新機動戦記ガンダムW Frozen Teardrop 序章の“序章”

今回の構想は10年前にさかのぼる

――今回の作品「Frozen Teardrop」はいつごろから構想されていたものなのでしょうか?
隅沢 10年以上前に「ガンダムW エントリッヒ・エロイカ」という小説を書くお話をいただきました。トレーズがあの時代を振り返る、というトレーズ目線によるWの物語、そんな話の骨子まで出来上がっていました。あとは物語を書けば完成、となったわけですが、当時の私は神経過敏なところもあり、書く力量が足りなかったため、未完成のままお蔵入りとなっていました。あれから年を重ね、いい意味で鈍感になったし、小説を書く技術も多少は上がったので、再び小説にチャレンジしようと思ったのです。
――ということは、トレーズ目線でWのストーリーが展開されていくのですね?
隅沢 それも選択肢としてあったのですが、せっかくですから新たな展開を加えたい。なので「エントリッヒ・エロイカ」の物語を元ネタにして、今後の新たな展開を加えて書いていこうということになりました。
――10年越しの企画が、いよいよ実現ですね。
隅沢 最初は「エンドレスワルツ」の小説の文庫版が出る時に「エントリッヒ・エロイカ」の物語を書き足そうかと思いました。ですが、分量を計算すると、単行本5冊以上になることがわかって……。ガンダムW本編の小説版が全5巻なのに、OVAの小説が本編より長くなるってのはまずいでしょう(笑)。で、ここでもお蔵入り。
――となると、10年越しというより、ついに「エントリッヒ・エロイカ」が日の目を見る!
隅沢 それは大げさ(笑)。あくまで元ネタで、この作品は「Frozen Teardrop」ですから。
――……勝手にエキサイトしてすみません。ですが、トレーズの目から見たWの世界を描く作品が元ネタになっているということは、もちろん、5人のガンダムパイロットや、リリーナなどが登場するわけですね。
隅沢 ネタバレになってしまうので、私の口から具体的なことを言うことはできませんが、理屈としては、そうなるでしょうね。プロローグには、おなじみの人物や「これはあのキャラでは?」と思われる人物が出てきますからね。
――それは楽しみです!

Wは遠い昔の作品なんです

――隅沢さんにとって、Wの世界を小説で表現するということは、どういうことなのでしょうか。
隅沢 Wは私が手がけてきた作品の中でも特に「まだやりたいことがある! 書き切ってない!」という思いがあります。作品に納得し切ってないという気持ちは、15年たった今でもその気持ちが冷めることはないんです。
――ということは、今回の小説は、その思いが詰まった作品になると。
隅沢 そうですね。TV版で語られている歴史を変更するような派手なことはしませんが、解釈を私なりに多角的に表現する作品にしたいな、と考えています。
――作品を書くにあたって、気をつけていることはありますか?
隅沢 Wが15年前に終わった作品である、ということですね。
――それは、どういうことですか?
隅沢 私が生まれたのは第二次世界大戦が終わって16年後の昭和36年。当時は高度成長期で、戦争は遠い過去に追いやられていました。たった16年前の出来事なのに。でも、考えてみたら15年とか16年って、遠い過去なんですよ。Wが始まった当時、Wでガンダムというものを知った人にとって、ファーストガンダムは遠い過去の作品に見えたと思うんです。ファーストガンダムが終わって、Wが始まるまでの間は15年しかないのに。その感覚と同じものがこの「Frozen Teardrop」にもあると思うんです。ガンダムUCが始めてという世代にとって、15年前の作品、Wは遠い過去のものなんです。だから、そのことを意識しつつ、Wを初めて見るという若い世代の方たちにも理解されるもの、共感されるものを書ければな、と思っています。
――プレッシャーはありますか?
隅沢 書き切ってない! という思いから始まったものなので、プレッシャーはあまり感じてないですね。ただ、AC195を中心に、過去やら未来やら、お話があちこちに飛んでいく予定なので、読者がついていけるよう、丁寧に表現していこうと思います。

Wの世界を知れば、さらに楽しめる

――今回の小説に登場する新型のモビルスーツは、どのようなイメージですか?
隅沢 ミリタリー色をより強く出したいと考えています。私にはそういった素養がないので、多くの方々のご支援をお願いしております。ネーミングに関しては、頑張ってWっぽくケレン味を出していこうと思います。設定、性能、その他はSF的なリアルにできればと考えています。
――Wのファンには、この作品をどう見て欲しいですか?
隅沢 Wを何度も見ている方には、より深く楽しめる作品だと思います。今回のプロローグで触れる新学期の転校生や、AC196の老人のくだりも、また、老師・張やマックスウェル神父が何者であるかも、読めばおわかりになるでしょう。また、普通は読み流してしまうところでも、世界観をよく知っているからこそ、引っかかるような謎も出て来るかもしれません。なぜ、MCという新しい時代になったのか。ACとのつながりは。そんなことを考えながら読んでいただけたらと思います。Wの世界を知らない方は、ぜひ一度WのDVDを見てみてください。この小説の楽しみ方が広がります。
――これからの意気込みをお願いします。
隅沢 今回は「一度、キレイに終わったもの」をまた復活させるためにはどうすればいいかを模索しつつ、「なぜ、続編はなかなかうまくいかないのか」という理由を考えながら、試作的に書いていきます。ですからこれは、正確な意味での続編ではありません。成功する続編を作り上げるための段階的な小説です。そして、Wをファーストガンダムの完成度へ近づけるための作品です。……すいません、さっきはプレッシャーを感じていないと言ったのですが、意気込みを口にしていたら、プレッシャーで気持ちが悪くなってきました(笑)。
――最後に、読者の皆さんにメッセージをお願いします。
隅沢 かつて、ゼクスは「こんな私に付き合わなくていい」と言いました。でも、ノインは「言ったはずです、もう待つのは御免です、と」そう言ってゼクスと行動を共にします。読者の皆様には、私がゼクスのごとく言って、ノインのように言い返してくださることを願うしかありません。どうぞ、よろしく応援のほどを!