QUESTION98「父から受けた暴力が忘れられません」
東京都/ひかり
私は幼い頃から、父に暴力を受けてきました。父は異様に短気でした。(中略)今でも思い出すと怒りで手が震えます……。
あれから20年は経ちますが、暴力を受けたことに対する傷は、ふいに痛みを伴い、辛い記憶として甦ります。理性では父を許すべきだとは思いますが、感情ではゆるせないよ自分自身に訴えてきます。もう過ぎたこととはいえ、まだ父より謝罪の言葉をもらえていない私の心は、すぐに過去に戻ってしまいます。(中略)さすがに私が成人してからは手をあげることはありませんが、父の怒りは言葉の暴力となり、やむことはありません。
その一方で、私は人との時間は有限であることも知っています。父と一緒にいられて生きられる時間も有限であり、別れる時もやってくることを知っています。ただ、今後どのようにしていけばよいのか――。例えば、自然と時間が解決してくれるのを待つのか、それとも、精神的に血を流すことを覚悟で父と対峙するのか。(中略)。
思うがままにつらつらと書いてしましましたが、何かいいアドバイス等を頂ければ幸いでございます。自然の順序を踏んで親子の人生を全うできるというだけでとても良いこと。過去のトラウマを理由にせず、自分の人生にきちんと向き合うことが大事!
結論を先に言います。20年間、お父様もひかりさんも、犯罪者にならなかったというだけでも、大変良い成果が出ていると思います。このままで良いのではないでしょうか。
この結論だけ聞くと、簡単なことのように思えるかもしれませんが、今、日本では家庭内暴力が頻発しているし、尊属殺人の事例も多い。そういう中で、あなたはこの20年間、お父様を殺さなかった。それは、ひかりさんが一方的に耐え忍んできた結果かもしれないけれど、お父様のほうも、たとえどんなに馬鹿な親だったとしても、我が子との対し方くらいは考えたことはあると思いたいですね。ひかりさん自身も書いているように、人生は有限ですから、このままお父様が先に亡くなっていくというのは自然の順序だし、その順序を守れるというだけでもかなり良いことだと思います。
むしろ僕が気になるのは、過去に暴力を振るわれたという事実をトラウマとして掲げることで、いろんな問題の免罪符にしている気配があることです。この20年ほど、日本社会に蔓延している考えでもあります。だから、ひかりさんも、トラウマを理由にして人生から逃げずに、今日やるべきことをきちんとやるという生活態度を獲得することが大切だと思うのです。
僕がこう言えるのは、ひかりさんの問題がこの手紙の書き方に現れているからです。これだけの文章が書けるにしては、便箋の使い方も、書かれている文字も、宛名の書式まで含めて極めていいかげんです。このだらしのなさをまず直しなさい。お父様の暴力を理由にしてはいけません。
ひかりさんは本当はかなり几帳面な方のはずなんです。それは、この切手の貼り方からも想像できます。1円切手2枚と18円切手を組み合わせて20円分にしているのですが、その細やかな作業はかなりのものです。漢字の使い方を見てもかなりの学力を持っているし、便箋5〜6枚になるくらいの内容を3枚に圧縮して書くことができるという集中力も持っています。
ひかりさんがこういったアナログ時代の良い気質を身につけているのはひょっとしたらこういうお父様がいたからこそ身についたことなのかもしれません。そう考えると、お父様のすべてを恨むというのは、逆恨みなのかもしれないという言い方もできます。
だから、まずはひかりさん自身が成人女性として、生活全般にわたって身だしなみを整えて生活していくことです。手紙に書かれていることを理由に、能力がありながら身を持ち崩してしまうというのは、年寄りから見た時に一番ずぼらな生き方のような気がします。明日のために自分が何をやらなければいけないか、意思決定をもって日常生活に臨んでいけば、良い明日が獲得できるでしょう。