電撃ホビーマガジン 10年6月号 川崎ヒロユキ インタビュー

――まず、どのような経緯で作品に携われたのでしょうか?
まさに青天の霹靂でした。勇者シリーズ黄金勇者ゴルドラン)が終わりまして、しばらくボーっとしていたんですが、そこへ高松さんから「ガンダムをやるんで手伝ってくれないかな?」って連絡があったんです。それから2日後ぐらいに高松さんが僕の仕事場に来てくださったんですが、その時点ですでに「戦後」っていうキーワードは決まっていました。
――高松監督の中で具体的なコンセプトは決まっていたんですね。
そうですね。ただ最初から細かく世界観を作るのではなく、書きながら決定していこうという方向になりまして。そこから先は、マイクロウェーブとか月とか、必要な要素を決めていきまして、とにかく1話をあげたんです。タイトルは、第一稿の時点から「月は出ているか?」。唯一、予想外だったのは、高松さんが「サブタイトルを全部セリフでやろう!」って言いだしたことですね(笑)。
――セリフのサブタイトルは、本作にとって重要な要素になっていますよね。
でも僕は当初、反対したんですよ。サブタイトルに規則性を付けるのは、よほど幅がないと本当につらい。でも実際にエンディングの後にセリフが出てくるのを見たら、かっこいいんですよね。だんだん、僕も楽しみになってきました。ただ、タイトルにふさわしいセリフがない話数もあって、苦労したこともありました(笑)。僕が好きなのは第6話の「不愉快だわ……」ですねぇ。劇中の一番いいシーンに、このセリフがくるんですよ。毎回、そうなるとよかったんですが。
――当時はG、W、Xと、いわゆる宇宙世紀以外のガンダム3部作が続くわけですが、中でもXはストレートなメッセージ性のある作品という印象を受けます。この方向性はどこから導き出されたのでしょうか?
まず「機動戦士Vガンダム」というご本家の富野監督作品から始まって、続く「機動武闘伝Gガンダム」はあれだけ突き抜けた内容になり、「新機動戦記ガンダムW」は女の子の人気がすごかった。「このあとはどうするんだよ?」って話になったとき、「じゃあオーソドックスにやればいいんじゃない?」ってことになりました。飾り気がないぶん、商売的に苦しんだところもあるんですけど、反面、今DVDで見てもオーソドックスな作品の強みというか、普遍性がありますよね。
――それだけに今も熱狂的なファンが多い作品と言えますね。
ガンダムのフィルムの中で、一番いいところをやらせてもらったんじゃないかと思うんです。制約もなかったし、かといってサービスシーンみたいな部分も考えなくてもよかった。すごく楽しかったですよ。毎回、本読みが終わったら、高松さんと昔のガンダム話をして盛り上がっていましたからね。「ガンダムファンクラブかオレたちは…」なんて言いながら(笑)。
――もともとガンダム好きという点が、随所にちりばめられている「機動戦士ガンダム」の要素につながっていくのでしょうか?
ファーストガンダムって、シナリオ作劇術の見本としても素晴らしいものじゃないですか? 一年シリーズものの教科書。あれほど完璧な構成はないんですよね。でも当時、作劇的な素晴らしさは評価されていないなって思っていたんです。「ガンダム」をやらせていただくなら、ぜひそこは取り込みたいと思っていた部分ではありました。
それにファーストガンダムの要素をエッセンスとして入れることで、ファンの方には「ガンダムだ!」ってすぐに理解してもらえますからね。
――とはいえ本作の場合、ただのオマージュではなくifとしての可能性を追求していますよね。
ファーストガンダムを見ていた中高生時代のようにはいきませんからね。いい年齢になって、仕事としてガンダムに携わりましたから。そこはプロの物書きとしての一年戦争の向きあい方、っていう部分が結構出せたかなとは思っています。
――ファーストガンダムを意識しつつも、序盤はまったく宇宙を意識させなかった点にも驚かされました。
とにかく戦後のガンダムって考えた瞬間に、高松さんと僕に「まず最初に宇宙はないな」っていう無言のコンセンサスがとれていたんです。じゃあ宇宙は冒頭の回想シーンだけにしようって。とにかく後半は宇宙っていうことだけは決めていました。……なんだか「黄金勇者ゴルドラン」みたいなんですが(笑)。
ただ、無政府無国家状態で宇宙へ行くのは大変なことです。組織として行くのか、個人として行くのか、そこは悩みました。ガンダムって、重力に縛られた人たちと、そうじゃない人たちっていうテーマがありますよね。じゃあ重力の縛りを食らった人たちがもう一度、宇宙へ行くのはどうだろうと思って、その象徴として新連邦軍に宇宙へ行かせる力を持たせたんです。
もうひとつは、惚れた女をとことん追いかけるような奴にも、宇宙へ飛んでいってほしかった。とにかく、ガロードが宇宙へ行くなら、政治や設定だけじゃダメだねって話になりましたね。24話あたりから内容が固まってきまして……。
31話は、「書いてみてダメだったら何度でも書き直します」って言ったんです。やっぱりガンダムの世界観で、男の子が女の子を追いかけて宇宙へ飛び出すのはありなんだろうか? って悩みましたからね(笑)。いろんな意味でガンダムを壊しちゃいそうだったので……。それぐらい、宇宙へ行くのは特別な話にしたかったんです。
――ファーストガンダムの要素の中でも、ニュータイプというキーワードは特に難しい題材だったのではないでしょうか?
