TOYSUP!#03 ミスターセンスオブワンダー富野由悠季監督に聞く 再び宇宙へ

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――新約『機動戦士Ζガンダム』の劇場版3部作、『リーンの翼』を挟んで、新作アニメとしては本当に久しぶりに総監督を務められているわけですが、まず『ガンダム Gのレコンギスタ』というのは、どのような経緯で誕生したのでしょうか?
富野 5年ほど前――ガンダム30周年に向けて何か新しい作品を作りませんかという話がサンライズからありました。
実は『∀ガンダム』を作ったときに、しょせんアニメ監督としてはここまでのものしか作れなかったという自分なりの反省があって、体を壊したことも重なってひどく落ち込んだ時期がありました。ですが、そうやってまた声をかけてもらったことで、まだ何かできるかも知れない、もう一度やってみようという気持ちになり、引き受けることにしたわけです。
最初の3年くらいはなかなか企画が思うような形にまとまりませんでした。どうしてもガンダムの枠にとらわれてしまうというか、むかし作ったものに似てきてしまうんです。このままでは、これまでのガンダムと大同小異なものしかできない。そこで、思い切って発想を変えるために、いったん自分がいちばん苦手なもの、嫌いなものに目を向けてみることにしました。それが宇宙エレベーターだったんです。
――地上から衛星軌道まで延びる長大なリフトで、ロケットを使わずに物資や人間を運ぶ新しい宇宙進出の手段として考えられているものですね。
富野 日本にある宇宙エレベーター協会の会員になって、そこで行われている実験を見せてもらったりして、いろいろと勉強してみたんです。そうすると初めの予想通り、どう考えても現在の状況のままでは実現するのは難しいことがわかりました。少なくとも100年、200年はかかるでしょう。
しかし、現実には実現不可能なものでもフィクションの世界なら、SFなら、アニメなら描くことができる。そう思ってあれこれ考えているうちに、宇宙エレベーターを全地球的な交通機関として捉え直してみると、そこには物流が生まれ、物資だけでなく人の移動と交流が生まれ、経済活動が発生するというふうにいろんなものがつながっていきました。
もちろん、宇宙エレベーターは他のSF作品にも登場しますし、ガンダムのシリーズで扱ったものも見ています。でも、僕はそれらとはまた別の描き方ができるのではないかと思いました。その意味も含めて『G-レコ』では宇宙エレベーターを『キャピタル・タワー』と呼んでいます。キャピタル=資本ということで、この言い方が『G-レコ』の世界観を象徴していることがおわかりだと思います。とはいえ、これまでのガンダム・ワールドにそのまま宇宙エレベーターを成立させるのは整合性に乏しいので、宇宙世紀の次の世紀を舞台にすることにしたんです。
宇宙世紀の間、人類が覇権をめぐって戦争を繰り返したために人口は激減し、地球そのものもすっかり荒廃してしまった。そこで人類は宇宙側から宇宙エレベーターを建設し、そのエレベーターをつないで軌道上に張りめぐらされたレール網の周囲の居住区に移り住んで、疲弊した大地と自然が再生するのを待つことにした。そして千年の月日が流れ……というところから物語が始まります。
――ファーストガンダムでは地球の環境をそのまま宇宙に持ち出す、つまりスペースコロニーの中に再現するという発想でしたが、当時でも無理と言われていましたから、それに比べてより経済的というか、むしろ現実的なやり方のような気がします。
富野 実は宇宙世紀以後の世界にしたのは、そうした設定とガンダムワールドを組み合わせるために引き続きミノフスキーフライトが必要だったというのが大きな理由です。同時に、宇宙世紀スペースコロニーの生き残りというか、残党のような人たちが月の裏側に拠点を作っていることにして、これと『キャピタル・タワー』の対立抗争のドラマが作れると考えました。
それ以外にもうひとつ、金星のあたりに水のコロニー、海のコロニーというものを設定しています。人類が地球を離れて宇宙に住んだとして、生命維持という意味合いの水だけでなく、心理的な面においても海を必要とするのではないかと思ったからです。規模としては直径100キロ、深さ150メートルの薄い円盤状になっていて、この平べったい水の塊が宇宙空間に浮かんでいる絵柄を思いついたとき「これでいける!」という手応えを感じました。宇宙に海が浮かんでいるなんていうバカバカしい設定、まだ誰も映像にしていないでしょう。これは自慢していいよね。
――それは早く見たいです。映像ならではのインパクトがありますね。
富野 水深150メートルというのは潜水艦が行動可能な深さから割り出した数字で、宇宙を背景にして潜水艦が出せるんです(笑)。また、海の底の方には膨大な量の水を支えるための構造物を組んであるので、その間を縫いながらの戦闘シーンも見せられる。というふうに、どんどんイメージが膨らんで、自分でも面白いと感じられる新しい世界観が作れたと思いました。
