サンライズフェスティバル2010夏 イデオンナイト!

サンライズヒストリー

歴代サンライズ作品のPV的なショートフィルムを延々と一時間強流す。ガンダム、大友作品、放送中作品は流れない。
また、

この辺もスルーされていたので、PV的な作品も流れないのかも。
「ダイノゾーン」を知ってる人間が皆無。日登CGの礎ともいえるのに。

トークショー

富野:司会に紹介されるまでもなく、今まで自分が気がついてないのが、今日のこの会場のことがあって、今物凄くムカッときてます。どういう形であれ、配信されるということは、放送禁止用語は使っちゃいけないってことだから、何の話もできねーじゃねーか!
湖川:今、富野君は何も言ってないよ。
富野:いいのよ。
湖川:皆さん今晩は。バッフ・クランの湖川です。皆さん、お久しぶりです。今日は私もちょっと楽しみたいなという気持ちでやって来ましたので、宜しくお願いします。
福井:どーも皆さん、今晩は。もっと俺ぐらいのオッサンばっかになるかと思ったら、意外と若い方も多くて。この中でリアルタイムでご覧になってた方って、ちょっと手挙げて。(会場多数が挙げる)あ、みんな若く見えるだけか。今日は視聴者代表として、私も楽しませて頂ければと思います。宜しくお願いします。
藤津:今年、2010年、ちょうどイデオン30周年…。
富野:その前に。こちらのお二人は僕よりずっと若いんです。若い人がこうやってきちんと公の場では口を利けるのに、何で、この年寄りの僕が、ちゃんとした口の利き方が出来ないんだろうかな、ってもう落ち込んでますんで、帰らせてもらいたいなー、って思ってる(笑)。
藤津:イデオン30周年ですので…是非今日盛り上がっていきたいと思うのですが。
富野:盛り上がりようがない。
藤津:え? どうしてですか(湖川笑)。
富野:そういう意味では本当力不足で申し訳ないと思います。イデオン単発で30周年イベントやりたかったのが、こうやってゴチャゴチャの中でやられるというのも、やはり…(会場拍手)。そこで拍手することはないでしょう? どうせ私はその程度のことしかできません、って本当に申し訳ありませんでした(頭を下げる)。
藤津:こんなに熱いファンが集まってますから。ねぇ?
富野:内々だから。だから、もっと良い話が出来るかとおもったら、お前らが枷嵌めて(カメラ目線に)。放送禁止用語は言葉遣えないって言うんだから。それは気に入らないの。これから行儀良くしますんで。
藤津:今回、接触篇と発動篇が上映されるわけですけど、当時観られた方、後にDVD等で観られた方、両方いると思うんですけど、今回当時のプリントを使ったフィルム上映ですので、当時の雰囲気を感じていただければ、ということだそうですので、前の説明はこれぐらいにしてトークの方を始めたいと思いますがよろしいでしすか。
富野:ですから、それでもう既に湖川君が物凄く気に入らないと言ってるのが、「俺は30年前はこんなに下手だった」ってさっきから楽屋で落ち込んでんですよね。それをリアルに観てほしくないんで、皆さんお引取り頂きたい。
藤津:湖川さんどうですか? 今のお話は。
湖川:富野さんは何にも変わってない。僕はもう逆に若いなぁとか思う。
藤津:あー。今日最年長かもしれませんけどね。この中でね。
富野:(会場見て)この中で僕より年上の方居ませんよね(笑)?
湖川:居るんじゃないですか?
富野:いやぁ居ないと思うよ…。
湖川:あ、そうですか? (御禿を指して)40ですよ?
藤津:いやいやいや…。
富野:あと50年頑張らせていただきます(笑)。
湖川:正確には39。
富野:あのー、そういう風にお世辞使っても、次の仕事を回すなんて約束できません。
湖川:いやー、仕事欲しいですね。
富野:シリアスな話になっちゃいますんで。イデオンの話だけをしなきゃいけないってんで。
藤津:とりあえず腰掛けていただいて、本格的にトークの方行きたいと思います。まず、一番最初に福井さんに伺うとこから話を始めたいと思いますけれど、まぁ今日ファンの代表ってことですけれど、30周年をイデオンが迎えたっていうことを、ファンの立場から見てどうお考えになります?
福井:そうですね、30周年、去年ガンダムで30周年でワーっとやってたから、考えてみりゃ翌年放送なんだから、今年イデオン30周年になるってのは誰もが知ってたはずなんだけど、忘れてましたよね。多分イデオンの場合ってTV放送から数えて30年というよりかは、やっぱね、ここにいる人大体そうだと思うんですけど、発動篇観て人生変わっちゃった。
藤津:82年の出来事ですね。
福井:あれ以来、自分を世界を見る目が変わってしまった、っていう。それを起算にしてどうしても考えているもんだから。でも、それからも30年近く経っているんだなぁ、と思うと、前何かの雑誌にも書いたんですけど…(御禿笑っている)何ですか?
富野:今の話は救いで、という事は、発動篇から30年というと来年? 再来年?
藤津:再来年、2012年ですね。
富野:だったら今から発動篇30周年記念のために、イデオンの1/1を作ってもらえるといいなぁ(会場笑)。
藤津:デカい。デカすぎる企画ですけどね。
富野:だってそんなに大きいと思えないのは、さっきあらためて調べてみたら、僕120mだと信じ込んでいたんですけども、105mなんですって。
福井:だから作れるって話には全然なんないですよ。
富野:東京スカイツリーのそばに作ったら、物凄く小さく見えますよ。
福井:いやまぁ、そうかもしれないですけどね。
富野:東京スカイツリーが400mちょっとですから。あれの1/4ですよ。
福井:うーん…でもねぇ、これ、さっきこんな話楽屋でしたんですけど、確か1/1の立像は非現実的だと思うんですけど…。
富野:今の日本の科学技術を以ってすれば!
福井:ナスカの地上絵みたいに、どっかの割と田舎の方で、地面に等身大のものを描いて、それをみんなで山から見て拝む、っていう。これはありなんじゃないかな。
藤津:まぁ神様ですからね。
富野:それだったら動かないじゃない。
福井:105m動くんですか、1/1の立像は。
富野:イデオンって大仏様じゃないんですよ。ちゃんとこうやって(ポーズをとる)。
福井:そんな動いちゃうんですか(またポーズをとる)。
藤津:今回のポスターみたいなね、ポーズをとったりと。
