ガンダムA10年04月号 古橋一浩インタビュー

―― 古橋監督が、「ガンダムUC」のアニメ制作を始めるにあたり、まず何を気にされたのでしょうか?
古橋 フル・フロンタルの立ち位置です。
―― 具体的には?
古橋 今回のテーマは父性です。それを統一することで、ニュータイプ、次世代に託す願いが身近に感じられるようになると理解しました。でも、フロンタルはその埒外にいる気がします。その実体をお聞きした所、福井さんは、シャアの悪い部分を受け継ぎ、バナージが乗り越えていくべき存在だと。やはり難しいです。自分が演出する為には、解る部分と憧れる要素が欲しいなと。
―― では、それをふまえ、アニメーションでの着地点が見えてから制作に入られたのでしょうか?
古橋 せっかくシャアのような姿と声を持ったキャラを描ける機会を与えられたのですから、後悔のないようにしたいです。
―― クシャトリヤスタークジェガンの一騎討ちでは、作画の密度も高く、剣劇的な演出もあって、引き込まれていくようなシーンでした。
古橋 最初の戦闘シーンなので、キャラにも有機的繋がりを出せたらと、うち一人をリディの同期生にする案を脚本のむとうさんにいただきましたが、物理的に無理すぎて即却下、今の形になりました。評判良くて結果オーライです。
―― スタークジェガンパイロットも同様ですが、MSの動きから、乗る人の焦りや感情が伝わってきました。
古橋 今回は詳細に描く呎がありませんので、設定にあるギミックを見せるだけで精一杯です。このシーンに限らず、行間を想像できる最低限のカットで構成しています。説明的なせりふも減らしていますし、スーパーやナレーションも入れずに行きたいです。年長者向けのOVAでなければ許されない作り方ですが、作り手と受け手が対等な真剣勝負をする気分なんです。ギリギリのせめぎ合いですね。本当に大切なコトは説明では伝わらないと考えます。言葉って偽るのも簡単ですし、ここぞという時に効果的に使いたいなと。
―― オードリーは口をハンカチでふくシーンがそれとなく描写されていて、そのさりげない所作に気品があります。
古橋 ハンカチはコンテの指示ですが、包み紙をたたんでしまうのは原画さんのアドリブです。呎は伸びましたが、効果は大きかったのですね、有り難い事です、感謝。
―― バナージに対して、大人の代表となるのがカーディアスですね。
古橋 カーディアスは1話の主役です。自らユニコーンに乗ったり、息子の、初めて(?)の告白と失恋を目の当たりにしたり(笑)。元軍人らしく体術を披露したり。
―― 試写会のトークショーでも、この作品は“父と子のガンダム”とおっしゃってました。
古橋 はい。冒頭、カーディアスはサイアムを許します。その心奥はサイアムから託されたモノを自ら果たしたいと願った筈です。自身がニュータイプであれば良かった。その悔しさが「UC計画」の原動力だし、一見、説明的に聞こえるジンネマンとの会話は、自信の存在証明でもあります。本気で託したい、という心の表れです。それを感じたからジンネマンは引き金を引かなかった。親父のドラマです。
―― そういう目線で見ると、カーディアスの気持ちが凄わかります。
古橋 で、全ての希望が潰えたと思ったら、息子が最高の状態で引き継いでくれた。身近な例えだと、ガンプラ等のガンダムコレクションをやむなく処分しようとしたら息子が引き取ってくれた様な正に父と子のガンダム(笑)。
―― たとえばミコット視点とか。常にバナージに視線を送り、計3回走り去られています。内1回でも引き留められれば、ミコットがヒロインのドラマになったかもとか。現実的ですが。
―― そして気になる第2話に向けてはいかがでしょう?
古橋 フロンタルとシナンジュは当然として、リディ、アルベルトも本来のキャラクター性が出てきますし、アンジェロもバナージをイジメます。戦闘シーンは1話よりも多いかも。ユニコーンガンダムは高速戦闘やビーム・マグナムの5連射。マリーダに関しては、パラオの坑道の教会でのシーンやギルボア家の食卓でのエピソードが描かれます。制作は佳境に入っています。秋まで忘れずに待っていて下さい。