SPA!02年03月12日号 ガンダムを「俺のものだ」と言い張るのはエゴでしょう 富野由悠季インタビュー

原作者である富野由悠季総監督は現在のガンダム人気の状況をどう見ているのだろうか。
「現状については何もありません。僕以外の人が手がけたガンダムについては意見を持ちませんし、商品については関係者のビジネスだと割り切っていますから」
そもそも最初の『ガンダム』の原作権は30万円で制作会社に譲渡されたという。それが富野監督の割り切りを生んだのだろう。
「原作権を買い取るというのは、当時のロボットアニメの現場としては、それが普通という状態だったんです。でも、むしろ気分がどん底になったのは続編の『Ζガンダム』のときですね。職業監督ならこういう仕事も引き受けるべきかと思って引き受けましたが、あのとき、既にここで引き受ければ今後10年間ガンダムを作り続けることになるとも思いました。今でこそ“番組提供してもらったおかげでガンダムが続くことができた”ということも言えるのでしょうが、当時としては『子供のため』とも『作品のため』とも言わないでビジネスのことだけ考えている関係者ばかりで、暗澹たる気持ちになったものです。その枠内でどうやって自分を守ろうかと考えて、ノベライズを書いてポジションを明確にしようとしたんです。そのあたりの気分が作品に出ていて、その後の僕のガンダムは歪んでいます。今の若い人にはそんな不健康なものを楽しむな、と言いたいぐらいです(笑)」
しかし、ガンダムはもはや一つのブランドだ。どうしてこれほどまでに人気を得られたのだろうか。
「ロボットものに“リアルとの接点”を持ち込もうとしたのが『ガンダム』です。そのときに持ち込んだSF感覚や、ロボットをMSと言い換えるセンスが、違和感なく当たり前に感じられるようになったからだと思います。当時は『MSと気取っても所詮ロボット』とそっぽを向かれていましたからね。それがもはや“クラシック”になったということかもしれません。クラシックになったから、すぐに消える心配がないので安心して好きになれる。もちろんそこには趣味がちょっと幼稚になっているんじゃないの? と言いたい気分はありますが……。でもメーカーから送られてくる商品を見ると、優れたデザイナーの手を離れて愛されるように、ガンダムも僕の手を離れたな、とは思います。それは新しいビジネスを見せてもらえて、嬉しく思います」
では果たして、ガンダムはボクらの文化たりえるのだろうか。
「戦後、コミックやアニメといったビジュアル面でのサブカルチャーが発展してきましたけれど、まだ幼年期の段階です。幼年期の段階だから、突出した作品があるといろいろと面白がってはしゃぐんです。この躁状態から数十年かかってようやく文化と呼べる作品が出てくるんじゃないでしょうか。リアルとの接点があるガンダムは、はしゃぐときにマテリアルとして誰もが使いやすかったのでしょう。だからガンダムは文化とは呼べないと感じる部分もありますね」


ちなみに、CMでガンダムのセリフが使われたときの気持ちは「いい気持ちだった。クリエイターはちやほやされるのが好きだから(笑)」とのこと。