湖川:でもねぇ、さっき楽屋で、お富さんはその話ばっかね、してんですよ。だから…作ってあげましょうよ。
富野:だって、僕そういう意味ではイベントの企画力って全くない人間なんです。ですからここに来るまで、「イデオンの1/1」って言葉を思いつかなかったのよ。で、楽屋に入った瞬間に「そうか!」って。30周年って何かやるはずだったよね、そうか。って。ガンダムは1/1だったらしい。こないだも東静岡にも観に行って、1/1なんです。やっぱり、あれの120mくらいならカッコイイな、って思ったら、105mだったの。ガッカリしたっていう。
福井:十分ですよ…。
富野:だから、そういうもの作ると563万人くらい集まるんじゃないの。集まんない?
福井:まぁ、なんだか分かんないけど来るでしょうね。
藤津:ガンダムよりお賽銭は集まりそうな気はしますけどね。有り難いというかね。
福井:有り難味は絶対こっちの方が高いですね。
富野:今の話で嫌ーな話思い出しちゃった。
藤津:さっきから記憶の扉がいっぱい開いてますけれど。
富野:ホントに忘れてたんですよ。さっきの福井さんが言う通り。30周年? とかっていうのは。それババッとなった時に、もう一つ嫌なことを思い出しまして。イデオンの映画公開の時、物凄く嫌な事が起こって。イデオン祭りをやったのよ。
藤津:ああー…。ありましたねぇ。明るいイデオン
富野:そして、ガンダムを拝むってことだったら、イデを拝むという事の方が、正統なんじゃないかな、と思ったら、やっぱり1/1を作って。イデオン教で。やるというのは決して悪いことじゃない。
藤津:変な踊りを踊りながらやるわけですか? また。
富野:それが気に入らない訳。
藤津:アレが気に入らない?
富野:ただ、気に入らないんだけども、そも許すというのは、30年経ったからです。と同時に。ここに韓国の方はいらっしゃいませんか? その放送禁止用語が出る。
福井:止めて下さいよ。
富野:だから、簡単な話。韓国にやられる前に、1/1を作んなかったら、日本人の沽券に関わるんじゃないか、って言いたいのよね(会場拍手)。向こう150mだぞ! 105mで威張れないんだから。やっぱり先にやりたい。
藤津:30周年を機に課題が明らかになったって感じですね。
富野:ホントに明らかになったの。だから発動篇30年記念ということで、再来年に1/1をお台場に(笑)。
福井:しかもお台場。
藤津:湖川さん自身は30周年っていうのを迎えていかがですか?
湖川:バッフ・クランとしては、30年過ぎて、またロゴ・ダウの異星人と戦うのかと。僕なんかは30年経ってると、その当時の方、集まってくれてる人たちの中に、多分大金持ちがいるんじゃないかと。それぐらい簡単に出来るんじゃないかと。コンピュータを入れてですね、お富さんの声だけで反応すると。「右腕」とか言うと、こう挙げるとかね。簡単じゃないかね、と思うんだけど。居ません? 誰か。
富野;建造費133億円ぐらいかかるかなぁと。
福井:かなりリアルな数字ですね。それぐらいかかりますね、絶対。
富野:端数を言うともっともらしく聞こえるっていうコツがありまして。
福井:なるほど。
湖川:それで105m?
富野:えぇ、そうかもしれないね。出資募りますので、お手を挙げて頂いて…(笑)。
藤津:それまたちょっと、宗教っぽいですけどね。出資を募るなんてね。
福井:ホントですよ。
富野:ですねぇ!
藤津:段々危険な感じになってきたので、湖川さんに改めて伺いますけども、今年30周年だなぁ、みたいなの、覚えてらっしゃいました? 忘れてたみたいな。
湖川:ないです。サンライズの方から、こういうのやるんですね、フェスティバルやるんです、って話で。ええ、びっくりしました。
藤津:随分経ったなぁって感じですか?
湖川:自分は若いと思ってますから。
藤津:じゃあついこの間の様に。
湖川:お富さんの前で言うのも変なんですけども。まだ若いと思ってますよ。イデオン作ったのは30年前の、若き頃の青春なんですよ。今は新しい青春が始まってますから。
藤津:二度目の30歳みたいな。
富野:恥ずかしくない(会場笑)?
湖川:言っちゃいけません?
富野:いや、言って良いんです。表現の自由ですから。言っていいんだけども、まともに言えるか? って。
湖川:言いたいかもしれないですね。
富野:そうそうそう。
藤津:段々ちょっとトリオ漫才みたいになってきたので。改めてもう一度、福井さんにおうかがいしたいんですけど。福井さん当時、発動篇にやられたっておっしゃっていましたけれど。イデオンからどういうインパクトを受けて、印象的なエピソードっていうとどこを挙げられますか? イデオンだと。
福井:あれですよね。当時は勿論そんな事言葉には出来なかったんですけど、その前にやったガンダムの3部作の映画も含めて、あの時に感じたのって、本当にこれから、所謂映画って変わっていくんじゃないかな、って。アニメがどうこうというより映画がこれからこれを境に、新しい方向みたいなのを獲得していくんじゃなかろうか、っていう。そういう感じはあったんですよね。
藤津:何かの基準を塗り替えちゃったみたいな。
福井:塗り替えた。それが、何でそれを感じたんだろう。そもそもアニメーションがそれをやれたのはどういうことなんだろう、というのが最近ちょっと言葉に出来るようになってきて。よく「バディ・ムービー」ってあるじゃないですか。対照的なコンビが。よく刑事ものなんかでありますけど。
藤津:「48時間」とか例に挙がりますよね。
