オールタイム・ベスト 映画遺産200 富野由悠季が語る「心に残る珠玉の映画10本」

大半のコメントは半ページなのに対し、御禿他切通等4、5名は丸々1ページ。
公開年順。

小生の場合、刺激になった、参考になった意味のほうが強い作品ということになります。書いてみたらとうてい本数が足りない。

日本映画篇

姿三四郎

学生時代に観た覚えがある。映画の構成というものを教えられた。台風の到来に合わせて決闘シーンが撮影できたというエピソードのとおり、画面創りはこうしなければならない、ということを痛感させられた。

無法松の一生

同じく学生時代に観た。劇映画の構成と多重露出による映像美というものを、ケミカル技術でよくしのいだ、という視点もある。ただし、という問題はあるのだが、そういうものを書くのは無粋なのでやめる。

羅生門

いわずと知れた名作なのだけど、学生時代には理解ができなかったというのが正直なところ。その後二度ほど観ている。構成と配役、演技などもすべてが作品を統合させる方向に向かっているのだが、撮影の素晴らしさは秀逸。

カルメン故郷に帰る

本邦初の総天然色映画にふさわしい軽味は瞠目する。当時よくやったと思える。ということは、リアルタイムで観たのではなく、大人になって観たからで、時代の企画性というものを教えられた。

西鶴一代女

日本映画の一方のスタイルを確立させた作品だと思っている。セットの立て込み、ライティング、長廻し、役者もがんばっている。つまり、時代性というものを読み取れる部分も貴重な財産になってしまった作品。

東京物語

隙のない名作とはこのことだろう。評論する気などはない。映画を目指す人は、時代をこえて観てほしい。

ゴジラ

当時としてはよくやっているといいたいのだが、リアルタイムで観た児童としては、“ケッ!”と思ってしまった作品で、アニメの仕事をやることになった。

異母兄弟

演技を創るということの凄さを教えられた。劇構成も見事で、映画の性能を使いきったのではないかと思える感覚がのこっている。近年、DVDで再見して、知っているカッティングだと感じて編集者の名前をチェックしたら、小生がCM時代に編集の肝を教えていただいた沼崎梅子氏と知って狂喜した。

幕末太陽傳

才気走った新時代の監督が出来てきたと実感した。役者たちも世代交代が始まったと感じられて、このような監督がいたら、後続部隊はやることがないのではないか、と不安になった。セットも照明も凄く、手仕事を実感できる。

おとうと

こんなタイトルでこれをやるのかという技法をふくめて、映像をここまでコントロールできる手業に驚嘆した。買ったDVDを観られないのは、上映したときの調子になっていないという噂があるからで、明るい画面ではあのスクリーン上のくすんだブルーは観られないからだ(DVDで冒頭は見てしまった!)。

有りがたうさん(本文中に11本目として記述)

新作を観ていないということもあるのだが、基礎学力をつけさせていただいた作品はこの時代のものだと知った。十一本目に、去年DVDで観た清水宏監督作品「有りがたうさん」を挙げておきたい。

外国映画篇

駅馬車

学生時代に観たか? 安手な映画と思った記憶があるのだが、後年観るようになって、コンパクトに映画をまとめるという教科書であると考え直した。これを観ないで映画を撮ることはやめて欲しい。

市民ケーン

学生時代に観たので、圧倒された。幼児の甘え感覚がモチヴェーションになった新聞王ケーンの人生ドラマの描写の質量、それを劇映画としてまとめる監督の技量は狂気的だと感じた。そして、それは監督自身の人生とも重なって、現在をもっても、天才の怖さと惨敗感を思い知らされている。

エデンの東

学生時代にリヴァイヴァル上映で観た。ジェームス・ディーン人気だけで動員がかかっていた映画なので、初回では観なかった。映画を志していた頃に観れば、徹底的に刺激的で、劇構成、演技論、カメラワークと教えられることが満載。

禁断の惑星

かなりひどいSF映画なのだが、作り物の世界の演技論というものを発見させてもらえて貴重。他の方にはすすめられない。安手に撮るとこれだ、というサンプルで、世界初の電子音楽のBGMもロボットのロビーも嫌いだった。深層心理のモンスターというのは、現在でも気に入っている。

勝手にしやがれ

クラシックな映画観をくつがえされた小品だが、ヌーヴェル・ヴァーグの旗手としてのゴダール、このような映画もある、という驚嘆は、現在まで記憶している。はじめて、女優さんに惚れた。故に、DVDは大切に保管している。

ウエスト・サイド物語

70ミリのカメラを縦横に使って見せる。ダンスナンバーをここまで切り込んで使うかという映像処理のテクニックには圧倒された。編集の技の見本である。後半の物語は買えないもののエンタメのあり方を徹底的に教えられた。

2001年宇宙の旅

日本のタイトルがどうしても許せないのだが、それでも、とんでもなくつまらないくせに圧倒的な名作である。これが映画だ!

ブリット

マルチスクリーンという技法は、ここから盗んだ。小気味いいとしかいいようがないアクション映画。イェーツにイエーイ!

バベットの晩餐会

テーマとカメラ前の舞台を最小限度のものにして、予算を抑えてみせた映画。それでいて、ふくよかに村の暮らしを描く手腕というものに脱帽した。宗教的な違和感が物語の芯にあるのだが、それは理解できないが、佳作である。

エリザベス

時代劇を創りこみながらも、重ったるくなく、それでいてリアル。英国史を知らないために半分も理解していないのだろうけど、文化のあり方、性愛のあり方をかくも生々しく描ききっている劇構成には瞠目する。メイクアップの凄さに映画の魅力を嫌でも際立たせている。