Great Mechanics DX12 古橋一浩インタビュー

―― ガンダムであり、舞台が宇宙世紀であり、そして福井晴敏さんの小説がある「ガンダムUC」は、クリエイターにとっては取り組み方が難しい作品と感じられます。
古橋 私はずっと原作付きのアニメを監督してきたので、原作があることは何の問題にもなりませんでした。オリジナルの企画だったら私は呼ばれていないでしょうし、年代的にガンプラにはまらなかったせいか、宇宙世紀のハードルが高い、ということも実感がありませんでした。といっても「機動戦士ガンダムΖΖ」までのTVシリーズや劇場版「機動戦士ガンダム 逆襲のシャア」「機動戦士ガンダムF91」は見てましたし、近年の作品に対しても、まったく知識がなかったわけではないです。
―― 今回、監督を引き受けられたきっかけは何だったのですか?
古橋 「機動戦士ガンダム」は、上京した年に始まった作品なので印象深いです。初心に返り、新たなスタートが切れるかなって。
―― 原作付きのアニメのシナリオは、どのような流れで作業を進められるのでしょうか?
古橋 本読みの場にストーリーの福井さんがいらっしゃるので、そこで内容を詰めていきます。プロットを考えて、ライターさんに書き上げてもらい、それでまた吟味して……という流れですね。普通は参加しないのですが、私の場合、以前監督した「シュヴァリエ」という作品でも毎回、原作の冲方丁さんに本読みに来ていただいていましたし、やっぱり会議に参加してもらったほうがやりやすい。アイデアを聞いてもらって、すぐにレスポンスをもらえるので、行き違いがない。お互いが納得した上で製作を進められます。
―― アニメは呎の問題もありますし、要素の取捨選択が難しいのでは? と感じられますが。
古橋 内容は、オリジナルをそのままでやるのが一番いいんです。媒体の違いによる表現の翻訳に注力できますし。物理的に内容と容れ物のサイズが合いませんよね。覚悟はしていましたから最善を尽くすだけです。
―― 「UC」も膨大な情報量のある作品ですから、第1話をまとめられるのは大変だったのでは?
古橋 駆け足に感じられるでしょう。ロンド・ベル隊もリディもアルベルトも、ざっくり削るしかなかったです。シナリオでは、ネェル・アーガマもダグザも削っていましたが、無理矢理場面を入れてしまいました。ユニコーンのデストロイモードが少しなのは許して下さい。カーディアスの父の想い出も入れたかったなぁ。あれがないと泣けないかもです。
―― 小説全体の印象は、そのように感じられましたか?
古橋 過去のガンダム作品のいろんな要素が溶け込んでいるんだなと。自分も原作付きのアニメの中で、オリジナルストーリーを作る時には違った要素は入れられないんです。過去にある原作の話をアレンジするとか、原作の要素を分解して再構成するとか、そういう作り方をすれば違和感は出ない。その中で、どう作品として立たせるか。いただいたものをどう扱うか、という難しさはあるんだなと思いますね。
―― 小説という媒体的な部分で、具体的な絵柄のがある漫画などよりはイメージが膨らませやすかったのでは?
古橋 小説の文字情報で表現されているものを、絵にしただけですね。挿絵もありますし、小説は小倉信也さんが作ったコロニーの仕組みなどの詳しい設定をもとに全体のロケーションを考えて書かれています。アニメも同じ小倉さんの雛形から、美術設定を起こしているんです。ただ、1話はインダストリアル7の端から端まで移動するために量的に限界を越えそうでした。
―― 一方でアクションは、小説以上の情報量があると感じられますが。
古橋 そこはメカ作画監督の玄馬宣彦さんのこだわりだと思います。アクションシーンは、玄馬さんが絵コンテにアイディアを足したりもしています。私が数コマで描いた動きを、より細かく描いてもらうという感じですね。たとえばモビルスーツのパーツ換装の場面でミサイルのツメが外れるとか。玄馬さんにはっきりしたイメージがある時は、彼の絵をコンテに切り貼りしている箇所もあります。
―― モビルスーツをアクションさせるという面で、今までの作品の経験がフィードバックされましたか?
古橋 メカ物の演出経験が全くないため、どう特性を活かしたらいいか。小説の描写を映像にするだけではなく、過去のガンダム作品で、武器などがどう使われていたかを踏まえるべきところは、玄馬さんに要素を足してもらっています。「ここでこれを出すと、ファンは喜びます」「このバズーカはこういう使われ方の流れがあって」と言われると、@ああ、そうなのか!」(笑)。勉強しながら進めていきます。終わる頃にはきっと詳しくなっているでしょう。
―― 福井さんは絵コンテの確認はされているんですか?