福井:そうそう。ああいうのって、何が面白いかと言うと、全然対照的な人間がいることで、それぞれを浮かび上がらせる、っていう。そういう効用があるわけですよね。じゃあイデオンって何だったのかと言うと、今まで我々が見てきた様な作劇っていうと、人間が人間を浮かび上がらせるものしかなかったんですよ。イデオンと、その前のガンダムもちょっとそうなんですけども。ガンダムだったら「ニュータイプ」。イデオンだったら「イデ」っていう、人間じゃない、人間を超えているらしい存在っていうものが一方にあった時に、人間全体が浮かび上がってくる。つまり人を描いたドラマっていうのはいっぱいあったんだけど、人っていう原存在そのものみたいなものまで照らし出すっていうのって、おそらくそれまでなかったんですよね。まぁ「2001年宇宙の旅」とか、そういうSFの文脈とかではあったんだけれども、それが映画でお楽しみをさせながら、魅せるっていう事が出来るっていうのは、それまで本当なかったんで。人類とイデっていう、両方を浮かび上がらせる事によって、人間とは何か。人間が智恵を得て、何かを得ていくっていう果てにあるものは何か。それがイデっていう。これね、今言葉で言ってみてたら、それだけのことかもしれないですけど、これ、おそろしい事で。実は、これをやられちゃったら、もうこの先、劇作ってないんですよ。究極なんです。これ以上やる事ないんです。だから、言ってみれば、ガンダムで片鱗の可能性が見えた。それの究極が「めぐりあい宇宙」の3月公開で、イデオン7月で、考えてみれば無茶苦茶ですよね。言ってみれば、可能性が出されてから僅か4か月で究極系にいきなりポーンってたどり着いちゃって。そっから先って実は、俺こういう立場でこういう発言するの、しかもネットで流れてるので、ヤバいかもしれないですけど、イデオン以来、イデオン超えるものって見たことないんですよ。全部で。全てのもので(会場拍手)。
藤津:会場からも賛同の声が。
福井:そう感じてらっしゃる方も、本当多いと思うんですけど、それはね、やっぱりある種、何つーのか、今まで誰も気がつかなかった扉を開けちゃったっていう。開いた瞬間をリアルタイムで見せられちゃった事で、ひとつ、変わってしまった人生があるとしたら、それは本当に凄いものを素直に喜んで良いものではなくて。もしイデオンがなかったら、多分もうちょっと別の動きってあったよな。自分自身も別の人生ってあったんじゃないかな。それぐらいやっぱりね、デカいもんでしたよね。
藤津:(富野を向いて)今「究極の作劇」みたいなお話があったんですけど、富野監督としては、まぁ神様的なものを中心に据えたのは、あの時はそこへ行こうと思ってやってらっしゃったんですか?
富野:んー、それ程実を言うと、具体的なものはありませんでしたが、作ってる時からひとつだけ気が付いてる事があったのは、自分が半分発狂するだろうな、っていう事だけは自覚してました。実を言うと、究極まで伝えちゃうと、途中ではっきりわかっちゃった事があったんです。俗に言う、劇を作る上での禁じ手を使ってしまったっていう所に行きました。それは本当に自覚して、自覚した上でそれをストレートに禁じ手を出していった時、どうなるかと言うと、どちらにしても物語が終わらなくなる、という事があったんで、最後にそれこそ幽霊の大行進にするという所に落としたんです。だからあれは、おそらく自分が発狂寸前の所で行った所のレベルから考えると、2、3歩手を緩めたんです。手を緩めた所で映画興行というものを考えた時に「妥協したな」っていう自覚もありました。そこまでの経験をした結果が、僕にとってはその後の30年です。つまり、今日現在までロクな仕事をしてないっていう人生を自分が自覚する様になってしまった、という意味では、かなり損をしたという部分もありますが、作品ていうのは、やはりあのレベルをやらないと、作ったという所にも行けない、っていう事が分かって。ですから、僕の作品を気にしてらっしゃる方は、その後の僕のキャリアを見ればお分かりになる通りで、こういう風にしかなるしかなかった、という事です。だからそういう意味では絶対にイデオンに触ってはいけない、っていう部分は、本当こういう席で言っておきたい。ただ、逆に一つだけありがたい事があるのは、30年近く時間が経った時に、お互いに批判し、それから批判するだけじゃなくて客観的に見るという事が出来るだけでも、イデオンの渦中に入らないで済んでる。それから何よりももう一つ重要な事があります。アニメであった為に助かっているという部分がある。もしこれをアニメでない形で作ったら、どうなっていたかと言うと、矢張りかなり危険な作品になっていたんじゃないのかな、っていう実感もありますんで。程良い所で収めたという風に、この30年間思い続ける努力はしています。ただ、個人で本当に困っている事があるのは、今言った様な感触がありますんで、イデオンを超えられない自分というものを死ぬまで抱え込まなくちゃいけないという意味では多少辛いな、という事はあります。本当はもう一歩踏み込みたかった、という部分は、これをやっても絶対にこれ以後評価されないという事ももう分かっているんで。分かってるんで、そこにはもう行けないだろうとも思っていますし。それから自分の能力も気が狂うというとこまで行くのも正直怖いです。で、申し訳ないけども、普通に死んでいきたいとも思っていますので、この位のところで勘弁して頂きたいというのが、現在の心境です。
藤津:当時やられている時、やっぱり監督自身の中で、変な蓋が開いて歯止めが利かなくなりそうだな、っていう感じがあったんですか? その気が狂いそうというのは。
富野:あのー…あったでしょうね。ただ、ありがたかった事は属性、つまり映画興行を仕掛ける枷があったおかげで、狂わないで済んだという部分があります。逆に言うと僕自身、やっぱり本当の意味で勇気のある人間じゃありませんので、狂いたくなかったという事もあって。それこそ映画化をするという事が、仕事を納めていく。それから映画的に言いますと「2時間以内で収めろよ」とかって条件が嫌でも付いてくるという時に、そういうものに妥協していくというものを、僕の場合は妥協と捉えませんでした。これを自分が狂わない為の歯止めになるものだという風に理解する事で、積極的に受け入れたという事があります。そこで実を言うと能力が問われるんです。「2001年(宇宙の旅)」を超えたかったんだけれども、ひょっとしたら超えられなかったかもしれないっていう悔しさもあるし。アニメだから「2001年」を超えられる筈なんだけれども誰も評価してくれない、という事も実感しているし。どっちがどっちかという事は、あともう5年か10年…2、30年ですね。経ったら、イデオンという作品の評価っていうのはまた改めて立ち上がってくるんじゃないか、っていう自惚れもあります。この自惚れこそ正に年寄りで。こういうものがないと、楽に死んでいけないんですので。このぐらいの自惚れは持たせてください。
