電撃ホビーマガジン 10年6月号 MSV-Rインタビュー

――:元祖MSVから関わっていたスタッフとして、現在の「MSV-R」にはどのように取り組まれているのでしょうか?
草刈:画集「原典継承」を出す時に、大河原さんにMSVを描いてもらったらって編集部に僕が提案したことがこの企画の発端だったんですよね。そこから「ガンダムエース」の連載として企画が立ち上がって。かつてのMSVでやり残したこともありましたから、それも拾っていきましょうよと提案してます。ジム・キャノンの足の装甲が外れることとか、当時も模型で誰もやってくれなかったんで。
川口:ジム・キャノンの足の分割式装甲とかは元祖MSVの設定に携わった小田雅弘さんが蒔いておいてくれた種ですよね。気付いた人が作ってくれればいいというものだったんだけど、30年近く誰も作らなかった。
草刈:やっぱり絵がないと作らないのかなぁ。だったら絵が欲しい。そういうところから企画は始まったんです。小田さんが蒔いておいた種は拾いつつ、新しいMSVを模索していこうじゃないかと。大河原さんは30年近く「MSV」って描いてこられなかったんですよね。頼んだ僕としても意外でした。
大河原:「SEED MSV」なんかはあったけど、元祖MSVに連なるものとして一年戦争のバリエーション機を描くことはなかったね。自分でもまさかもう1回できるとは思ってなかった。この頃は「ヤッターマン」なんかもまたできるし、良い時代です。
――:長い年月を経て復活したMSVにどのように取り組まれているのでしょうか?
大河原:要は新しいことをやったらMSVにはならないわけですよ。30年たった歴史というものはあって、それを踏まえはするんだけど、あくまでイメージとしては30年前のものじゃないといけない。歌手が巧くなって懐メロを歌うと興醒めされるみたいなものでね。もうちょっとハードな部分を入れたほうがいいのかと迷った時もありましたが、開き直って当時の気分でやったほうが見て下さる方も昔を思い出せて一番いいんじゃないかなって。幸い、タッチはさほど変化してないんで戻りやすいですし。
草刈:ただデザインとしては最近のキットの可動部分を多少は意識されていますよね。
大河原:やっぱり認めざるを得ないよね。あそこまで技術が進歩しちゃうと。あとは元祖MSV当時は忙しさに追われながら描いていた部分があるので、それが修正できるのはありがたいです。
――「MSV-R」を立体化するにあたって、モデラーに一言あればお聞かせ下さい。
川口:プラモデル化や完成品をお望みの方もいらっしゃるでしょうが、最初からそれを主眼において取り組む企画ではないんで、まずは自分でいかに作るかを考えてみて欲しいですね。アイデア出しの段階で、既存のキットを使って作れそうなライン、ちょっとした改造なんかで作れそうなものというのを織り交ぜて欲しいという話はさせてもらているんです。それがモデラーの皆さんが自分で作るきっかけになればいいなと思って。
大河原:ガンプラブームの時代はキットがまだ未熟だったから、自分で手を入れることが当たり前だった。そういうのがないと寂しいからね。
川口:ただモデラーさん個々人の環境の違いもありますから、「こう作らなきゃいかん!」というのは厳しい。その点MSVは発表されたものが絶対の正義だとは思わないで済む、自由度が高い企画だと思うんです。例えばザクG型だったら「地上用ザクの決定版」で「足はグフに近い形状」という大枠はあるわけじゃないですか。だったら、自分で作る際には足はイラストとまったく同じ形状にスクラッチしなきゃいけないわけじゃなくて、グフのパーツをそのまま流用したっていいのかもしれない。設定の大枠を外さないなら、楽しみ方に合わせたいろんな形があったっていいと思うんですよ。
草刈:思った形にならない個所に独自の設定を追加して自分なりのエクスキューズをつけるっていうのも楽しみ方の一つですしね。違う武器を持たせてみたり、付随する物語を自分で考えてみたりするのも楽しいし。
川口:商品の単価が上がってるから、作ろうとしても昔に比べれば無茶なことができってのはあるかもしれませんが。
大河原:でも失敗したって結果がすべてではないんだから。私なんかも自分で金属を削って立体物を作ったりしていると、やっぱり作っていく工程っていうのが一番楽しいんですよ。どうしたら自分が思っている形になるか、どうしたら一番合理的な組み立て方になるか、そういうものに興味があるんです。結果にこだわらずに手を動かしてみて欲しいですね。
草刈:僕は手を汚すのが楽しいんで、今はキレイに仕上げるのがガンプラのスタンダードですが、ぜひともウェザリングやダメージ表現なんかにチャレンジした作品も見てみたいですね。