「アイアン・スカイ」公開記念! 富野由悠季監督×ティモ・ヴオレンソラ監督特別対談

ニコ生が見られない人向けの記事です。
見た人は気付くかもしれませんが、ちょこちょこ手直ししてます。邦題とか。

(マイクの調整中)
廣田 ……怒られないと、監督から。納得しないんですよ。
富野 えぇーっ? フフフ……。
廣田 そうですよ。
富野 三拍付け(?)ってこういう時便利だねぇ。
廣田 そうですね。
富野 画像チェック(笑)。演出家としてもう一つ気がついた事がある。本当はこの位の高さにして(腰を上げる)。
廣田 (放送まで)残り10秒? 座布団持ってくればよかった。
富野 (笑)。

(前説省略)

廣田 監督、これはどういう映画なんですか?
監督 これは基本的にブラックコメディなんですけど、ナチが1945年に月に行って。そこでずっと暮らしていって、現代になって地球に侵略してくるという物語です。政治風刺も含まれたブラックコメディ・SFです。
廣田 映画祭の反響は?
監督 おかげさまで大変反響が良くてですね。僕としてはどういう反応を日本人の方が示されるのかをとても不安に思ってたんですけども。意外に良くて、今安心しているところです。実はこの映画を撮る段階で、私これまでずっと日本の映画・アニメに触れてきまして、大変影響を受けてたものですから。この映画が日本でどう受けるか。たぶん気に入ってもらえるんじゃないかなと思ってたものですから。今日皆さんに気に入ってもらえて大変嬉しく思っております。
廣田 この映画少し変っておりまして。総製作費が7.5億。7.5億のうち1億円を一般の方が集めたという。変った集め方をされている。ここも非常に面白いポイントかなと。それ以上に、ナチスが月から攻めてくるという、誰もが妄想しながら、UFOはナチスの発明品じゃないかとか言われてきたものを結構真面目に作ってしまった点が、今注目されているのはそこかなと思うんですけれど。ここで、富野監督は一体どこに惹かれたのかと。メカ?
富野 いや。特別に何が好きという事ではないんですよと。なーんて(笑)。今も既に書き込みが入っているんで。それに反応したくなるんだけれども。基本的に僕の年代。つまりSF映画好き・もしくは特撮映画好きの気分からした時に、一番1950年代・60年代の特撮映画のフィーリングというものを、本当に身につけている映画だったな、という事で! 好きなんです。
監督 (頷く)。
富野 だけどこの説明は、おそらくガンダム世代の人にはちょっと解らないかもしれないという風に思っています。
廣田 ヴオレンソラ監督は今の話は?
監督 まず監督が作品を楽しんでいただけた事を大変嬉しく思っております。それと同時に50年代・60年代のSF映画を彷彿させた、という事を伺って私大変うれしく思うわけなんですけれども。やはり私自身もそういった事を念頭に置いて作りました。所謂50年代のとてもイノセントなSF映画の要素・雰囲気、そういったものと、ナチというとてもハードなトピック。それを合体させてこの映画を作ったつもりでいます。
富野 だから、僕の立場から一番びっくりしたのは、ナチを素材にしたっていう部分が、よく「制作」にまで待ちこめたのがとても不思議ですけれども。何か具体的な苦労っていうのがあったんじゃないですか?
監督 勿論それは大変色んな問題がございました。まず最初に資金集めの段階からも、やはりこういったトピックをどうやって扱うのかという事で、色々とご質問もありましたし。なんというかスポンサー集めに苦労しました。SFには興味があると言っていただけて、それからナチのSFだと判ると、それだったら共産主義者に替えられないかと言われたくらいです。やっぱりスポンサー集めに大変苦労しました。と同時にキャスティングの段階で、今度はよくわかる事なんですけれども、ドイツ人の年配の俳優さんから出演の依頼をしても、中々OKが出なかったと。ナチをこういう風にコメディとして扱っている映画には出たくないという声が聞かれました。
富野 ですから、おそらく一番問題がキャスティングの問題で。その事が実際映画のクオリティーにも現れているという風にちょっと評価しました。
監督 キャスティングには大変力をいれました。主人公であるレナーテ、クラウス役は結構早めに見つかったんですけども。あとウド・キアさんにはどうしても出ていただきたかったので、総統役で出てきましたが。他のキャラクターに対して大変困難を極めたわけですけれども。国籍もドイツの俳優さんからニュージーランド、オーストラリア、アメリカ。そして勿論フィンランド人も出ている訳なんですけれども。世界各国の方々に出ていただきました。かなり複雑な作業でしたが、結果的には僕は大変満足しております。

