「機動戦士ガンダムUC」第1巻 STAFF INTERVIEW#02 古橋一浩

―― まず、「UC」に参加したいきさつについてお聞かせください。
古橋 2008年の春頃に、サンライズから声をかけていただきました。これまでメカものは一回コンテを描いた程度だったので、依頼が来たことには不思議な感じがしました。
―― これまでの「ガンダム」シリーズに対しての印象はどのようなものでしょうか?
古橋 「機動戦士ガンダム」や「機動戦士Ζガンダム」「機動戦士ガンダムΖΖ」はリアルタイムで観ていたと思います。「機動戦士ガンダム」を観たときは、今までのロボットアニメと違って、設定やドラマの部分が、幅広い年齢層の観賞に耐えられる奥深さを持っているなと感じましたね。
―― どのような流れで「UC」の制作に入られたのですか?
古橋 まずは小説を読んで、その物量に驚きました。これをどうやって映像にまとめようかと。当時はまだ最終話まで達していなかったので、結末までプロットをいただいたあと、気になった箇所を福井さんに確認する機会を何度か持たせていただきました。その中で、福井さんにも(ストーリーを取捨選択する)大ナタをふるっていただいて、シナリオ段階からかなり細かいところまで決めていきました。基本的に分量を削るしかない状況だったので、小説で描かれた表現をいかに映像でこなしていくかが最大の課題でした。物量を削りつつも、キャラクターやストーリーの強度を保ちつつシェイプアップさせていく作業を、神経質に進めていきました。例えば、シナリオの段階ではダグザのシーンを削っていたのですが、彼の存在感を出すために、登場場所を変えて描写したりしました。
―― 映像面で難しかった部分などはありますか?
古橋 悩んだのは、戦闘シーンの見せ方ですね。第1巻ですでに手札を使い切ったような印象すらあります。例えばクシャトリヤのファンネルの飛び方ひとつでも、一番これがいいんじゃない? というものが決まってしまうと、なかなか新たな方法を考える労力や時間が取りづらくなりますね。とは言っても、これから5巻分あるので、新しい方法とまでもはいかないですが、アングルなどを工夫できればと思います。ただ派手にやるのではなく、ちょっと見せたあとはちょっと抑え、飢餓感があるところではパッとわかりやすく見せるなどのメリハリが重要だなと考えていますね。
―― 「UC」は、アニメ的な演出を避けた絵作りがコンセプトにあるそうですが。
古橋 そこもメリハリですね。すべてをリアルにしてしまったら、やはり動きが重くなってしまうし、効果がなくなってしまいますから。ロボットアニメ的な部分も当然あるとは思います。
―― バナージがユニコーンガンダムに乗り、始動するシーンにCGを使っているのが印象的でした。
古橋 ユニコーンガンダムのウリとして、“変身する”というのがあります。映像でそれを表現するために、今回はCGを使ったんです。大きなケレン味のある、アニメ的な映像ではなくて、おもちゃ的なギミックを正確に可動させる意図があったので。(ガンダムという)キャラクターをCGで扱ったことに懸念ももちろんあったのですが、手描きではどうしても効果が見えづらかったです。
―― ナレーションやテロップも使われていませんが、これはどのような意図でしょうか?
古橋 できれば最後まで使いたくないです。ナレーションやテロップで説明されると、情報の送り手と受け手に客観的な距離を意識させていますような気がするのです。理解を義務づけてしまうというか、そういった強制を外し、関心や好奇、疑問を持って視聴者に映像の世界に入っていただいて、画面の隅々から情報を読み取ってもらうことで伝えられるものがあるのではと考えています。
―― 実際に第1巻を制作してみて、どのような感想を持ちましたでしょうか?
古橋 メカもの演出をするのが実質はじめてだったので、メカとキャラを組み合わせるのがこんなに複雑なのかと。ひとつのカットを二重、三重にチェックしながら仕上げていくので。でもアップした絵をみると、そんなに密度が濃いというわけでもないので、絵の収まりや配置を、ロジックではなくて、生理的に正しいかどうかを検証する作業だったと思います。あとは、今回は制作に1年を要してしまったので、それは短縮しなければならないと考えていますね。
―― 最後に、購入していただいたファンへ向けてメッセージをお願いします。
古橋 第1巻を買っていただいたので、その後も続けて購入いただければというのが監督しての願いですね。作品そのものがメッセージなので、それを言葉にするのも戸惑ってしまいますが……ただ、全6巻ということで、最終的な印象は、小説とはニュアンスが違うものにしたいです。小説とは異なる、映像作品ならではの終わり方を提示できればと。そのことで、小説のダイジェスト版ではなく、イーブンのものとして成立している作品にしていきたいと思います。