アニメージュ10年04月号 この人に話を聞きたい 第129回 古橋一浩 UC関係抜粋

―― それでいよいよ「機動戦士ガンダムUC」についてうかがいます。これはいつくらいからの参加になるんでしょうか。
古橋 私に話があったのは1年半くらい前です。
―― 今回はどのようなポジションで参加されているんでしょうか?
古橋 勉強しながらやっています。「ガンダム」どころか、メカ物初演出ですし。
―― (笑)1話を先ほど見せて頂いたんですけど、見事なくらいに「立派なガンダム」になってますよ。
古橋 全てスタッフの力ですね。私の「ガンダム」イメージって、機動戦士ガンダム」しかないんで、やった事はその香りをチョコチョコつけただけ。
―― 制作期間もたっぷりかけられているんですよね。
古橋 設定作りとレイアウトチェックで半年かっちゃってますね。原画チェックから完成までは数ヶ月で、TVとあまり変わらないんです。全スタッフで一気に仕上げた感じ。私のチェックミスもかなりあります。申し訳ないです。
―― 映像はゴージャスな仕上がりになっていますよね。
古橋 スタッフの力です。劇場で公開される事になりましたが、劇場作品の絵コンテじゃないです、コンテ自体は。小説を圧縮した脚本を最低限のカット数で内容を消化する事、数カット単位で設定が必要になる内容を、どうやって整理するかを考えるのに精一杯でした。作監の方のレイアウトが凄いので、見映えがよくなっていますけど。
―― なるほど。ご自身としてはどういった方向性で作られているんですか。
古橋 「シュヴァリエ」の時と同じく、小説の福井さんが脚本作りから参加されていますから、まずはその意向を100%実現させたい。プロデューサーも兼ねられたスタンスなので、それも理解した上で、でも「ガンダム」への想い入れは大事にして。私も今回は初心に戻ってモノ作りを一からやり直す気分です。そのチャンスをいただいたと心得ています。まずは福井さん始め、スタッフの信頼を得るところからですね。何かやれるとすれば、その後になります。4話の脚本は何か降りてくる予感がありますし。
―― 今の話と重複しますが、ご自身としては「UC」の1話の手応えは?
古橋 香港での試写あたりから、客観視できるようになりました。作画力と声、音楽で形にしていただいた感が。やむなき事とはいえ、キャラの掘り下げが全く足りないです。色んなモノを犠牲にしたはずなのに、カーディアスに感情が乗らない。せめてあと1分、20カット使えれば、布石が打てるのに。
―― 完成品は、予定より17分ほど長くなっているんですね。
古橋 ないものねだりの限界です。内容と容れ物のサイズが違いすぎて。でも、当初から分かっていた事なので、更なるスキルアップを図るしかないです。後半に全力を尽くします。
―― 当面のお仕事は「UC」でしょうけど、その後の展望はいかがですか。
古橋 もう1回、オリジナル作品を作れたら本望です。
―― 「RD」みたいな関わり方でという事ですか。
古橋 はい。オリジナル作品で、趣味や思考的なものを表現できる作品であれば嬉しいです。漠然とですが、第二次世界大戦前の大陸ものをやりたいというのがあるんです。景山民夫さんの「虎口からの脱出」みたいな。「追憶編」が維新前夜の話だったし、「シュヴァリエ」はフランス革命前夜。私は、イベント前夜の空気が好きなんです。スパイが暗躍して、色んなものがジワジワと動きだす。そんな緊張感で1本作れたらいいなって。大連とか絵になると思うし。
―― 監督としてフィルムを作る事と、フィルムに自分の考えを織り込むのは、別の事なんですか。
古橋 バランスなのだと思います。若い頃は、自分が心地良いと思うフィルムを作りたいという気持ちが一番でした。客観性がなかったと言うか。でも「餓狼」オンエアされた時に、CDプレゼント付きで感想を募集して、視聴者から千枚単位のハガキがきたんです。それを見せてもらったら、四国に住む主婦の方からのハガキに「たまたま観たんですけど、凄く面白かったです。ありがとうございました」と書いてあって、ほとんどのハガキは定型文でしたが、それは素の感情に思えて、自分の中でチャンネルが切り替わったんです。「一生会う事などないだろう人が、それも、きっと自分と立場も趣味も違う人が、面白いと思ってくれる作品が作れたんだ」と思える、その喜びの大きさは自己満足の比ではなかったですね。不特定多数の人達に発信するマスメディアって、凄いなと思いました。そこからは嗜好が細分化してきている現代だからこそ、根源的な部分に働きかける力のある作品を作りたいと思うようになりました。でも、その力は自らの内からだすしかないんですよね。計算やリサーチ、借り物では上っ面にしか書かないから。原作物を長くやってきての実感でもあります。
この仕事を始めてからずっと考えている命題、それは演出ってなんだろうって事です。現時点での解答は、映像演出とは「力(伝えたい意識)とバランス」かなと。あらゆる、技法の上位にあるもの。目的と手段の関係なので、容易く入れ替わりがちですが、その自覚を忘れず、今しばらくはこの仕事を続けていきたいと願います。
ガンダムUC」よろしくお願いします。
(2010年2月18日 東京・サンライズにて)