また、この海のコロニーはただビジュアル的な仕掛けというだけでなく、新しいエネルギー論として『G-レコ』の物語に大きく関わってきます。3.11の震災以降、原発をめぐっていろいろと議論されていますが、一刻も早く原子力に代わる恒久的なクリーンエネルギーを手に入れないと人類は次の世紀まで生き残れない。我々がそうした切実な状況にあるということも物語の背景として取り入れました。
――タイトルのレコンギスタは「レコンキスタ(Reconquista=再征服。キリスト教徒による国土解放運動)」からの造語ということですが、深読みすると、富野監督としては自分の手で“ガンダムを取り戻す(再生させる)”といった意味合いがあるのでしょうか?
富野 さすがに今回はそういうことは考えていません。ガンダムだけれどもガンダムでないものを作ります。ガンダムだと思いたい人はそう思っていただいて構いません。ですが僕自身は「G-レコはG-レコだぞ」と言い切れるところまで行っています。こうして企画を進めてきて自分でもびっくりするくらい、その自信はブレていませんね。
いまサイトやイベントで公開されているプロモーション映像を見ても、皆さんが違和感を持つようなものになっていると思います。巨大ロボットものなのに、なんで泣いている女の子のアップが出てくるんだよって。その時点でお見せできる素材が間に合わなかった、足りなかったということも理由としてありますが、とりあえずあるだけのカットを使ってつないでみたら、結果として「これがG-レコだ」といえる映像になりました。もし、もっと選べる素材が多かったら、あれこれ考えて、そこそこまとまりのあるものにしかならなかったと思います。
そこで思い出したのが、ファーストガンダムのときに一番最初にファンが食いついたのが、フラウ・ボゥが爆風で吹き飛ばされるシーンだったことです。それがまた今後の作り方のヒントにもなりました。確かにあのプロモーション映像を見ただけではわかりにくいかもしれませんが、そのわかりにくさが僕にはファーストガンダムと同じ手触りに感じられたから、いまの時点では結構うまくいったのではないかという確信を持っています。
――出ていたロボットに顔がないようにも見えるところが、やはり富野監督らしい演出だなと思いました。
富野 それはアニメと関係のない、ふだんはスニーカーを作っているような他の業界のデザイナーが参加してくれているからです。正直に言って本当にアニメにしにくい、アニメーターが描きづらいデザインで、その点では大げんかもしましたけど、そういったスタッフ・ワークも含めて、慣れや自家薬籠中のものに陥らずに外に向けて作る、アニメの外にいる人たちにも触られるようなものを作らないといけないということは心がけました。
このガンダムの35年の流れを見てきて思ったのは、当たり前だけどファンも年を取るんだということ。いつまでもそういう人たちのためだけに作っていたのでは新しいものは生まれない。極論を言えば、いまの観客、これまでのアニメファンやガンダムファンに見てもらう必要は感じていません。ですが、その子供や孫の世代、もしかしたらアニメなんて見たくもない、興味がないという子たちにも「見てもいいかな」と思わせるような要素はいろいろ盛り込んでいるつもりです。
――3月21日に「東京アニメアワードフェスティバル2014」で行われたトークセッションの席上でも「アニメ好きだけを相手に作っていたらアニメに未来なんてあるわけない」「次の時代を担う子供たちに向けて作る」と持論を展開されていましたね。
富野 そうは言っても70歳を過ぎた爺さんに、10代の子供たちが見てうけるような、わかりやすくて面白いものが簡単に作れるわけはありません。だから今回は力押しで行きます(笑)。わからなければわからないなりに「ん? なんか変だぞ」と思って、少しでも引っかかるものを感じてくれればいいのです。
――それにしても、富野監督はずっとロボット・アニメを作りながら作品ごとに新機軸を取り入れていて、今回の宇宙エレベーターのように毎回突っ込んで勉強されている。その若々しい好奇心と熱心さにはいつも驚かされます。
富野 だって、そういうこともできなかったら年を取った意味がないじゃない。もし、こんなお爺ちゃんアニメ監督の仕事を評価してくれる人がいるなら、わざわざ宇宙エレベーターを取り入れたこともあわせて、自分の好きなものや人だけで作品を固めて満足していない、そういうフットワークの部分を見てほしいと思います。
――放送を楽しみにしています。ありがとうございました。


なお、富野監督は自身が所属するクリエーター集団<オオカゼノオコルサマ>とアメリカの制作会社、レガシー・エフェクツの提携による新作劇場アニメを監督予定。現在、多忙なスケジュールを縫って準備を進めている。つねに前作を超えようというチャレンジを怠らない富野監督が、『Gのレコンギスタ』に続いてどんな世界を見せてくれるのか、大いに期待したい、


2014年3月25日(火曜日) 上井草サンライズ本社3階第一会議室にて収録。

キャピタルタワー側は、ベルリたちがメガファウナにいることを考えると、アメリアも含まれるか?
TOYSUP!には小田雅弘氏の連載もあり、今号はHowto〜のジオングについて。他号も購入予定。MSVに絡みそうなネタがあれば記事にします。