(通常版予告編上映)

廣田 ヴオレンソラ監督はガンダムご覧になったんですよね?
監督 はい、勿論です。昔からよく観ておりましたし、大変憧れておりました。
富野 今の話は全く僕は信じておりません(会場笑)。もし観ていれば、今回の映画のラストのところ。ホワイトベース宇宙戦艦ヤマトが出てこないから。そういう言い方があります(笑)。
監督 (笑)。実は同じ様な事を本当に色んな方から仰られました。これは信じていただけないかもしれませんが、証拠の映像を見せますけど、実際に宇宙戦艦ヤマトを入れた映像を撮ってるんです。火星の影に隠れているヤマトってのがあるんですけども、それはごめんなさい、使いませんでしたけれども作りました。
富野 今の話が実を言うと今回の『アイアン・スカイ』という……そうね、特撮映画という言い方は出来ないんで、CG映画?
廣田 SFXですかね。
富野 そういうツッコミを入れても良い様な……いい加減な。お馬鹿な映画なんです。だからこそ、実を言うと、好きな映画。本来「SF映画」というのはこういうものだったんだと。今こうやって書き込みをしてくれてるファンの方にもちょっとだけ言いたい事があるのは、どうも我々は、『スター・ウォーズ』以後、それからスピルバーグの一連の映画で、「SF映画」というものを、とっても大作で、なんと言うのかな、立派なものに仕上げ過ぎてしまった。そういうもので、映画というものをちょっと狭くしてしまったんじゃないのかな。という様な感触をむしろ持ってるし。今回僕はこの映画で、そういう部分を思い出させてくれたという意味で、とても好きな映画なんだという事です。
監督 Yes.
富野 だからそういう事で、監督に訊きたい事があります。ハリウッドのSF映画だって、かなり良い映画なんだけれども。ほんとは嫌いなんでしょ?
監督 正直言いましてここのところ、特に最近ですけれど、中々ハリウッドから生まれるSF映画で自分が好きな映画が見つけにくいです。最近で言いますと、ダンカン・ジョーンズが作った『月に囚われた男』という映画が僕は気に入っているんですけれども。そうとはいえ、『バトルシップ』や『トランスフォーマー』の様に、ただ物語的にヒーローがいて、そのヒーローが危機を救うという映画に専念するのは中々自分自身は好きになれません。過去に観た映画で、大変影響を受けたり触発されたりした映画を念頭に、今回自分は『アイアン・スカイ』を作ったつもりでいます。
廣田 富野監督は過去の作品でジオン公国とかザンスカール帝国とかですね、ナチスを想起させるものあるじゃないですか。そういう時って、こいつらは単なる敵とするのか、それともカウンター的なね、こいつらの立場を解って欲しいとかあるんですか? バカな質問ですよね……。
富野 いや、その質問にはちょっと、こういう席では迂闊に答えられない。というのが本当のところです。ただ、今日本の政局が、ちょっと違う話をしちゃいますけれど、政局がこういう風になっております。それから日本の周りの島の問題みたいな事まで考えていった時に、どうするかという事を考える時に、やっぱり一つの事例としてこういう考え方もあるのではないのかな、って事は、絶えず想定していました。じゃあどうするんだという事については、僕は回答は持っていません。というのは政治家でありませんから。回答を持つ必要が無いという風に思っております。ここでお話し出来るのはここまでです。
廣田 上手いことかわされてしまいましたけれど(笑)。
富野 ただ、『アイアン・スカイ』も基本的にナチスの問題だけでなくて、もう一つあからさまに触っている問題で人種問題というのがあります。ですから冒頭くらい観た時に、いや、この映画? エンディングまで行かないんじゃないかとおそれていた位です。
監督 (笑)
富野 だけれども、映画としてまとまっているのはどういう事かと言うと、まさにその「サイエンス・フィクション」なんですよ。サイエンス・フィクションだからこういう事も素材にしちゃって、ネタにして、話はこうだぞ、っていう見せ方が出来る。あとリアルな問題として受け止める時はどうするかと言う事の、問題提起をしている。そういう事をあからさまにやってくれる映画、久しぶりに出来たという意味で、やはり『アイアン・スカイ』の……なんて言うのかな。物語を作る構造みたいなのがとっても感覚的に似ていた。そういう事もあってとても好きなんだなと思ってます。
監督 ありがとうございます。実は物語を考えるのも大変時間がかかりまして。こういった大きな・壮大なトピックを扱うにあたりまして、結構違う物語に流れてしまう事を簡単にしがちだと思うんですね。それでメインのストーリーから外れてしまう、そうならない様に苦労いたしました。それと同時にディテールに拘りすぎてしまっても、元のストーリーが薄くなってしまいますので、例えばテクノロジーの事とか、月に住んでる訳ですから色々語らなければいけないのでしょうけども、そこはある程度抑えて、物語をキチンと伝える事に専念したつもりです。それに時間をかけました。
富野 つまり構成の問題です。構成の問題については、本当によく考え抜いていると思います。
監督 Thank you.

