当然です。戦死者を家庭内に持っている人たちは皆そうなの。だってそうでなかったら無駄死になんて言ってほしくないもの。問題なのは、死にに行けと言って戦争に勝てるんだったら、死にに行けと言っても良いんだけれども、死にに行けと言った奴が、戦後生き残ってて、ごめんなさいと言った奴は一人もいなくって、軍人恩給を貰ってるんだよ。
中村 ちょっとその辺はですね、番組が終わった後に。僕が振っときながら断ち切るのは申し訳ないんですけども。でもね、僕いつも思うんですよ。例えばG-レコで戦闘シーンあるじゃないですか。それこそついでに死んじゃう人いっぱいいる訳ですよ。あれどうしてくれるんですか? 例えば水戸黄門が「助さん角さん、懲らしめてやりなさい」って言って刃物をピュッと向けた時に、ついでに死んじゃう人いっぱいいる訳です。
富野 そうそう。
中村 これはすごいシリアスな問題だと思うんですよ。どういう風に考えてらっしゃるんですか? 「あれ、やられちゃった」っていう(笑)。いっぱいいるじゃないですか。
富野 「あれ、やられちゃった」という局面を作ったって奴のことをそろそろ本当にお前ら考えろ、っていう部分はもう40年以上前から持ってます。だから偶然ではないんだよね。だから最近のデジタルの加工は本当に腹が立つものがあるのは、平気で人間を飛ばすものね。「お前、人間をここまで飛ばしたら死ぬんだぞ」っていうのを、皆絵面のかっこいい爆発の飛ばされ方をしてる訳。そういう演技論を見せられて、かっこがいいとかいう風に思わせる今のデジタルビデオの環境、極度に酷いと思う。それでじゃあ、ついでにとか、勝手に死んでく人たちのことを無残に死ぬ様にやったら、戦争反対の表現になるかと言うと、その表現をした瞬間に、オンエアが禁止される、公開が禁止されることが起こるから、それをしてはいけない。って時に、我々はそういう具体的な物事に対して正確な判断基準になる材料を持ててるの? って言った時に、今の人たちは持ててないよね。
中村 それは難しいですよ、やっぱり。
富野 東京大震災の時の、震災の後の焼死体の写真でさえも黒塗りになってるか、フレームから切って掲載する様になってしまった時代には、我々はこれ以後、なんて言うのかな、「人の命を大事にしましょう」ってことだけを言葉にしていて済むんだろうか? そろそろ本当に考えなくちゃいけない時期が来てるんじゃないのかな、とも思う。だけども、人権主義に関して、既にもう誰一人反対論を言えなくなってしまっている。
中村 自分自身も?
富野 そう。この3、40年経つんで、正直困ってます。困ってるからこそ、そういうものに反旗を翻す様なものを作れないのかな。
中村 作品でね。
富野 とも思うんだけれども。ってことで今本当に苦労してます。
中村 そんな富野監督がですね、好きな曲をかけようかなと思って。2曲あるんですよね。
富野 あるんだけれども。
中村 最初に考えたのはなんですか?
富野 最初に考えたのは「ハイフン・スタッカート」で、自分の作詞した曲で。G-レコでやった曲なんだけれども。とっても好きなのよね。
中村 じゃあちょっと聴かせてもらいましょうかね。聴いてください。
(ハイフン・スタッカート)
中村 これですね。知ってますよ。アレンジとか監督意見するんですか? 「こういう風にしてくれない?」これも菅野さん?
富野 菅野さん。すごいですよ。歌詞カード渡して、何にも言わないの。それでこの曲ができてくるの。すごいなぁ。
中村 トイレ関係で言えば、やっぱりG-レコですごいのはトイレですよね。コア・ファイターの中にトイレがある。あれすごい。あれ今までの巨大ロボットものにああいうのありました?
富野 いや、一度やってるんですけど。
中村 まさにそうですよね。
富野 何よりも菅野祐悟がすごいのは、あの歌詞カード持ってきて、この曲想で作るっていうのは、もう本当にね……脱帽ものと思ってます。
中村 先ほどのホルストもそうですが、宇宙、壮大さ、サイエンスフィクションという言い方が良いか分からないですが、そういうものに絶対今まで使われなかった東洋と言うか、インドって言うか、バリっぽいと言うか。ただ、バリにしてもインドにしても、宇宙と直接つながってる……。
富野 そういう説明を一切しないのに菅野祐悟はそれやってくるんだよね。
中村 すごいですね。そこでもうピーンときちゃうと言うか。G-レコの地球サイズにしていくと言うか。ちょっと欧米なサイエンスフィクションの描写今まであったけど、インドも含めてマントラ含めての宇宙観。
富野 ここまでパッとくるってのはそりゃすごいよね。
中村 すごいですよね。俺はできないですよ。菅野さんで良かった(笑)。偉そうに言ってるけど(笑)。怒られちゃうな本当に。もう一曲いきましょうか。もう一曲はこの曲です。突然言ったんでスタッフ慌てて。うちの曲なんかアーカイブ入ってませんからね。
富野 (笑)
中村 慌ててSpotifyからとったんじゃないですか今。本当に。昔はレコード部屋に行ってですね、引き抜いて。Spotifyで検索すれば出てきますから。これはドリカムの「うれしはずかし朝帰り」。これは何故です?
富野 要するに衝撃を受けたんですよね。
中村 これ実際にお聴きになったんですか?
富野 聴きました。朝帰りの曲だろ!? なのに何よりもさ、朝帰りをテーマにして、こうまで大々的に元気に歌っちゃう、っていう。つまりシンガーソングライターみたいなのが出てきたってのがまずね、衝撃的だった訳。
中村 まぁ、当時の常識で言うと朝帰りというのは秘めたるものでございます。
富野 そうそう。そういうロマンがない訳(笑)。
中村 (笑)。ありますよ。ロマンあるけど、そうですね、清々しい朝です。
富野 これかぁ! っていう時に、まさに世代間の断絶。
中村 切れ目が入ったんですね。
富野 はい。っていうものを感じて、こういう人たちが出てくるこれ以後の10年20年、どうやって暮らしていこうかと。
中村 (笑)
(CM)
富野 (笑)
中村 いやいやもう、悔しい悔しいで一時間ゆっくりお話しさせていただきましたけれども。もちろんね、ソーシャルディスタンスとりながら、監督の健康にも、私自身もそうですけど。また是非、秋元さんにチャンスいただきましたら。
富野 ほんとそういう意味ではご縁で。だって(笑)、秋元さんって人、僕にとっても妙な関係の人で。
中村 番組では言えない話があるらしいですね。
富野 いや、言えないんじゃなくて。そうじゃないそうじゃない。作詞をやって貰ってるんだよね、変な曲のさ(機動戦士ガンダムZZ OP1「アニメじゃない」)。
中村 今1時間やって気が付きました。秋元ってロボットいるんだね。
富野 端から気が付いてます(笑)。
中村 僕全然気が付かなかった。ここになんか台本が出るのかと思った。違いました。ひどいね、これで俺は仕切ってるんだよ、ってのを証明している。
富野 そうそうそうそう。
中村 ひどい人だねぇ。また是非チャンスがありましたら。
富野 本当に機会があればということで。僕にとっても、本当に中村さんの切り口の考え方? みたいなものが正直本当に勉強になるんで、ありがたいんですよね。ありがたいんだけども、今から聞かされてもね、間に合わないんだよねぇ。