藤津:湖川さんは当時、コンテが毎話上がってきたりするのを見ながら、ストーリーとかについて何か感想とか意見持ちながら仕事をされてましたか?
湖川:ないですよ。
藤津:それは富野監督のやる事を信じてついてったって感じですか?
湖川:それはそうですよ。お富さんの元に居る訳だから。僕は彼の動きを見ていると、何となく感じるんですよね。内容までね、見てられないんですよ。僕の立場ではね。今、お富さんの言った「2001年」? 僕はアニメだから勝ってると思うんですよ。アニメの世界でね、そんな作ったなんて言うのは、たぶんあり得ない筈だから。お富さんは天才なんですよ。今日なんか、凄くこわいですよ。天才富野とですね、秀才福井との間に俺が居て。「何しに来たの?」と(笑)。
藤津:お三方ね、見事なバランスで立っていると僕は思いますけどね。
湖川:現場はね、あれですよ。たまに勿論こう打ち合わせもするし、会ったりもするし。彼の動きを見てると何となく分かるんですよ。
藤津:やりたい事とか?
湖川:だから彼の気分を考えながら、キャラクターも作るし、作画もするし。意外とお富さんというのはコンテの中で、まぁこれは彼の気分かどうかは分からないですけど、イメージが出てこないんですよね、絵で。こう書くんですよ(指で○の軌道)。まるちょんというか。それは自分勝手に、勿論ベースは富野さんの訳の分かんない○で判断するんですけども。そういう気分が分かんないと、彼とは仕事出来ないですよ。具体的だし、もの凄い抽象的だし。気分の会話をする時もあるでしょ。ないですよ、他の監督は。
富野:そういう事で言うと、僕は僕で、今湖川さんが言ったのと全く同じ気分で湖川キャラクターってのを受け取ったんです。キャラクターの発注について実を言うと僕は殆ど注文を出していません。出来てくるキャラクターとにらめっこをして、最終的に画面になっていく演技なり、それから極端な場合セリフまでキャラクターに合わせて作っていきます。だからそれも実を言うと気分だし。そしてこちらのプランニングがあるからどうのこうのじゃなくて、全体のプランニングってのはこういうもので確定してるから、後は湖川っていう一人のキャラクターデザイナーが色んなものが書ける訳ないじゃない(席を立って藤津氏の後に隠れる御禿)。
湖川:いやいやいや…、だから、立ちません。大丈夫ですよ。
富野:細かい注文は付けられないという言い方があるけども、まったく逆です。
湖川:何だ、動き速いなぁ(一同笑)。
富野:湖川というキャラクターデザイナーに発注した瞬間に殆ど決まるんです。作品のデテールが。ですから、もうそれにすり寄って、こちらがドラマの意味性みたいなものをこうやってぶつけていく訳です。それとさっき言った様な基本的な気分が自分の中にあって、演出をしていく時に(着席する)、自分一人の気分だけでは、ご覧になる画面の様な動きには、実を言うと出てきません。湖川が居るからだし、湖川のキャラクターがあるから、ああいう芝居をさせたんだよ、っていう事が山の様にあるんです。特に発動篇のある部分は究極的に湖川のキャラクターが要求してるんです。「ここまで行け!」って。ここまで行けという部分に対して、こちらが応えて行こうとする時に、僕の場合にはガンダムがあった上でのイデオンだった為に、目いっぱいやらなくちゃいけなくなった。その時に流しの仕事というのは一切出来ない所までいた。そして、凄く視覚的な事を言いますと、何に湖川キャラクターの場合、僕が演出家として何に一番困って、何とかこのデザインとか、この作画を黙らせなければいけない。ドラマに全部封じ込めなくちゃいけない。って事で、湖川キャラクターの絵で一番問題にして、コンテを描いてる時から、それからさっき言った湖川さんが言った通り、コンテがある時、そんなに克明な画が描いてなかったりするのは、どんな事かと言うと、僕には描けないからなんです。だからそれは湖川に任せるんです。
湖川:画描けますよ。知ってますよ。
富野:…そして…。
湖川:後でバラします(笑)。
富野:だけど、湖川さんが思ってる事と全然違う事を言おうと思ってます、さっきから。湖川の描く画、線で、ここの線(顎をなぞる)。この線を目立たない様に黙らせる様に画面の中でザァーッと見えてる様に(右手を流す)、演技を付ける時にはどうするかって時に、色んなキャラクターがいっぱいいるんだけれども、一番気にしたのは、男達のキャラクターと、それからもの凄く強い性格の女達をこの顎のここの線を見せない様に、強い演技。それから強いキャラクターに作っていくっていうことは、もの凄く要求されてる。そういうものが組み合わさって、イデオンってのは出来てます。ですからこの事で言いたい事は実を言うと、今のアニメをある分徹底的に批判してるんですよ。
湖川:あのー、お富さんの持ってる気分はその当時、よく伝わってきました。要するに、「勝手にやって良いんだよ」という気分がどんどん来るんです。普通は、これをもっとこうしたい、ああしたいって、その後の作品もお富さん結構ありますから、自分のイメージがあったり。でもイデオンの時は殆どないんですよ。で、実は今日お富さんに質問をしようとしていた事項があります。
藤津:どうぞどうそ。
湖川:でも今答えが分かった気がします。それはね、ハルル。キャラクターは大体、実はコスモのね、髪型も違うんですけど、あれ自分が気に食わなくて気に喰わなくて。主人公作るの嫌いなんですよ、俺。面白くないから。普通でいなきゃいけないんですよ。基本的にはね。だから本当は大っ嫌いなんですよ。
藤津:そういう意味ではコスモはわざとちょっと普通でないテイストを?
湖川:ちょっとですよちょっと。
福井:ちょっと(笑)?
湖川:ちょっと頭をおっきくしただけで(会場笑)。それでキャラクターは、大体お富さんOKしてくれて。自分の気持ちが入っていけて。どんどん過剰になってきたんですね、イデオンは。ところがですね、ハルルのキャラを作った時に「これじゃ駄目」って初めて返ってきたんですよ。僕はその理由を聞きたかったんですけど、ずーっと知らなくて。今なんか答え言いましたよね(富野頷く)。アレが嫌いらしいです(一同笑)。アニメのキャラクターの中で初めて顎が張ってる美人を世に出そうと思ったんです。変な事をちょっとやりたがるんですよね。結局、僕はあのハルルが好きだったので、もう気持ちが入っちゃってるので、どうしたかって言うと、他に5体くらい作りました。美人じゃないハルルを(富野笑)。で、それをお富さんに見てもらった所、「…最初ので良いよ」(会場笑)。
