「機動戦士ガンダムUC」第1巻 STAFF INTERVIEW#01 福井晴敏

―― 「機動戦士ガンダムUC」がついにアニメ化されましたが、その感想をお聞かせ下さい。
福井 やっとここまできた、という一言につきますね。具体的に「UC」というタイトルで始動したのは2006年ですが、それまでの準備を含めると6〜7年ですからね。ようやくお見せできる状態となってほっとしていますし、本当に頑張ってくれたスタッフにありがたさを感じています。
―― アニメ化に際してどのような立ち位置で参加されたのですか?
福井 今まで携わってきた小説の映画化とは違って、「UC」のアニメ化に関する僕の言い出しっぺ率は非常に高いんです。なので、まずこちらに課せられた任務としては、「UC」の小説を商業的にも内容的にも失敗させないことでした。また、アニメ化の際に古橋監督やスタッフと話していたのは、アニメが現在置かれている状況から逸脱する作品を作ろう、ということでした。今のアニメ業界は、すでに咲く場所が決められていて、それを観に行く人も決まっていて、どんなにきれいな花も一般の人たちの目に届かない状態なんです。でも最初の「ガンダム」は、実写映画や小説のように、アニメでもドラマが作れると証明したコンテンツなので、それを突き詰めた絵作りをすることで一般にも届くものにしたいと。ただ、いざ作り始めてみると、それは作りやすさを放棄していることに気づきました。結果的に、かかる作業量や重圧、人的作業の膨大さには悩まされましたね。
―― 小説をアニメーションにまとめていく過程を教えてください。
福井 脚本のむとうさんには、当時5巻まで進んでいた小説を読んでもらった上で、そこから先のプロットをお渡ししました。その後はスタジオで、膝を突き合わせながら確認作業を山ほどしましたね。プロローグの部分をはじめ、様々なシーンを省略したりカットしたりしたのですが、それでも第1巻の脚本の初期段階では90分以上ありました(笑)。そこから削る作業を、僕や古橋監督が判断しながらやっていきました。
―― かなり密度の濃い、情報量の多い映像になっていますね。
福井 「UC」は繰り返し観る中で全貌が見えてくるスタイルを採っています。第1巻もすでに盛りだくさんな内容ですが、カーディアス・ビストバナージ・リンクスの感情ラインはきちっと描かれていて、これがぶつかってはじめてガンダムが動き出す、という重要なポイントを押さえることができました。だから、背景に何が起こっているのかわからなくても観られるし、次も観なきゃという気持ちになると思います。
―― キャストの配役にもかかわられたそうですが。
福井 主要キャストは最終候補のテープを聞いて、スタッフと一緒にセレクトさせてもらいました。でも、意見がわかれることは少なかったですね。難しかったのは、声って、ひとり単体で決めては問題があって、会話する相手とのバランスが重要なんです。そういう意味では、バナージ役の内山昂輝さんの地が強い声と、オードリー役の藤村歩さんの凛としつつも土臭さがある声のバランスは絶妙でした。
―― 福井さんは「∀ガンダム」のノベライズ「月に繭 地には果実」も担当されていましたが、そのときと「UC」執筆時で心境の違いはありましたか?
福井 心境はまるで違いました。「∀ガンダム」の頃はデビューしたばかりで、作業が楽しかった記憶しかないんです。終生無縁だと思ってたサンライズガンダムにかかわることができたし、作家として活動していくために大切な、若い読者と繋がることもできたので。でも「UC」にはゼロからかかわっていて、途中で止めることも倒れることもできない。その責任というのは、今までに経験したことがないくらい重かったです。執筆作業そのものが異なるわけではないですが、「書かなきゃならない」というプレッシャーは圧倒的でした。
―― 「宇宙世紀」シリーズのガンダムを愛するファンにとって、「UC」はどういった作品になりそうですか?
福井 僕くらいの世代って、子供の頃、義務教育のようにガンダムを観たり、プラモデルを買ったりしていたと思うんですけど、今は父親になっている人も多いと思います。ガンダムから遠ざかった人もいるでしょうが、「UC」は我々の世代にとってはひとつの“夢”と言っていいでしょう。青春時代を伴走した「機動戦士ガンダム」から「機動戦士ガンダム 逆襲のシャア」のその先として、最新技術や外伝からの情報も採り入れた「UC」がある。つまり「UC」は、あなたが見た夢の一端でもあるんですよ、と言える作品にしたいですね。
―― 今後の展開と購入していただいたファンへのメッセージをお願いいたします。
福井 ポスターに出ているシャアみたいな人は、第2巻に登場します。もちろん、シャアみたいな声で(笑)。迫力ある戦闘シーンも増えるでしょうし、第1巻以上の密度になると思いますので、これからも「UC」の世界を楽しんでいただければ幸いです。