富野監督が「俺」と言っているところは、普段人前で演出家として演出している状態ではなく、素が出ているのかもしれない(しかしそれすら演出かもしれない)。

DREAMS COME TRUE 中村正人のENERGY for ALL 8/30放送分

TOKYO SPEAKEASY 2020年8月20日放送分の富野監督の話の後日談。

中村 僕は決してMC力がある訳ではなくて。富野総監督は僕より16年ぐらいの先輩なんですけど、僕がティーンエイジャーの頃から、20代30代含めてなんですけど、まさに富野監督の世代が、富野総監督とか宮崎駿さんとか、いわゆる日本のアニメ黎明期、そういう時代の0から1を創ってきた人たち。僕らのそのぐらいの音楽界で言うとYMOの三人、細野晴臣さんとか坂本龍一さんとか。そういう先輩たちに憧れてただひたすらやってきた僕にとってはですよ。こうやって富野総監督とお話できることだけでもワクワクしちゃうんですよ。本当に嬉しい。一言一言が素直に僕らにとっては神の言葉なんで。その言葉をできるだけ僕も解釈したいし、喋りながら追いついてい行こうとはしてるんですけど。まぁそのプロセスがああいうラジオ番組になって、皆さんにも面白いと思ってもらえればこれはもう幸いなんです。ただただ僕が富野さんと喋っていることが嬉しくて。そんな気持ちがたぶんラジオ番組に出てきて、こういう感想がいただけるのかなと思ってますけど。
GOW 以前富野監督がエネマサに遊びに来てくださった時とまた違うストーリーと言うか。
中村 そうだね。そういう楽しい雰囲気がね、伝わってくれたのは嬉しいと思います。