(劇場予告編上映)

廣田 予告編も映倫がチェックするんですけれども、これ見た映倫の人はどう思ったのかなというのが非常に気になってるんですけれども。まぁ、これでも一応OKなんだなという事で。富野監督はどういうご感想をお持ちになりましたか。
富野 すいません、予告はちゃんと見てないから……。
廣田 ちゃんと見てください。今流れてたじゃないですか。
富野 今流れてたの何言ってるんですか。書き込み(ニコ動のコメント)が多すぎて画像がどういう風に展開されているか、字だけを読んでたもの。
廣田 それが狙いの予告ですよね。
富野 ですから、まぁ……うーん……こんなもんで、むしろこの映画、この書き込みが、一般の視聴者に対してのお世辞を言ってるわけじゃなくて、こういうもんなのよ、って事です。ですから、何て言うのかな。マジに討論する……あ。マジに受け取ってはいけないよ、という言い方があります。が! それも実を言うと逆で、むしろSF、つまりこういう素材であるからこそという事で、監督の立場、つまりどういう事かと言うと、フィンランド人が、こういうテーマでSF映画を使ってこういうメッセージを打ち上げてるという意味では、要するにハリウッドが絶対に出来なかった事をやってると思えている。その部分のメッセージ性というのは各自が見抜いて欲しいな。そういう意味では、皆さん方に、つまり観るファンにエクササイズ、つまり自分でどう物事を考えられるのかという事を教養(強要ですかね……?)している映画でもあるんだぞという意味ではそうそう舐めて観ているヒマはないよ、という。そういう事だけは意識してもらいたいと思う。そういう面白さが、この映画には本当にあります。
監督 Thank you.
廣田 監督、今の富野さんの発言については?
監督 監督にそういう風に言っていただいて、僕自身も大変嬉しく思いますし、心が温まりました。ありがとうございます。やはりこの映画というものはハリウッドでは作れなかったと思いますし、ドイツでも作れなかったという風に思います。ある意味仰った通り僕がフィンランド人だったからこそ作れた映画と言っても過言ではないかもしれない。あとですね、フィンランドもそれなりのナチとの歴史的な関係というのが第二次世界大戦でありました。かなり親密な関係ではあったんですけども、それはドイツとの政治的なものでしたから、そういった意味ではそれ程親しいものではなかったですけれども、ある程度同盟を組んだ事もありましたし。関係が無かったという事ではございません。そういう事を踏まえますと、フィンランド人の気質としては、こういった難しいトピックでも何らかの形でユーモアを持ってコミカルな視点から描くことは出来る事なんですね。他のトピックでもそうです。だからこそ僕は今回この映画が作れたとも思っています。
富野 だから一番反省させられる事というのは、僕の立場で言うのも多少言いづらい部分もあるんだけれども。日本のSF映画好きの、つまり作り手達というのが、やはりハリウッド的なSF映画の作り方というものに汚染されすぎていて。『アイアン・スカイ』に込められている批判精神とか、あともう一つ重要な事があります。ユーモア。楽しく映画を撮る、みたいな事の、楽しくやるぞ! というそういう方法論をほんとに忘れていたんじゃないのか。そういうものをあらためて僕は教えられたと思っている。で、その部分をやっぱり見抜いてもらいたいな。という風に思っているのが僕の立場です。

