GUTS81年5月号 やしきたかじんと富野喜幸

富野 今回、ファンの方の熱望と松竹映画さんの力で映画化でき、ほんとに嬉しいんです。まず、「ガンダム」についてお話しますと、この作品はデザインの安彦良和さんはじめ、原作などすべてがオリジナル作品なんです。主人公のアムロ少年が、現実に対決しながら自立していくことを軸に展開します。ぼくたち制作者の間では、少なくとも子供向けロボット・アニメだとは思ってないんです。そういう点が、ファンの方にも理解していただけたと思いますが……。で、TVから映画になると、あのTV主題歌は、いちばん「ガンダム」らしくない。だからこそイメージにあった曲が欲しいんです。
やしき なぜ谷村新司になったんですか?
富野 いわゆるアニメ・ソングの人なら楽ですよ。でも「ガンダム」は違うと、そう考えていたころ、谷村さんの「昴」が大ヒットしていて、スタッフの間では、ぜひお願いしようと。
やしき 谷村のことは知っていたんですか?
富野 テレビの歌番組を見たくらいです。が、アリスというグループの生き方には大変興味を持っていたので、正直言って、恥をしのんで会いにでかけたんですよ。
やしき 第一印象は?
富野 我々が彼の作品から感じたイメージとピッタリでした。この人なら信頼できる。この人ならどう考えても“行けー! ガンダム”は作るはずがないと、信じちゃったんです。
やしき 谷村もまったく知らない世界だから、とても迷ったらしいが、富野さんが作るならと納得しちゃったと言ってましたね。
富野 谷村さんに引きうけてもらって、次は誰に歌ってもらおうかと、2〜3人候補は出て、その中にやしきさんもあったんです。
やしき ぼくは、昔から漫画もTVも見ない男で、「ガンダム」といわれても比較の基準がなくて、すごく不安でしたね。ほんま、どうしようかと。
富野 やしきさんのLP「明日になれば」のA面1曲目を聞いたとたん、この人にしようとひらめいたんです。その時、写真を見てうーん、ヤバイと思ったけど(笑)。それは、それで……。
やしき ずーっと、ガンダムおじさんみたいなイメージを持ってたわけ。でもやろうと決めて、実際に谷村の曲をテープで聞いて、また悩んだわけ。
富野 ぼくらはそのテープを聞いて、やはり思ったとおりにできたじゃないかと、確信できましたよ。
やしき ぼくには、こういう世界に入っていけんとちゃうやろかと。そういう人が歌っては、失礼になるし。で、こういう詞を作らせる「ガンダム」って何だろうと、知りたくなったんです。レコーディングまで富野さんにお会いできなかったし……。
富野 ちょうど制作の最中だったんです。
やしき 結局、1回目のレコーディングはダメだった。「祈りを越えた愛だけを……」とか言葉でわかっていても、その世界に入れなくてね……。声なら出せるけど、それじゃダメなわけだし。
富野 スタジオにいて、やしきさんの気持ちは、とてもよくわかっていました。
やしき 1回失敗して、やっと2回目でレコーディングしたわけですが、今考えると、自分自身の歌作りの面で、フッ切れたような気分です。12月31日に谷村と仕事で会ったんです。「どうだった」と心配してくれて、できたテープも聞いてもらったんです。「良くあがってる」と言われて、作者が納得してくれたと、ホッとしましたね。
富野 完成してみて、谷村さんに曲をかいてもらい、やしきさんに歌ってもらったのは、間違いじゃなかったなと、満足しています。
やしき ほんとに「ライリー……」にはまいりましたよ。ぼくなら「ラララ」でもいいわけ。でも谷村は「ライリー」でなくちゃいけなかったんだし、ほんま、谷村新司の世界やな……。
富野 そう思います。
やしき こんな苦労して完成した「砂の十字架」を、これからステージでもどんどん歌うつもりです。予告をみて、たしかに今までのアニメと違うなって感じましたね。
富野 映画でもこの曲はエンディングで流れるんですが、予告編は、一体「ガンダム」って何だろう、そんなことをマニアのファンだけでなく、一般の方に見て欲しいという願いをこめて作ったんですよ。
やしき 富野さんは、アニメの世界に入って、どれぐらいですか?
富野 もう18年ですよ。
やしき 一体何人くらいで制作するんですか?
富野 正確にはわかりませんが、「ガンダム」には300人くらいのスタッフがいるでしょうね。
やしき アニメ・ファンの間で、富野さんは神様的な存在とか聞きましたが……。
富野 嬉しいですね。アニメの世界は、、ずっと日陰の存在だったんです。そのアニメのスタッフの中で、一人でもそういう人が出ると「俺たちも太陽の下に出られる」と、みんな思えます。制作は、チーム・プレイしかありませんが、みんな「有名になろうね」が合言葉。スタッフのためにも、「ガンダム」はチャンスでした。
やしき ぼく個人のことを言うと、大阪から東京へ去年8月に出て来たんです。どこまでやれるか、白か黒かハッキリさせようと。ダメなら自分に何も無かったんだと。そう思ってる所へ、この「ガンダム」の話が飛び込んできたんです。そしたら、もう走るしかないですよ。
富野 まったく、その通りですね。
やしき 富野さんとは、生き方もやってることも違うけど、自分の中に夢を持って生き続ける迫力を、お会いしてものすごく感じましたね。なんか「ガンダム」の念力で東京へ呼び寄せられたのかもわからへんね(笑)。
富野 そう思って下さると、スタッフとして大変にありがたいですよ。TVで43本のを、2時間ちょっとの映画にできたわけで、ぼくもこのチャンスに賭けました。まだ結果がどうなるかわかりませんが、あらゆるスタッフに感謝してます。もう、谷村さんに会えただけでも嬉しいですよ、やしきさんとこうして接触できるチャンスもね。
やしき この曲がヒットしたら、新しいぼくの世界を知ってもらうつもりです。