AVANTI 10年9月18日放送分

ナレーションに被って聴こえず。
福井:俺の人生を狂わせ、他にも多くの人の人生に相当の影響を与えている「ガンダム」なんですけど、一番元になったのって、何なんだろう?
富野:元? 簡単だよ。テレビまんが映画の仕事をやってるんだったら、地続きの映画の仕事をしたかった。で、絶対にいつかやってみたいと思ってた。ロボットものでも出来るかもしれない、と思ってた。それだけの事。それだけの事だけども、僕にとって重要なのは、実際にやってみた時に自分でもの凄く納得した事は「自分にはこれだけの力がある」ではないの。やっぱり世間はこうなのか、と思ったのは、まっさらで作る事は出来ない。それで、映画ってのは資本金が要る訳だから、こういう場があって、利用すべきものもあって。例えば「巨大ロボット」ってのは映画を作る上では邪魔なのよ。邪魔なんだけれども、これを使ってみせるって事があったから作れたんであって「巨大ロボット」っていう「アイテム」というのか「グッズ」というのか、「小道具」というのか。一番穏当な言い方は「メカ」なんだけれども。使わざるを得ないという状況があって、それに映画らしい物語を貼り付けていく、っていう作業をやってみたら、ひょっとしたら、自分が作りたいものを作る以上のものを作れてるかもしれない、っていう感触があったのね。
福井:あー、なるほど。
富野:それは初めてファーストガンダムのテレビ版をただ再編集したもので映画版三本作っちゃった時に、「三部作」っていうのはさ、白紙で映画屋さんが撮らせてくれるか?
福井:よくやりましたよね。
富野:それがテレビ版があってだけでないの。ひょっとしたら自分があまり好きでなかったかもしれない人型の兵器を使って、っていう条件があったから、それを覆い隠すために一生懸命実は色んな物語を貼り付けているわけ。「ガンダムを活躍させる」じゃないの。「ガンダムを目立たなくする為」にどうするかと言った時に、人の方の話もかなり強力なものを置かなくちゃいけない、っていう時で。併置させる、っていう事を思いつく訳ね。その作業をやってみたら「あ、自分の思いの丈だけで、映画を作れると思うな」っていう事が本当に分かった。それで別の材料があって、それから別の環境があって。その上に自分の、言ってしまえば出来るドラマ、みたいなのを貼り付ける事で、映画は出来てくる。そうすると、今度は映画っていう入れ物を見た時に、ひとりの監督の好みだけで、映画作られたらきっと凄いものになるかもしれない。人型の兵器なんて、ルックスが大きく見えたり正義っぽく見えたりして。これは良い事だよね、と思って、この事を実を言うと実写にも当てはめる事が出来て。この役者とこの役者とこの役者を使って、映画を撮ります、って時がある。この役者、この役者って言った時に、人間っておそらく余程寛容な人でない限り、20人の役者が全部好きだとは限らない。まず好きではないよね。好きなの一つや二人。後はしょうがないから使ってる。ところが、実はしょうがない人も集めて作るから、実を言うとワンカラーでない訳。
福井:まぁそういうことですよね。世界が見える、って事ですよね。
富野:そう、見えてくる。だから、ああ、この役者とこの役者を組み合わせた時の物語ラインというのは、、自分の物語ラインで考えているのとは、ちょっと違ってくる。だけど実を言うと、違ってくるところが映画としてとか、見世物として面白くなってくる、という事が理解出来る様になった時に、初めから、例えば自分の監督作品だと思って、画を撮っちゃうという迂闊さをしないで済んだ、っていう事を教えられたので。映画にこだわって良かったよね。映画にこだわった時に、巨大ロボットものを使うにしても、おもちゃ屋さんの思っていようが、実は映画のストラクチャーにはなっていない筈なの。特にガンダム三部作あたりは。だけど、なってないんだけども、実は、だからこそ、映画になってるからこそ、おもちゃ屋さんのCM番組とか、CM映画とか言われないで済んだ。その事が結果的に良かったんであって、端からおもちゃ屋さんのCM用の映画を作ったら、年度決算の作品にしかならない。
福井:まぁそうですね。
富野:すると、僕作品のとても重要な所というのは、年度決算しないで生き残ってく要素があるっていうものが、映画なんじゃないのかな、って思うと、僕みたいな人間、テレビアニメから始まって良かったなぁ、ていう風に思ってるし。それは映画にこだわってただけの事で、その映画論も今言った通りの事で。そんなめんどくさい! なんとかかんたらではない訳、
福井:しかしあれですよね、映画論ってもうよく、話をお聞きするんですけど。言う割には、あんま映画観てないッスよね。
富野:うん、観てないよ。
福井:映画に対する憧れっていう言い方は違うかもしれないけど、興味っていうものは、発生したのって何がきっかけなんですか?
富野:ないと思う(笑)。
福井:ない? なくて何で追い求めてるんですか。
富野:やっぱり理想じゃないからさ。自分にとって。しょうがなくって映画科に行っちゃったって事もある訳よ。
福井:しょうがなくて?
富野:他の大学にいけなかったから。
福井:あぁ、映画の学校って事ですね。
富野:だから、映画学科にしか行けなかった。
福井:じゃあもし行けたら他どういう道が?
富野:何言ってるの。僕が本性的に好きなのは東京大学工学部航空学科です。
福井:あぁ、そうかそうか。宇宙に行きたい人だったんだ。
富野:そうそう。だから、全部そこからの落ちこぼれなのよ。僕は。
福井:その後、入った所は虫プロだった訳ですよね。
富野:だけども実際に虫プロ辞めてフリーになった時に、他の仕事始めてみると、後発部隊でやってる連中の方が実を言うとスキルが上だったり、そうじゃなくて、むしろ海千山千でやってきたから「凌ぎ力」みたいなものが彼らの方にやっぱり遥かにあるとか。作りの凄さというのが分かってくる。もっと分かってくる時のとどめと言うのが、高畑・宮崎。両旗手の出会いよね。東映動画生え抜きの演出家・アニメーターに出会った時に「ゲッ」と思う様な事は、やっぱり「ゲッ」と思えるだけになってないと、「ゲッ」と思えない訳。というのがあるから、やっぱりガンダムが出来る様になったのよ、という。