藤津:ダミーを、当て馬を出して本命を通すというあれですね。
富野:だからなんですよ。ハルルがひょっとしたら予定よりも強くなったって気分があるけれども。間違いなく全体のキャラクターの相関図があったとした時の足場としては、彼女がもの凄く立ってくれたし。それからいわゆる親子の感情論みたいなものも、自分では想像できないものを作り出す事ができた。作り出す事が出来た時に、今、もの凄く懐かしい事を思い出しました。何でハルルをああいう風にしなければいけなかったのかっていうと、ガンダムキシリアに勝ちたかったんです。
会場:おぉーっ。
富野:あの女を黙らせたいキャラクターをもう一人くらい作りたかったっていう事があって。かなりムキになったっていう事があります。
藤津:仮想敵自分みたいな感じですね。
富野:それはちょっと違います。その言い方は違います。僕の中ではあの当時から…そうですね、作品の中に登場してそれなりに出来あがったキャラクターは全部、かなり実在してます。キシリアキシリアです。もう僕ではありません。殆どのキャラクターがそういう位置付けであります。で、僕はかなりキシリアが好きなのね。マチルダさんより好きなんです(会場笑)。ですから、ある分男のそういう気分っていうのを本当にイデオンまでで。アニメのキャラクターがただの画のキャラクターだとは思ってません。実在出来るキャラクターだっていう質感というのをもの凄く自分の中では獲得していたんで。そういう風に作ってきたから。だから今の一番びっくりする話は、僕はハルルのキャラクターを却下した覚えは全然ないんですよね。
湖川:さっき、楽屋で色々話して聞いてるんですけど「覚えてない」。彼は都合が悪くなると「覚えてない」出す。
富野;そういう事で一般論的に言えばそれはそうですよ。
湖川:絶対覚えてますよ。
富野:覚えてません。
湖川:俺がわざと当て馬っぽいキャラを作った事も多分彼は感じてるはずなの。
富野:覚えてない。
藤津:本当ですか?
湖川:さっき言ったバラさなきゃいけないこと。彼は「画描けない」つってるけど、あのコンテの画を見て、あのコンテよりも動きがあったり感情があったりする書き手は少ないですよ。コンテ見た事あります? お富さんの。雑誌かなんかに載ってますよね。あの活きた画は書けないですよ。確かに人物は俺より下手かもしれないけれども、バラしますけど、イデオンのOPのメカの変形ありますよね。変形原画やってるんですよ、この人。
富野;嘘? 覚えてない(会場笑)。
湖川:また記憶がない?
富野:あ、そう。
湖川:違いますよ、サンライズに打ち合わせに行った時に、机に向かって何かカリカカリカリやってる人がいるんですよ。何やってるのかなと見るとですね、変形の原画やってるんですよ。メカですよ。多分パース分かんないと思うけど。
富野:(マイクで殴りかかるポーズ)
湖川:やってましたよね?
富野:いや、だから覚えてない(会場笑)。そんなマメじゃないと思ってたから。
湖川:凄い几帳面にやってました。
富野:凄いね。
湖川:はい。
藤津:富野監督他のイベントで、ザンボットの時スケジュールがなくて幾つか原画を描いたみたいな話ってされてるんですけど。
富野:ザンボットね。
藤津:イデオンの時は結構スケジュール、キツキツだったんですか? 最初の頃。
湖川:全然無かった。
富野:スケジュールは無かった。
湖川:作画も助けるんですから。どうします? イデオンやってる時ガンダムやってたんですよ。考えられますか。考えられないですよ。イデオンの最後の劇場になった頃のコンテだってもの凄い早く上げたんですから。信じらんないですよこの人。おかしいです(会場笑)。
富野:だけどそれに関してはさっきの話が多少影響してます。抱え込んだら自爆するっていう事が分かってたんで、その、手放す事に、もの凄く意識した事は事実。だから、発動篇の幽霊のシーンのとこは、ちょっと何か、7、8年前にフィルムで観た事が…。
藤津:上映会ありましたね。
富野:上映会もあったし、カラーコレクションの事もあって見てまして。やっぱりちょっと雑だったな、っていう。コンテ的にね。そういう印象ちょっとありますね。
藤津:今丁度発動篇の話になってますけれども、当時TVが突然打ち切りになって、その時湖川さん、作業クライマックスに向けてやってた訳ですよね。
湖川:やってましたよ。
藤津:当時気持ち的には「えぇーっ」って感じで驚きだったんですか?
湖川:驚きましたけれども「続けて良いですよ」って(富野を指して)言うので(富野笑)。
藤津:それは決まってないけど劇場っていう?
湖川:劇場なのか何か分からないけども、「続けて良いですよ」って言われましたね。あれはちょっと嬉しかったですね。だから力入れたんですよ。
藤津:そうすると、放映のスケジュールには縛られない範囲で?
湖川:あそこで終わってたら…俺がいないんじゃないかな、という気はしますね。イデオンが一番なんですよ、僕の中ではね。何だろうなぁ、だからあれ以上の作ることになったら、僕はやっぱお富さんとやんないと駄目なんですよ。さっきそんな話ちょっとしたら拒否されましたけど。「お前などいらん」なんて(会場笑)。
富野:会話の上ではそういう会話はしましたけれども、何故僕がそういう風に言ったかという事に関して言いますと、実を言うと極めて社会的な理由があります。個人的な感情を僕の場合一切ビジネスの上で反映出きる立場ではいないんです。本当にサンライズに囲われている妾みたいなもんですから。旦那さんがお金を出してくれない限り、旦那さんがうんと言わない限り、実はキャスティング一つ決められない立場にいますので、お返事出来ないという事があります。ですから…。
湖川:嘘ですよ。
富野:本当だって。
湖川:(首を振る)
富野:それはね、この歳になったら世の中の仕組みがそうなってるという事は本当に分かる様になるのね。
湖川:だってお富さん仕組みの中で生きる人じゃないでしょ(会場拍手)。
富野:(腕を振って)どんなに煽てられても、その煽てには乗りません。
藤津:福井さん、発動篇で人生が変わったって事でしたけど、発動篇で一番好きなシーンってどこですか? もし一つ上げて下さいと言えば。