廣田 (ここから募集質問)ヴォレンソラ監督に質問です。監督が一番影響を受けた映画とは何かありますか。
監督 実はこの番組が始まる前に、富野監督と『デリカテッセン』の話をさせていただいたんですけれども。勿論その作品もそうですし、あとバーホーベン監督の『スターシップ・トゥルーパーズ』、『博士の異常な愛情』。こういった作品も参考にしながら『アイアン・スカイ』を作りました。
廣田 次の質問に入ります。ヴォレンソラ監督の次の作品に今回の様なカンパを使い作りたいと思うかどうか?
監督 今回はネット上でカンパ、そして投資を募りました。「クラウドファウンディング」というプロセスを採った訳ですけれど、これは大変成功したと考えていますし、大変助けになりました。実際今回初めてやって、適切に出来たところもあるんですけれども、これから改善すべきところもたくさんあります。ですからこれからも他の作品でもやっていきたいと考えていますけれども、こういった形でクラウドファウンディングでお金が集まった事でより製作費が増えましたので、我々の様なインディペンデントの従来では出来なかった事が、これからはこういった形で出来ていくと考えています。
廣田 今、非常に富野監督が何か仰りたい感じの……そんな事ないですか? 富野監督はカンパで作るってのはいかがお考えですか。
富野 早く遺作を作れという書き込みがある様なところで(会場笑)、もしカンパを集めたらどういう事が起こるかと言うと、この歳になってそういう責任を負って映画を作るなんていう事は嫌ですから私はやりません。
廣田 そうですか。わかりました。
富野 自腹でやります。
廣田 カンパ集めるくらいだったら自腹で?
富野 (頷く)

(質問募集告知)

