アニメージュ 10年5月号 富野に訊け!! 第90回

QUESTION93「社会人になる不安を払拭するには?」

神奈川県/牧夫(23歳)
富野監督、はじめまして。
あるメーカーに就職が決まってこの春から社会人になる牧夫と申します。
4年間大学には通っていましたが、個人的にはこれまで家の近所のファミレスなどのバイトくらいしかしてこなかったので、改めて社会に出るというと、期待よりも、不安の方が大きい感じが強いです。
正直、自分が大人になった、という気分も薄いのもその理由のひとつなのだと思います。
そこで監督にお願いです。
社会人になるにあたって、これだけは注意・意識しておいたほうがいい、ということがもしありましたら、お教えいただけますか?
下らない質問ですが、どうぞ宜しくお願いします。

最低3年は我慢して新しい環境に慣れていけば自然と不安は消えていくはず。さらに自分で目標を決めて仕事へのモチベーションを高めていこう!

新しい世界へ旅立つ不安を持つということは、決して特別な感情ではありません。ごく普通のことですから、それを心配することはありません。
まず、牧夫さんがやらなければならないのは、自分自身が新しい環境に慣れるための訓練です。具体的にお教えするなら「他人の言うことを聞く」「周りの環境がどういうものかを見極める」――これらは項目としては2つに見えますが、基本的には「新しい環境を知る」というひとつのことです。
それをする際の注意ですが、「自分には特別な個性や能力がある」などとは思わないで下さい。自分に自信を持っていないと、ますます不安になるんじゃないか? と思うかもしれませんが、それは逆です。むしろ不安感を抱いていないと、新しい環境に真摯な態度で向かうことはできません。
牧夫さんが就いたお仕事がどのような職種かわからないので、迂闊なことは言えないのですが、新しい環境に慣れるには最低3年間は我慢です。そうすると、新しい環境を理解する自分が確認できるようになるので、仕事ができるようになっていきます。当然慣れ方にも段階がありますが、そのプロセスの中で能力も徐々に上がっていくでしょうし、環境に順応したという自信がつけば、知らない内に不安感はなくなっていくでしょう。
「これで全てが解決した」と思っているなら、牧夫さん、それは間違いです。人生死ぬまで働くしかないわけですから、先に言った自己訓練を繰り返しつつ――できることならば、自分が就いた職業における目的値というものを設定して、その3年間、絶えず意識してみて下さい。ただ言いなりになってずっと我慢をし続けて、絶えず「辛い」と思って仕事をしていると、技術も周囲に対しての協調性も育つことはありません。新しい環境を見極めていく中で、「この職業ならこうあるべきだ」「他の企業ならどういうことをする?」ということがわかってきて、「自分はこうすべきではないか?」といった、何かしらの目標を設定して、取り組んで見て下さい。職種や時代によって、その数値や成功例はかなり違うでしょうが、そうすることで仕事の中に、任務や義務以上のモチベーションとなる自分なりの楽しさを見つけることができるようになります。
以上が回答ですが、おそらく牧夫さんの世代にはこういった言い方が伝わり易いのでしょう――僕らの世代に向けてなら、もっとわかり易い言い方がありますので、最後にその言葉を贈りましょう。
その職業に志を持ちなさい。

どっかで見たと思ったら、リーンの翼(完全版)の迫水の考え方及び地の文と同じ。
野生時代は明日やる予定。