湖川:(手を挙げる)
福井:これは難しいですね。ご覧になれば分かる通り、あのー電波ですからね(会場笑)。お話とかそういうのじゃなくて、全体・トータルで受信するみたいな感じのアレで。その話とは関係あるようなない様ななんですけど。あまりの衝撃で分かんなくって。最初自分が何観たのか。分かる為にね、結局二番館落ちとか三番館落ちした奴まで追いかけて。それこそ、あの夏で5回。ひと夏で観てるんですよ。
藤津:受信感度良好すぎますよね。
福井:そう。で、なんかそれで今はもうなくなっちゃったんですけど、東京駅の八重洲口の所にある、普段ならきっとポルノとかかけてる様な映画館でも「イデオンやってる」と思ってぴあで見つけて。で行ったら接触篇発動篇で二本立てなのに、更にもう一本かけても、イデオンは一本という計算だったんでしょうね。もう一本かかってたのが「ブッシュマン(ミラクル・ワールド ブッシュマン)」だったの(富野笑)。
藤津:凄いですねぇ…。
福井:コカ・コーラの瓶落ちてたのを返しに行くおじさんの話の後に、イデオン
藤津:似てなくもないですよね、広く言うとね。
福井:人類の始まりと終わりを同時に観れる訳ですよ(会場拍手)。そんな下らない事まで覚えてるっていう事は、やっぱり。そういう場所だから営業サボりのサラリーマンとかが来てて。皆寝ようと思って来てる訳じゃないですか。でも、あれ寝させない訳ですよ。あのフィルムは。だから結構皆の終わった瞬間の、どういう顔で劇場出て行ったらいいのか分からない、っていう感じのね、あの人達の空気とか今でも鮮明に覚えてますよね。
藤津:寝させないっていう意味じゃ、こんなにオールナイトに向いてる映画はないという話ですよね(富野爆笑)。湖川さん、例えば発動篇でどこか選ぶって出来ますか? 逆に全部が可愛いという感じですか?
湖川:発動篇? 困るんだよなぁ。真っ当にね、観た事がないんですよ。あの当時イベントがあってあちこち行きますよね。で、フィルムやるんで一緒に観ましょとか関係者に言われますよね。必ず寝てますからね。
福井:ここに寝れる人が…。
藤津:まぁ送り手ですからね。送り手の特権ですよね。
湖川:映画が寝る場所だったんですよ、その当時。今ちゃんと観ますけれどもね。うーん、発動篇はねぇ…。皆力入れましたけれどもね。結構力入れてやってましたねぇ。だってメカはそれなりに原画上手い人が一人いたので稲野君っていう人が一人、凄い頑張ってくれて。
藤津:稲野義信さんでしたっけ。
湖川:そうでしたっけ、名前。で、人物は、結局時間があると言ってもね、そんな永遠にある訳でもない、法外にある訳でもないので、結局外注さんを頼む訳です。原画の人を。それを直すとですね、時間掛かるんですよ。一枚一枚見て直さないといけないですよね。それでもう途中で止めたんですよ僕は。ごめんなさいって。原画上がってきたらゴミ箱行きみたいに。自分でゼロから書いた方が早いんですよ。だから殆どのビジュアルが、自分の想いが入ってるんですよね。正直に。今ちょっと見れないですけど。
藤津:パワーアップしてるでしょうね、今の方が。
湖川:止めて下さいよ。今落ちてたら殴られてますよ。多少は上がってますよ、生きてる分だけ。
藤津:当時としては、僕なんかも観客として観ているだけで凄く作りこまれた緻密なアニメを観たなって印象は既にあったんですよね。
湖川:いや、だってね。結局あの画コンテ見ちゃうと、例えばドバがハルルの部屋に行く時にね、チャラチャラした歩きはさせられないですよ。発動篇の動画は僕全部チェックしてますからね。全部リテイクしてますから。だからちょっと今までのアニメの歩きとは、ドバ違うでしょ? あれドバらしい歩きなんですよ。だからそういう所見てくれると嬉しいな。
藤津:監督に訊くのも野暮な感じがするんですが、発動篇いかがでした? 当時作っていて。好きな所ってありますか?
富野:という事で、本当に今、湖川君から意外な話を聞いて、ドバとハルルのあのシーンが一番好きですね。自分でも、先程チラッと言いました。つまり親子の関係。ここをこういう風に、もう40近くになってはいたんだけれども、よく描けたなという事は、本当60になってからも感心するし。感心するから、クソっとも思うのは、さっき言った通り、キャラクターは僕にとってはやっぱりかなり実在しているものなんです。そして、ドバ家も親子関係は上手くいかなかったんだよね、って…(会場笑)。それで、ウチもそう…かも…しれない…、っていう無念さは…何か娘達に対して申し訳ないなぁっていう所にバァーンと行っちゃって。5、6年前にもあのシーンで泣いた覚えがあります(笑)。だから、あのね。自分の作品じゃないんですよ、もう。
藤津:もはや。
富野:もはや自分の作品じゃなくって。やっぱり作品っていうのは自立するものだと思ってる。それが本当イデオンの場合には、こうやって前後篇に別れてしまって、いわゆる自立し得ない形になってるという意味では本当に作品に対して申し訳ないなと思う。だから…何と言うのかな、こういう形式でしか纏められなかったという意味では本当に残念だっていう風に言うしかなくって。それが申し訳ないと言えば申し訳ないんだけれども。ただ、やはりこういう形で今日もこうやってお話させてもらえるだけでも、ありがたいし。だからさっき言った通りです。ひょっとしたらあと10年か20年後に、再評価される事もあるかもしれない。つまりそういう残され方をしているんじゃないのかな、っていう事なんで、総論的にやはり申し訳ないんだけれども、前後篇含めてイデオンは観て頂けたらありがたい。それから次の世代にも手渡していけたらありがたいな、という風に思いますね。
藤津:何か凄く監督の話で綺麗に纏まったというか…。
富野:じゃあこれでおしまい?
藤津:いやいやいや。まだまだトークは続くんですけども。
湖川:ちょっとだけ。今ね、僕凄く嬉しい事がひとつだけ。ちょっと深い話をされてたんで、言わない方が良いのかなと思ったんですけども。今ね、お富さんが「湖川君」って言いましたよね。聞きました(会場見て)? 僕はね…。
富野:いいじゃないか。
湖川:ええ駄目です。僕はずーっと気になって気になって気になって辛くて辛くてって事が一つあるんですよ。それはお富さんと出合った時に、僕の方が年上だと思ったらしいんですよね。「破裏拳ポリマー」の時ですよ。言って良いのかな(カメラの方見て)?