富野 今話をしていい? めんどくさい話をしようしようと思ったんだけれども、この映画。僕が個人的にもう一つ好きな事があって。書き込みの中ではこのデザイン、ロクなデザイン料を捻出出来なかったから安くやったんじゃないのかという様な言い方もされてますけれども。今回のコスチュームとか、特に飛行船の宇宙船です! 大好きです! 僕の気分で、とっても好きなどツボに嵌ってるという意味ではこれだけは是非見逃さずに観ておけ。ただこの映画は酷い映画で、そういうとこをたっぷり魅せるカットがどこにもなくて。よく見てないと次に行っちゃうんで。そういうところが難しい(笑)!
廣田 (コメントを)見てると「カンパ集まるよと」。
富野 だから、カンパ集まると責任を負わなくちゃいけなくなってくるから。そうすると僕は萎縮しますから。出来ません。
廣田 「ガンプラ買えばカンパになる」って……。
富野 (笑)。いや、あの部分は別のとこに消えていく……。
廣田 他に富野監督からヴォレンソラ監督に何かありますか。
富野 これは聞いてる方にわかっていただきたいから言うんですが、音楽がヘンですよね? 何であんな、やや古めかしい田舎っぽいロック音楽とクラシック音楽を使ったんですか?
監督 今回音楽を担当してもらったバンドがスロヴァキアのバンドでライバッハというバンドで、かなり前から活動を続けている独特の音楽を作るバンドなんですね。僕の依頼としましては、ワーグナーの曲をテーマにやってほしいと。それはやっぱりナチという事でその関連性を考えましてワーグナークラシック音楽も入れてくれという風に依頼したわけなんですけども。それと同時にかなりアバンギャルドなバンドでして。その背景もそうなんですけれど、僕の頭の中では『ブレードランナー』の時にヴァンゲリスがひとつの映像があってその上からまたひとつコーティングする様な形と同様に、僕の『アイアン・スカイ』にもひとつの層を上から重ねてくれれば良いかなと思って依頼致しました。
富野 今の回答で一番びっくりしたのが、『ブレードランナー』と言われて漸く納得したんだけれども。ちょっとびっくりしました。この映画の冒頭、それからエンディングクレジットの音楽の扱い方が「素晴らしい」んです! この「素晴らしい」が一言で言う素晴らしいとはちょっと違います。そういう意味では音楽の、映画に当てる時の当て方みたいな気分も含めて、かなり熟練している。ライバッハって方も勘が良いし。それを使って見せた監督も勘が良いという意味では、ただ好きなだけでは作れねーぞという事を思い知らされたというのが、僕にとっての『アイアン・スカイ』でもあります。
廣田 ヴォレンソラ監督がリメイクしたい過去の映画はありますか?
監督 リメイクに関しまして、僕は個人的に好きではないんですね。そもそも良いリメイクというのが中々ない。殆どないに等しいですし。『バトルスター・ギャラクティカ』のあれはリメイクというよりは繋がりでTVでどんどんやった訳ですから。あれはまだ許せるかなとは思うんだけれども。僕自身はリメイクをするよりは全く新しい物語を自分で考えて伝えていきたいという風に思っています。SFジャンルの創成期に作られた『月世界旅行』は作っても良いかな。と思うのは、ほんとに創成期の限られた技術と、今の技術とでそんなに大差がない事を証明する為に作る価値はあるかもしれませんけども、その程度です。あと強いて言えば『砂の惑星』。これはデビット・リンチ監督もお作りになりました。僕自身がデビット・リンチファンだからかもしれませんけども、あの小説というのはまだ幾つか映画を作る価値が残っているかなと思います。あと小説のファンはこれまで作られた映画のどれも満足していないと思いますので、そういった意味でも作っても良いのかなと考えていますが。
富野 お若いうちは、なるべくオリジナルに挑戦する方が正しいと思います(笑)。
監督 (笑)
富野 もう一度『アイアン・スカイ』にもどってしまいますけれども、一つ訊いていい? 役者の問題です。集める段階で大変だったと思う。だけど実際に参加してくれた役者さんというのは、皆さんキャリアがある方だったんで、観ているとちょっと気になった事があったんだけれども。最終的に芝居というのは全部役者さん任せになってしまいましたか?