そうですね。ただ、個人的には「ガンダムはMSとニュータイプだろう」という気持ちがあったんで、触れるつもりでいました。そこで、カリス・ノーティスが出てきたとき、この作品におけるニュータイプを決めようっていう流れになったんです。途中まではフロスト兄弟も、どちらにしようかって迷っていたんですよね。
――その迷いが「カテゴリーF」という存在にさせたんでしょうか?
ニュータイプの設定が、二元論になっているのがもったいないと思っていたのは事実ですね。その狭間にいる人たちもいるはずですから。
――狭間ゆえの劣等感が、彼らを走らせる……という点はとても人間らしく映りました。
これはニュータイプに限ったことではないんですよ。戦後はいろいろなものの狭間にいて、過去を引きずった人たちがたくさんいたはずなんです。ニュータイプになり損ねた人、戦争をやらせてもらえなかった連邦の偉い人……。国も宗教もチャラになった世界ですから、一番原始的な欲求にのっとって動くと思うんですよね。
――そうした中で、劇中のニュータイプに対する結論はどのように導き出されたのでしょうか?
当時は「ガンダムを卒業する」みたいな話をよくしていたんです。自分が10代のころに影響を受けた、ファーストガンダムという作品のテーマ性を卒業しようって考えていたんですね。そこから導き出した答えだったと思います。とにかく一度、ニュータイプは存在しないってことにしないと、前に進めないんじゃないかって。当時としてはチャレンジだったと思います。「ガンダムX」は、そういう答えを見つけ出す作品なのかなって気がしますね。
――ニュータイプという言葉は、一種の呪縛だったのではないかと思えました。
そこはいろんな答えがあっていいと思うんです。アニメーションを見た後で、「答え」を探す作品って、最近はあまりないですよね。「おもしろかった」や「つまんなかった」っていう作品を見たあとの気持ちの中に、「答えを探す」っていうカテゴリーが少なくなってしまった。答えは、時代ごとに変わっていくと思うんです。今考えると、ニュータイプに対するまた別な答えが出ると思いますね。
――さて、今回、HGAWというシリーズでガンダムXが登場します。物語を作る上で、ガンダムXはどういうMSでしたか?
サテライトキャノンは大変な武器ですが、少年の持つ荒々しさや、決して引いてはいけない引き金という部分がテーマに合うと思ったんです。とにかくこれを撃つときは、最高の盛り上がりじゃないといけない。そういう意味では使いづらい武器を持っていますが、お話を作りやすい機体でした。
――それからディバイダー、ダブルエックスと主人公機はバージョンアップしていきました。
ディバイダーのハモニカ砲は、無鉄砲なガロードがフリーデンという共同体に入ったときに、安易にサテライトキャノンのような武器は使わないってことに対する象徴のようでもありますよね。機体のバージョンアップは、ただメカが新しくなるだけじゃないと思うんですよ。キャラクターにも影響を与えないといけない。それこそフロスト兄弟の機体がバージョンアップしていくっていうことは、劇中で彼らのポジションがバージョンアップしたってことなんです。単に「機体が変わりました」っていうだけでは、断じてメカモノとは呼べないと信じております。
――川崎さんはモデラーとしても著名ですが、今回のHGAWの印象はいかがですか?
はじめて見るんですけど、久しぶりに会ったかなって感じがしますね(笑)。とにかく良く動きますし、プロポーションガンダムXの足の長さがよく再現されていると思います。ミラー面のモールドもうれしいですね。昔のキットを作ったときは、いらなくなったCDを切り取って、ミラー面に貼り付けていたんですよ。当時は「ガンダムX」のシナリオを書いちゃ「ガンダムX」のプラモを作る……という状態でしたね(笑)。B-CLUBで模型のコラムもやっていたので、まさにガンダムづけの一年でしたね。
――川崎さんなら、どのように作りますか?
ジオラマですね。自分がシナリオを書かせてもらったんで、劇中の再現をやってみたいです。あとは汚しですね。ただ陸戦の汚しって現代の軍隊の雰囲気なんです。もっと物がない時代の雰囲気というか、塗装もボロボロでさびているようなガンダムXを作りたいですね。
――最後に、今回のHGAWを待ち望んでいたファンに、メッセージをお願いします。
かつてのガンプラブームのときは、悪しき抱き合わせ商法がありました。でも、今ブームを体験した人はいい大人ですから、自ら抱き合わせをお願いしたいです。ガンダムXを買うついでに何かを買う。ガンダムでも車でも戦車でもいいので、自主的に抱き合わせしてください(笑)。それぐらい大人の余裕で遊んで欲しいですね。私も3つは買うと思います。保存用、妻用、遊ぶ用です。ダブルエックスじゃなくてトリプルエックスになっちゃいますが(笑)。

現在、ハンドマペットツインテールの原型を製作中、とのこと。。