古橋 絵コンテは見てもらっています。絵コンテ的にリズムが悪くなると削ったり、足したり、入れ替えたりは発生しますから。1話に関しては数点直しがありました。そのうちのひとつ、オードリーがカーディアアスに謝る場面で、「オードリーはお姫様なので頭は下げません」と言われたのには、なるほどと。
―― モビルスーツの戦闘を描くにあたっては、どんな点に重きを置かれましたか?
古橋 第1話ではそれほどできていませんが、Gや遠心力などの加速度を描きたいと思いました。あとは、舞台が宇宙なので、なんとか「上下」をポイントで崩すとか。背中合わせの3機フォーメーションとか。宇宙のスケール感を損なわずに速さを出す為にカメラを振りまくるとか。メカを横移動だけでカメラが追うカットでは、画面が止まらないように背景を引くしかないのですが、星が近くに感じられてしまうのです。
―― 今回、監督はモビルスーツを乗り物として扱いたいというお話をお聞きしているのですが。
古橋 それもバランスでしょうか。ガンダムの場合、モビルスーツは兵器でもありキャラクターでもあるので、そこは使い分けていきます。「UC」でモビルスーツを手描きで描いているのは、それがキャラクターだからで、乗り物ならCGで描いたほうがいい場合もあります。手描きでメカが乗り物らしい作品としては「ボトムズ」が思い浮かぶのですが、「ガンダム」の中でどうするか、ということですよね。新作は3DCGが多くなっている印象です。どう見えました?
―― 第1話では、マリーダがコックピット内で衝撃に耐える場面など、キャラクターというよりは兵器としてのモビルスーツを強く感じました。
古橋 どう見えるか、何が喜ばれるかのか手探りでやっています。手描きの魅力を出せるカットは活かしたいです。とはいえ、「機動戦士ガンダム0083」の特に後半のエピソードを見てしまうと、メカ戦はすごいです。あとは劇場版「機動戦士Ζガンダム A NEW Translation」の新作部分もすごい。それと比べられてしまうのかなっていうプレッシャーはあります。
―― 第1話のジェガンの活躍は、ファン的にもかなり価値のある映像になったと思います。
古橋 現実の戦いって、計算できない要素がどんどん入ってきますよね。でもアニメでは、それをやればやるほどご都合主義的になってしまう。リアルな戦いっていうのは、本来アニメでは作りづらいですよね。だから、その中で面白くするには、駆け引きをきちんと描くとか、双方の戦術を判るようにして、見る人をハラハラさせるとかをやらなくてならないんですが、そこまでの余裕は正直ないです。でも現状の中で、最低限アクションとして見栄えを高めていかなければならないとき、双方一回でもミスしたら負け、という真剣勝負感が出ればと。失敗すればマリーダが弱く見えてしまうリスキーな賭けでした。
―― 最近のガンダム作品では、あまり見られない映像だったと思います。
古橋 アクションに限らずアニメの表現は難しいです。効果的な見せ方はやり尽くされていますし、新しい表現は、たとえ成立させられたとしてもなじみがない分伝わらないし。だから最近は「隠す」演出を心がけています。想像したくなるように組み立てるというか。アニメの快感も味わいつつ想像力も使っていただけたら。説明不足の言い訳みたいですね。理想は、まず良く判らないけど惹かれる感じがあって、考えていくと筋が通って印象が一変するみたいな。
―― ガンダム的文脈を「はずしていく」ことを考えているんでしょうか。
古橋 文脈もよくわからなかったりするんですが……。子供の頃からアニメを見てきて仕事にして、何をやっても人真似になっちゃって。人に喜ばれるのなら、それでも良いような気もするのですが。エンターテインメントに於けるサービスって何だろうとかよく考えます。お客様の満足が第一なのは当然として、ガンダムのような幅広い層のニーズにどう応えるか、自分の中に照合できる部分がないと上っ面になってしまいそうで。30年前に見たガンダムの面白さって何だろうとか。もし今それを多少なりと再現できたとしても、越えるものにはならないだろうし。せめてアプローチだけでも変えたいなと。
―― 結果的に、とてもガンダムらしい作品になっているという印象です。
古橋 まずは福井さんのガンダムを映像化させてあげないと。作品が輝くかどうかのキモは想い入れだと思いますから。技術や計算ではなく。今のところ、私の想い入れはムサイやザク、ガンダムのバルカン砲です(笑)。
―― それぞれの人の中のガンダムらしさが凝縮されて、「UC」はガンダムになっているのですね。
古橋 スタッフでも最年長のオヤジなんですみません。今でもガンダムのサントラを聴くと青春を思い出します。名に恥じない作品にするべく頑張りますので、よろしくお願いします。

本記事にてシナンジュのアニメ用背面設定画稿初公開。
また、カトキ版デルタが何故か載っていない系統図。変なの。ちゃんと旧版は別物として扱っているとこは評価できるが。あとリ・ガズィジェガンデルタプラスの開発順はどうなのよ。ソース出せ。