監督 今回レナーテ役を演じましたユリアに関しましては、私が特にどういうレナーテを演じて欲しいか凄くクリアなアイデアがあったものですから、かなり詳しく指示しました。それとドイツ語のセリフが多いんですね。他は英語です。僕自身は英語は第二ヶ国語で母国語ではない。ドイツ語は全く喋りません。そういった意味では、セリフに関しましてはかなり俳優さんまかせにしたところがあります。ですけども演技に関しまして、私はキャラクターのモチベーション、どういう心情で場面にいるのかとか。そういう事に関しましてはかなり詳しく細かく演出しました。特にレナーテに関しては自分がこういう風にやってほしいというクリアな演じ方があったものですから。
富野 今の事を訊いたのは、そうは言いながら……こういう言い方が伝わるかどうか。かなりバタバタした芝居ではあるんだけれども、画面の収まりが良いんですよ。
監督 今監督が仰ってくださったのは、それは演技だけではなく作品全体がそう言えると思います。
富野 そうそう。
監督 ですからこの作品の中ではそれが収まりが良くなってるのであって、例えば一人のキャラクターをこの映画から取り出して他の普通のドラマの映画に入れたとしたら、そのキャラクターだけ浮いてしまうと思います。
富野 そういう意味では、全体的な意味で言う「演出」というよりもコンストラクションがとっても上手くいってるという意味では、B級のSF映画とは言うけれども、ナメて観てもらっちゃ困るよ、という作りになっていると僕は思っています。
監督 監督の様な方からそういう様な事を言っていただいて、僕は大変感動しております。この映画、6年間かけて作りました。その6年間、ずーっとそれを目指して、今監督が仰って下さった事、まさにそれを目指して作りましたものですから、それを今この場で富野監督の口からうかがえた事を大変嬉しく思います。
富野 質問終わっちゃったね。
廣田 いや、まだ質問受け付けているんですけどね、中々ね。監督の質問が高度すぎて。
富野 すいません。
廣田 質問のハードルが上がっちゃったみたいなんですよ(会場笑)。中々質問が来ないというね……。まぁでもこれでこの映画の偏見がちょっとずつ。実は頭の良い映画なんじゃないか、みたいなコメントもね、流れて来ている……。
富野 あ、アタマが良いね……あのね、そういう意味ではそれ程上等な映画じゃないです(会場笑)。上手じゃないです。所詮SF! B級SF映画で良いんじゃないのかなと思ってます。
監督 そうですね、僕からも一言。この作品はメッセージもあります。ですけれど、まず大前提として楽しんでいただきたいです。あれこれまず構えてご覧にならない様に。そして、こうだ、という風に決め付けてご覧にならない様に。始まったらそのまま受け入れて観ていただきたいと思います。
廣田 今とても面白い質問が来まして。これは両方に対して。男性として、どんなタイプの女優が好きですか。
監督 やっぱり知性ですね。一緒に仕事をするからには頭がある程度良くないと困りますし。これは男優女優両方に言える事ですけれども。それとインテリほど僕にとってセクシーなものはないと思っています。ですからそれは魅力的ですので。知性のある女優さんが良いです。
廣田 次は富野監督に。(コメントから)アルテイシアダメとか……。
富野 揚げ足取りの書き込みがバンバンバンバンありますけれども、そういうのに対してお答えしますけども、役者ではなくてすいません。役名になってしまいますけども、セイラ・マスです(笑)。
廣田 また逃げられてしまった様な気がしますけども。
富野 ここでの残り時間があと10分という風に思って、監督にまだ訊いておきたい事があるんだけれども。良いですか。かなり映画を企画する事がお上手な監督だと思うから訊くんですけども。映画を企画演出する事を考えると、どうも好きなだけではダメで、客観的な視野というものが必要だと思えます。が、そういう考え方について監督はどういう風に思われますか。
監督 今仰っていただいた事に関してなんですけども、監督業という技術、それは決して難しい事ではないと思います。ひとつのアイデアがあって、自分がそれを語りたくて、他のスタッフとそれを作れば良いだけですから。ただ監督業としての醍醐味というと、やっぱり自分自身の最大の批評家であって、自分のやった事を常に冷静に批判して、一番最初に批判できるのは自分自身ですからね。それをより良くする為にはどうすれば良いかと、常に自分自身にチャレンジを与えて、それの葛藤だと思うんです。ただ、いつかはそこで、それをずーとやってても映画は作れませんから、ある程度のところで線を引かなければいけないですから。それは特に脚本の段階ではそうですね。自分が書いている脚本を読み返しながら、どうして自分だったらこの映画を観たいと思うのだろう、何が魅力だろう、という事を常に自問自答しながら書き加えていてパーフェクトな脚本に仕上げていく訳なんですけど。やっぱり何と言っても映画の場合脚本が面白くなければ、どんな良い俳優さんが出てても台無しになってしまいますから、そういったことで常に自己反省をしながら、自分自身にとっての最大の批評家でありながら作っていくプロセスが一番の醍醐味だと考えています。