CM

福井:ガンダムって、ここまで来ちゃうと、作った人にももうどうにもなんない所って当然あってですね。監督が最初のガンダムを作って嫌だけどその後Ζガンダムを作って、もっと嫌だけどΖΖを作って…、っていう、あの流れっていうのは、監督がなまじね、作るっていう事に対して、自分の中で満足をもし、しながら作ってたらとしたら、ああいう話には絶対なってなくて。もう前の奴に対してどう反論してやろうか、っていう、ある種その時その時の反射神経で作っていった事が、結果的にお話の世界っていうものが、世の中の歴史と照らし合わせた時には、とても整合性が取れて見える。
富野:うん。
福井:だからその世界を利用して、今を照射する物語を作ろう、っていう。これもまた、最早一つのガンダムのあり方として、もう出来ちゃってる訳です。ビジネスラインとして最早。
富野:あ、ビジネスラインとしては行ってるでしょう。だけど、それはビジネスとしておやりになれば良い、と僕は思う。平気で言える。
福井:平気で言える?
富野:平気で言える。そして「それでは生き残れないよ」。僕は生き残りたいの。うふふふ、簡単に言っちゃうと。「ガンダム」ってタイトルもここまで来たら、もおう30年は生き延びさせたい。生き延びさせたい時に、どうするかと言うと、ビジネスシーンの年度決算論に付き合ってると、おそらくね、あと5年もしないで潰れるのよ。
福井:まぁそうですね。
富野:だから、現在進行形の事も含めて、年度決算論だから、それに興味を持たないで済むという所にお陰様で来ました、5年くらい前から。だから、ガンダムを装ってるかもしれないけれども、ガンダムと違うものを作っていくという所のものをやっぱり探す作業を、本当この数年やってきたつもりだし。それをやってくると、映画とか、映画ってのは実を言うと作品を作るって事です。作品を作るという事は、分かりやすく言っちゃうから「文芸的」という風にとりあえず言っときます。これは文芸から言ったら本当に怒られる事なんだけれども。つまり文芸的に作品を作る、って事は、上手くしたら100年ぐらい生き残るのね。だってこれは年度決算論じゃないもの。って時に、次の「富野のこのガンダムだったら、21世紀の冒頭に出てきた作品として、良く分かる」そういう輪郭のものを作っていきたいなぁ、っていう風に今、こういう風に言えるし。現にこうやって今、初めて口にしてみたんだけれど、この話を今。きっと間違いないだろうな、という事も分かってくると、何て言うのかな…。今現在こうやって、予定としてある、来年度くらいまでの予定含めてなんだけれども、僕に関係ないのよね。関係ないとこにいられる、っていうやっぱり自分はありがたいし。で、何を言いたいかと言うと、ビジネスでは考えてない。それだけの事。今のガンダムシリーズとか、ガンダム系の作品ってのは、基本的にオンビジネスの中での年度決算論でしかないから、これは1/1の立像も含めて。制作ポリシーも含めて、理念も含めて。そんなのこれから作る、30年保たせる、作品には基本的に関係ない事で。土壌としてはあって良い事だし、とてもありがたいフィールドではあるし、マーケットでもあるんだけれど。僕はそれはマーケットとしか捉えませんよ。時代性・表れとしては捉えるけれども、そうしないと絶対生きていけない。どうして? 我々は「作品」を作るプロダクションだからです。今の大人たち、もう60に手が届きそうになる大人たち男たちがね、本当にそろそろ分かって欲しい事があるのは、どうも我々がきちんと物事を見て観察をして、つまり理解をして。次の10年20年の為、っていうものを考える訓練を、どうも我々はしてこなかった。そうすると、アニメの世界でガンダムワールドのレベルで、コミックワールドの世界でやってる事なんて所詮可愛いもので、そりゃあ現実に関わらない事だから、まだお好きにやって良いんですよ。僕が今、ここまで話をして、やや上手に話せるな、と思ったのは、次のガンダム的な作品でやろうとしている事が、次にガンダムを観てくれる世代が、そういう考えるべきもの、っていうテーマをもうちょっとだけ味付けとして、作品の中に乗っけてく様な事をすれば、日本人の悪い癖というものを、もう少しだけ自己検証出来る様な、そういう世代にもなってくるんじゃないのか。やっぱりそろそろきちんと、観察し、判断し、次に行く、っていう風にしようよ。つまり「時代性」っていう所に取り込まれていたり、年度決算論が全部だと思ってたら、みんなで死んでくぞ! っていう話をする。そういう物語を作っていきたいな、っていう風にまたなってきたんで。今日までのビジネスシーンに現れてる仕事はもう福井君たちの世代の為に死守して、あと10年ぐらい保たせてくれって。その間に次の、次の、ガンダム? を作るからよォ! って(笑)。
福井:その為に稼ぎます(笑)。
富野:っていう言い方をしておきます。それで「そうか、お前がそう言うんだったら、ちょっと50億くらい出してやろうか、って出資者がいらしたら、是非!」
福井:毎回額上がってますね(笑)。
富野:上がりました?
福井:ええ。こないだ20億でしたからね(笑)。
富野:そっか(笑)。