ペントハウスジャパン01年12月号 初代ガンダム検証ファイル 富野由悠季インタビュー ファーストガンダムばかりがなぜ今でも人気No.1なんですか?

なぜ今ガンダムか? 監督自身の分析。

―まずは突然の取材依頼を受けていただきましてありがとうございます。
富野「いえ、ここ1〜2年ぐらいのファーストガンダムのこと、つまり20年前のことを強制的に思い出させられるインタビューばかりで、正直そういうのがもう苦痛だったんで、今回も最初は『断れ』と言ったんですが、質問内容を見せていただくとアニメ雑誌ではなかなか聞かない内容で、自分なりに考えたこともありましたので、これは受けてみようかと思いました(笑)」
―「なぜFGのガンダムやザクがいまだに人気が高いか」という質問ですね。まぁ、こういう質問を監督に直接聞いちゃうようなことは、アニメ雑誌ではないでしょうね。こりゃ、オタクじゃない素人の質問ですから(笑)。
富野「しかし、僕自身興味深く感じられました。なぜなんだろうと。公式的には簡単に答えられます。『いわゆるリアルロボット路線といわれるものは、FGがオリジナルだから』ということです。この分野を開拓したのはFGが最初だから、元祖は一番強い。だから今でも人気がある。それだけです。しかし注意して考えてみると、どうもそれだけじゃない。その裏にあるのは“時代が追いついてきた”ということではないかと思い浮かんだんです。ここ2、3カ月での出来事があってのことなんですけど」
―なるほど、FGの先駆的な面が、21世紀になって、さらに受け入れやすくなったということですね。
富野「と、思われがちなのですが、違うんです。むしろ全く逆なのかもしれないですね。そんな偉そうな考えじゃない。もっと情けない理由だったりするんです」

素人がハシャゲる時代だからガンダムがウケている!?

富野「どういうことかというとですね。確かにガンダムとザクという2つのMSは、確かに先駆的なものを持っていたかもしれません。作品世界における象徴として、ある意味入念に考えて作ったものですから。しかしほかのMSは、そうじゃないんです。ドムやジオングは、アイデアに煮詰まった大河原さんをアシストすべく、僕が適当にでっち上げたものが元でしたから。当時は大河原さんがほかの仕事もたくさん抱えていたので、半分監督の職権乱用もあるんですが、僕が“もう一人のメカデザイナー”をしないわけにはいかなかった。そういやっていわば“やっつけ仕事”として、ドム、ビグ・ザムジオングなんかは生まれたわけです。でもそういうドムなどが、ペントハウスのアンケートでは上位を占めているし、おもちゃ的にも今でも高い人気を誇っている。これはどうしてかというと、“素人がビジュアルに手を出して面白がれる時代”になったからではないかと思うんですよ。つまり、例えば今はフォトショップなど使えば、素人でも簡単に印刷物やホームページを作れますよね。中身は昔のガリ版刷りの地下出版物やカストリ雑誌、同人誌と同レベルのものに過ぎないのに、技術の進歩によって、それなりに見栄えがあるもののように見えてしまう。そしてそれをいいとする。そういう風潮が出来上がったから、メカの素人の僕が作ったドムも、大河原さんにキレイにしてもらっただけで、さも傑作の一部のように受け取られてしまう時代になったのです。まぁ、それでも僕の作ったものは造形的にいっても、そんなに悪い出来ではないとという自負はありますがね。ドムなんかはとくに(笑)」
―最近のお気に入りはビグ・ザムだとか(笑)?
富野「ビグ・ザムいいですねぇ。今度の仕事場にもビグ・ザムのフィギュアは置いてありますからね。まだ椅子もロクにそろえてないスタジオに、ビグ・ザムはあるという(笑)。FGの放映当時は作画がいい加減で、そんなに良くは見えなかったけど、立体になったのを改めて見て、『コレこんなにカッコ良かったのか』と感動しています」

ガンダムをありがたがるのは子供じみてません?

―FGのMSデザインが「ビジュアルが素人にも一般化してきた時代だから受けている」とは、ご自分の作品に対して非常に辛口な意見だと思うのですが、監督自身「機動戦士ガンダム」という作品は、好きなものといえるのでしょうか?
富野「好きか嫌いかでいうと、これはもうかなり好きですね。僕は幼いころからずっと宇宙にあこがれていました。それを取り巻く科学技術にも。一方で映画作りというものにも魅せられてしまった。その両方の思いいれが、アニメ業界に入って20年目にようやく結実したのが『機動戦士ガンダム』、FGだったわけです。それまでのものは、SF考証がドラマを破壊し、ドラマがSF考証をないがしろにしていて、ロクな作品がなかった。唯一僕が愛せたのは『鉄腕アトム』ぐらいでした。SF]とドラマをニュートラルに上手く表現できれば必ずいいものが出来るという確信のなかで、MSの設定も労せず仕上がりました。工業製品として、兵器としてリアルなロボット。MSそのものがある意味ひとつの狙いでもあったんです。とはいえビジュアルとしてそう先走ったものではなかった。だから僕は、ガンダムをありがたがってくれるのは、こちらもありがたいのだけれど、それはちょっと子供じみていませんか? と言わざるを得ない。見ている側だってバカじゃない。そのうち気づきますよ。愛着があるから生き残りはするだろうけど、ガンダムはやはり過去のものです。それに引きずられないで、みなさんに立派な大人になってほしいものですね」

体が大人なら、大人をやってみせろよ(富野節)

―そういえば、今度公開される「∀ガンダム」は、「カウンターガンダム」なんて呼ばれていますね。FGではなく∀だからできたことはありますか?
富野「ここ4、5年、変な事がたくさん起こったりして、とにかく日本中のなにかが“キレ”ているという気分がありますよね。それに対して『ちょっと違うぞ』と手ぐらいは挙げたかったという気分が創らせたものです。でもFGを全否定するだけでは∀は生まれなかった。アニメに限らず、全否定しながらも全肯定するというニュートラルな考えがあってこそ、ネクストがあるのだと思います。そういう自意識を持った大人であってほしい。体が大人になったら、大人をやってみせろよ、ということです。で、その上でFGのファンでいてくれるなら、こんなにうれしいことはない。60に手が届こうとしてるこの年で、いまだロボットアニメの現場にいる僕にとしては、本当にそう思うのです」

∀についての富野発言キャプション

  • “キレ”た時代にもの申したい!
  • 会心の出来
  • フジテレビには、本当に全くの自由にやらせてもらえてよかった

欄外の富野発言キャプション

  • これからの時代、視聴者は、もっとビジュアルへの警戒心が強くなってくるんじゃない?
  • どうせ見るなら気持ちのいいものを見たい。ペントハウスのグラビアだって一緒ですよ。

当時のスタジオはおそらく2スタのこと。ビグ・ザムのフィギュアはMiA!。