富野:だって、この顔見たら僕より年上だと思うよね?
湖川:いや、顔はいいんですけど。それでザブングルあたりかなぁ。もうお富さん良いじゃない、って。「湖川君」って呼んでって。僕はお富さんだけは良いと思ってるんですよ。「君」って呼ばれても。
富野:思い出した。いつも「湖川さん」って言ってました。
湖川:ちょっとね今、涙が出そうになってたからね。(Ust配信は)全国でしょ? お富さんもう駄目ですよ。今後は。
富野:かなり難しいんだよね。
湖川:気持ち悪いんですもん、だって。
富野:だって、年寄りだと信じ込んだんだもん。三歳年上だと思ってました。
湖川:それはもういいでしょ、随分過去の話。だってね、いるんですよ、中には。表面では「湖川さん湖川さん」言ってて裏では「湖川君」って言ってるとか、いるんですよ。
富野:はー…。
湖川:でもお富さんには「さん」じゃなくて「君」って呼ばれたいんですよ。で、その頃思ってたので。今ちょっと何か涙が出そうだな。
藤津:良いお話で(会場拍手)。
湖川:何故「君」と呼ばれたいかって言うと、凄い人には「君」って呼ばれたいんですよ。それは認めて欲しいし、実はね、「君」と呼ばれてる時は、相手に甘えられるんですよ。「さん」と呼ばれてると俺甘える事が出来ない。
福井:なるほど。
富野:だからその位偉ぶって良いんですよ。
湖川:誰が偉ぶるんです?
富野:あなたが。そういう意味では、僕は湖川さんの、才能を、本当に認めてるんだし。さっきもだって久しぶりでああいう大きな絵を見せて貰って、これだけ上手に書けるんだったら、それは「湖川さん」だよね、って。間違っても「湖川君」なんて言えないよねって。殴られそうだって思うもん。
湖川:天才から「さん」とか呼ばれても大仕事しれませんよ。
富野:憎まれっ子ですね。
藤津:福井さん、楽屋でもこの調子だったんですよね、ずっとね。
福井:そうですね。今日はもうちょっと色々喋ろうと思ってたんですけど、楽屋の3
40分の二人のいる間で相当消耗しましたね、もう。
藤津:今日今まで色々お話頂いたんですけどが、実は今回お仕事の都合でどうしても来られなかったイデオンファンの方がいるという風に聞いております。女優の坂井真紀さんですね。Twitter上でイデオンが好きと仰って。僕も思わずフォローしてしまいましたが。多分そういう方多いと思うんですよね、イデオンファンの方で。そこでですね、色紙のコメントを頂いているので。(色紙を持って)丁度今の話題と合っていると思うんですけど。「ドバの悲しみが分かる、そんな娘でありたいです」と、メッセージを頂いてます(一同笑)。
福井:凄いですね、作った様ですね。展開的にね。
富野:ホント、嘘みたい。それで娘は、娘はああいう父親を絶対に、絶対に分からん。女って、娘でもそうなんだけども、やっぱりね、かなり信用しちゃいけない。あいつらは絶対に親の父親の言う事は聞かない、っていうのは実感です。
藤津:ちょっとガンダムF91みたいな話になってきていますが
富野:(爆笑)
藤津:それは今日の話題ではないので置いておきまして。それでですね、富野監督と湖川さんにもですね、坂井さんから別に質問頂いてるので、連続して読ませていただきます。まず監督については「アフレコの際必ず立ち会って指導すると聞きました。イデオンに関しては演じる役者さんに対して特別強く指導、または要望した点はありますか」という質問がありますね。もう一つは湖川さんへの質問「湖川さんの描くキャラクターが大好きです。特に湖川さんが描く強い女性が大好きです。キャラクターの芯の強さみたいなものを感じます。と同時に内面の脆さ儚さも感じます。イデオンだとカララ、ハルル、シェリルにそう感じます。富野監督とはどういったやりとりをしながら特に女性キャラクターのデザインを詰めていったのでしょうか」まぁ後半はね、先程ちょっとお話がありましたけれど。まず監督に、役者さんに当時どんな風にアプローチされてたのかを伺おうかなと思うんですけど。
富野:良く出来た映画っていうのは、基本的にキャスティングで作品の7、80%は決まっちゃうという俗説がありますが、現場的には間違いなくそうだと思います。ですから監督が撮影に入って・つまりカメラが回り始めてあーだこーだって言ってもたかが知れてるんです。やっぱりキャスティングが決まった瞬間に作品の色合いってのは殆ど決まっちゃいます。ほんとにこれだけの出演なんですけど、声優さんもしくは僕の場合かなり声優でない方も使わせてもらいましたけども、やっぱりキャスティングで殆ど決まりますので。確かにアフレコスタジオにはTV版でも余程の事がない限り付き合いはしますが、俗に言うシーンごととか一つ一つの台詞ごとについての演出指導というのを一見している様に見えてはいるんですが、やっぱりあまりしてませんね。しているのは、これもガンダムの後半の頃からずっと指揮していたのは、役者・演技者としてのつくりを抜くという努力をしてました。あまりつくり過ぎるとか、今流で言いますとアニメ的って発声を控えさせるという事はしましたけれども、具体的にキャスティングが決まった時点で大体の色合いが決まってしまいますので、あまり演技論的な事はしません。つまりどういう事かと言うと、声優さん役者さんの能力にやはり基本的に頼ってしまう。それの組み合わせでキャラクターの関係性が見えてくるという、そういうキャスティングに心がけていましたので、坂井さんが想像なさる程、スタジオで演技指導という所には行っていません。
藤津:キャスティングでお話ありましたが、今日ハルルの話が随分でるんですけど、麻上洋子さん。たぶん代表作森雪ですよね。それをキャスティングされたのは当時としてもファンも驚いたと思うんですけど。監督としてはいかがでしたか、当時。