廣田 最後の質問です。監督はハリウッドで大作を作りたいですか?
監督 僕が恐れているのはハリウッド映画を作るにあたって、色んな資金とか、そういったことは苦労がないかもしれません、だけどもその代わり何を犠牲にしなければいけないのかという事を考えると、中々自分が率先して作りたいとは言えないですね。はっきり言ってハリウッド映画を作ることは僕の目標ではありません。僕が今一番したい事は国際製作という事で、色んな僕が今まで仕事をしてきたフィンランドの仲間達と培ってきた経験を活かして、他の国のスタッフ達と映画を作る事なんです。今回『アイアン・スカイ』でオーストラリア、ドイツのスタッフ達と仕事をしてとても楽しかったので、将来的には例えばイギリスのスタッフ、または勿論日本のスタッフの方々。といったフィルムメーカーの方々と一緒に仕事をしていきたい。その中にハリウッドも含まれるかもしれません。だけれども、ハリウッド映画を作る事が僕の第一目標かと訊かれれば、それはそうではありません。それよりも共同製作作品を作りたいと思います。
廣田 本日の対談の感想をお伺いしたいんですけども。
富野 (まだ質問が)あるんですけども。感想としては、正直こんなに若いと思ってなかった。一番ショックで。だって資金集めからの経緯を知ってると、もうちょっと現場的というかプロデューサー的センスを持ってる人かと思ってたので。こんな若いとは思いませんでした。
監督 実際はそうではございません。プロデューサーがいますんで、僕には。そのプロデューサーであるパートナーが資金集めの事は色々考えてくれまして。
富野 いやいや、そうにしてもなんです。これだけ長い間、時間を掛けて作る事が出来て付き合える。だって、日本人の監督でこういうタイプの人がいるかと言われると、ちょっと疑ってしまう部分がある訳だから。大したものだなと思ってます。
監督 Thank you.
富野 ただこの年齢でこうだという事は、ほんとこれからのお仕事に期待できるのでほんとに頑張っていただきたいなと思います。
監督 監督、今回は本当にこうやってお会い出来てお話出来たのを光栄に思います。正直言いまして、僕、子供の頃から監督の作品を観ておりますし、フィンランドの友達もみんなそうでした。こういった形で監督と今日お話させていただく事をフィンランドの仲間に言ったところ、大変彼らはうらやましがっておりました。この場をお借りしまして、これまで監督が色々作ってくださった作品に対し、本当に監督の作品は我々に一生消えない様な印象を与えてくれましたので、それに対してお礼を申し上げたい。それと同時に、今日色々褒めて下さった事にも、お褒めの言葉をいただきまして、それに対してもお礼の言葉を申し上げたい。今日はほんとにお会いできて嬉しかったです。ありがとうございます。

公式サイトのコメント

富野由悠季
アニメ監督
いやァー面白かった!!! SF映画って、こういうものです。B級? 何? それ? ブラックなのが問題? どうして? これフィクション・ファンタジーです。 行けーっ!!

放送後?
http://twitter.com/DM_CassisGeneki/status/246995631216930818

西武線で見かけた老人がどう見ても富野御大だった 大分年下の人と話しててガンダムやらの単語が聞こえてきたり井草で下車してたから多分本物だったんだろう

一生消えない印象……? ウッ頭が……。
SFへの仮託の話は、富野説法では割と見られる話なので、皆さんになじみがあるか。
終盤のプロデューサー面の話は、やはり御禿自身の姿にダブってみてしまい、一昨年末のサンフェスの話を思い出してしまった。御禿もそういう意図で、あえて訊いたんだと思うけど、どうでしょうか。
あとザンスカールってナチっぽいか……?


同じく富野コメントのあった『アンダー・コントロール』が以前あったが、今作の日本スタッフはそれを見た上で営業したのかしら。前者は内容が内容だけにイマイチな展開だった印象。