ガンダムA 09年12月号 Ring of Gundam BackStage 秘められたそのポテンシャルを探る

人の“柔らかさ”をもつガンダムの誕生

西井「3DCGでガンダムをつくるにあたり、僕はこれまで映像やゲームで描かれてきたガンダムとは異なる存在感を表現しないと、30周年記念映像としてのミッションを達成できないだろうと考えていたんです。けれど、富野由悠季監督は僕たちと着眼点がまったく違っていました。僕らは一ファンとしてガンダム作品を見てきた、いわば受け取る側の人間なんです。富野監督はという発信される側なんですね。踏み越えるべき限界も到達するべき目標も、オリジナル・スタッフの視点では全然違うことを知りました」
――富野監督から提示されたコンセプトは、シルエットや動きも含めて柔らかい人間的なマシンであることだった。
早野「最初はソリッドで、もっとRX-78-2ガンダムに近いシルエットだったんです。それを富野監督のオーダーに従って、装甲に丸みをもたせ、プロポーションを変えていきました。リアルなディティールよりも、シルエットとして見たときの形に富野監督はこだわられていましたね」
――完成した映像を初めて見た早野さんは「インパクトもすごく強くて、何かを期待させるのがいいですよね。正直もっとみたいなって思いました(笑)」と。西井さんも富野監督の演出家としてのエネルギーに改めて感嘆したとか。
西井「今回、短い映像であるため、断片的なシーンで構成されていますが、完璧に富野監督作品になっていますよね。新しいコンセプトが隅々に全部盛り込まれていると実感しました」

  • 「ロングショットではガンダムに見えつつも、近くに寄ると関節などの可動部が、最新の機械工学を基盤にした構造になっているんです。アニメでは“箱”の胴体も、このデザインではパネル状の装甲が複数並んでいます。これはパネルが個々に動くことで、ひねりなど人体の自然な動きを可能にしています」(早野)
  • これまでのMSのイメージに僕たちは囚われがちなんですが、富野監督はそこがまったく自由なんです。ガンダムだって別に装甲が厚いとは限らない。むしろ戦闘機のように軽量・高機動なほうが兵器として有能かもしれない。だから18mの物体が自在に飛ぶ、それをデザインで実現してほしいと言われました」(西井)
  • 足には無重力空間で体を何かに固定させるためのツメもあります。補助用のスラスターも関節など全身に設置されています」(西井)

富野監督と3DCGの幸せなマリアージュ

河口「30周年記念映像の監督を富野さんにお願いすることは企画当初から出ていました。監督は『3DCGでフォトリアルな世界をつくれるからといって、過去を振り返るような映像にはしたくない』ということでした。たとえば『ファースト・ガンダム』の1話目を3DCGで再現するのはまったく意味がないと。打ち合わせで早い段階から『リングコロニー』というアイデアが出ていて、それをキーワードに『ガンダム』ワールドの遠い未来で起こったようなお話へとまとめていきました」
――30周年記念映像は「実験、チャレンジ」というコンセプトが掲げられていて、今回一番のトライアルは「人物カット。作成に実写を用い、富野監督自らが役者に対し、演技指導をしたこと」(倉澤)。富野監督による指導の下、役者が演技をし、映画のようにアングルを決めてビデオ撮影。3Dアニメーターは、富野監督が演技指導をするメイキングも含め、すべての映像を視聴し、実写をガイドに手付けでキャラクターを動かした。さらに監督は、CG制作過程で修正を加えていった。その過程を経ることで「Ring of Gundam」という作品の隅々にまで監督の演出論が行き届いたフィルムとなったのである。
倉澤「失礼な言い方かもしれないんですけど、撮影現場でも富野監督はみごとに“監督”だったんです。実写であろうがアニメであろうが変わらなかった。役者と対話しながら彼らの意図を引き出し、その人の個性や身体性を活かしつつも、自分のめざしている芝居に着地させている。僕らの想像以上の結果でした」
河口「今回、収穫だったのはまずROBOTさんとコラボレーションができたことですね。それと富野監督がつくる映像の可能性が見えたこと。常に躍動感のある映像をめざす富野監督の特性と、CGはマッチするはずなので、またチャレンジできたらと思ってます」