富野:今言われて、麻上さんの別のお仕事のキャラクターの事を思い出して、もの凄く簡単なんです。この役でこういう風に演技が出来る人だったらコレが出来る、という風に別の所に目を向ける事が出来る、それだけの事です。これをやらせるという風に引っ張る事は絶対にしません。他の仕事でその人の役者の能力というのが見えた時に、この人はこれできっと飽きてるな、っていう事も匂ったりします。そうした時に、むしろ違うものを振ると、役者というのはやっぱり色んなものをやりたがるんです。本来そういう性を持っています。その部分を触れたらしめたものだという事ですので。演技指導というのはそこだけです。今日こっちやるのが面白いだろう、という事で、思い広がらせていく事だけをやります。だから、この画面に当てろという注文は一度も出してません。
藤津:ありがとうございます。一方湖川さんの方で。女性キャラクターを当時どう描かれてたのか、デザインのお話もありますけども。先程の監督とのお話ですと注文を訊くのではなく、まず湖川さんがどんどんキャラクターを作られた、という様なお話がありましたけれども。
湖川:そんな勝手な事はしてませんよ。きちんとキャラクターの系統図とか、「トミノメモ」と俗に言われてるお富さんのメモはちゃんと見て、後は自分の世界観をどう作ろうかなぁと思って作ってるだけなので。
藤津:例えばここで挙がってますとカララがどういう風にして絵柄・スタイル生まれたのでしょうか。
湖川:何でしょうね、一番最初作ったのはドバですから。
藤津:ドバからスタートだったんですか。
湖川:何ででしょうね、ドバですね。
藤津:書き易そうな所からだったんですか? でもなく?
湖川:いやー、何か中心。後々中心になりますよね。それ分かってる訳ではないんですけど、何となくこれを最初に作りたいなと。後は決まりますよね。だってね、さっきの話じゃないですけど、ハルル? 一番びっくりしたの俺ですよ。大丈夫? 古代君が出来るの?
藤津:麻上さんが。
湖川:だけど、後々聞くと、何かハマっていくなぁっていう。今お富さんが言ったのがピッタリだなぁというけど、ホントですよ。俺両方やってるんですからね。
藤津:そうですね、ええ。
湖川:頼みますよ。まつ毛ビシビシはないですけどね。ホントにびっくりしましたよ。声優さん聞いて。凄い心配でした。
富野:今の声優さんの事っていうのは、実を言うと必ずしも声優の事だけではないんですが。一人の人が出来るのは確かに色んな事は出来ません。あらゆる職業。色んな事は出来ないと言いながら、今チラッと言った通り役者をやろうとする人達というのは、やはり一つの役で気が済む訳がないんですよ。つまり生身の人間で一年二年同じキャラクターやってたら飽きます。むしろ麻上さんの前の世代の役者さん達を見ていた時に、ホントに器用で、まさに七色の声じゃないけれどもこの役からこの役まで(手を左右に振る)全方位なんです。それが出来るというのが役者さんだと思ってました。ですから麻上さんの世代の人たちを見ていた時に、スタッフ側がバカだなと思ったんです。一度聞くと「この人はこれに合うからこれ的な役を作ってく」っていう所に行っていくという事をもう知ってました。それは演出家としてそれは役者とか声優お前らナメ過ぎてないかって僕はいきます。もっとこういう事が出来るはずだ、やりたがってるはずだ、っていう…なんて言うのかな、その人の可能性というものをもうちょっと別の所に見てみたい。こんな言い方はとても失礼な言い方なんだけれども、俺だったらこの人をこの役者をこうさせる事が出来るかもしれない、って所に行くっていう面白さというものを、これは僕が発明したんじゃないんです、僕はそれを本当に骨身に染みさせてもらえたのはザンボット3の時の…大山さんはその前何やってたんだっけ?
藤津:「ハリスの旋風」とかですか?
富野:「ハリスの旋風」じゃない、「ハリスの旋風」もやったんだけども。ギャグっぽいキャラクターでいうと、オバQ的な何かやってたよね。
藤津:ごめんなさい、僕スッと出てこないですね。会場で分かる方いらっしゃいます?
富野:この人が、役者というのはここまで出来るんだ、って事が分かった。で、その次のトドメがあったのが「巨人の星」が来て、アムロをやる、っていうのを音響監督がキャスティングしてきたんです。それを聞かせてもらった時に、そうか、役者の持ち幅っていうのは凄いな。だったら声優っていうのを僕の場合役者という風に考えて良い。だからそれ以後、特にイデオンの頃のキャラクターの数が多かったんで、じゃどうするかっていうとみんなの分かってる範囲で使ってはいくんだけれども、この人はこちら、つまり右の人左、左の人を右に、っていう風なキャスティングをもの凄く意識してやって。おそらく役者さんの立場はそれが面白かったらしいという事があって。実を言うとそれ程作らないで、自分のままを出していって演技が出来るという事を面白がってくれたというのはあります。ですから、イデオンの頃のメインの全部の名前は今言えませんけれども、20人ぐらいはしょっちゅう面白がって来てくれた事は事実です。
藤津:一方で先程ドバの歩きがドバらしいという話がありましたけれど、実際の画を描く時はキャラクターと役者さんを演技させている訳じゃないですか、湖川さんは。そういう時はどういう風にらしさというのを掴むものなんですか?

配信されましたが一応訓練として。いつ終わるだろうか…。

坂井真紀の色紙コメント

ドバの悲しみが分かる。そんな娘でありたいです。2010.8.4.

となりには湖川イラスト。トークショー直後はスタッフが撮影禁止として眼を光らせていたが、上映後は引き上げたのか撮り放題。

関連:Twitterのコメント

http://twitter.com/sakai_maki/status/20569224240

ありがとう。これもイデのお導き。うっ、行きたかった(涙)

http://twitter.com/sakai_maki/status/20667055454

伺えなかったイデオンナイト。変わりに行った夫がこんな素敵なものを預かってきてくれ涙。湖川さん、本当に本当にありがとうございました。宝、、、発現、、、。 http://tweetphoto.com/37770857

藤津亮太氏のツイート

http://twitter.com/fujitsuryota/status/20611054632

長いトークとはいえ、楽屋では「埋めろといわれればいくらでも」(富野監督)、「普通のトークショーはたいがいちょっと短いしね」(湖川さん)という話がでるほど、モチベーションが高い状態ですので、そのテンションそのままにお送りしました〜。