オーバーマン キングゲイナー DVD1巻ブックレット 富野コメント

今回の作品ほど企画から実制作にはいっていくにつれて、作品として独自な世界を創っていったものはない。とてもいい意味で、ぼくからもスタッフ各自の思い込みからも離れていきながら、作品化されていく経験というものをした。いまや“キングゲイナーのような”という形容詞が一人歩きを始めていくかもしれないという感覚さえある。
本来、創作というものはそのような感覚を手にいれることなのだが、昨今、ぼくのなかでは“かくあるべし”といった概念に捉われている部分があったので、この体験は元気になっていく刺激剤になっている。
このような体験をさせてもらっているのも、ストーリー作りから作画、背景、彩色、デジタル・オペレーター各位の奮戦によって、そして、若い制作陣の労働によって達成されていることで、これを体感できるようになったのもまた嬉しいことだ。過去の仕事ではこの感覚は希薄で、仕事としての義務でやってみせろと号令していた記憶があるから、体験として新鮮なのだ。
また、デジタル化によるハードウェアの変換作業は感覚的にも未知の体験であったので、時代を洞察していく上では有益な体験として継続している。ぼくにとっては、四十年前にTVアニメの制作を初体験したビビットな体験に似ていて、スキルを得るための感覚が戻ってきているという感覚がある。現在だけしか知らない諸君には想像できないことだろうが、この“舞い戻り感覚”は、自分はもう十年生き延びられると思わせてくれる。
通俗の大人たちのように、デジタル技術を妙に崇めるのもまちがいなら、否定するのもまちがいで、フラットに時代につきあえる感性を醸成してくれるこの仕事は、脳内分泌物の活性化になっていると自覚できるので、これをしてオーバースキルといわずして、なんというのか!?
対比がないから分からないというのではなく、新しい事象とのつきあい方はキングゲイナーのようにすれば、いつでもオーバースキルを手に入れられるのだと信じて欲しいということである。そのような作品だから、多少おかしいところがあろうが構うものか、妙な面白さと生真面目さが同居したフィーリングを楽しみつつ、諸君独自のオーバースキルを手に入れて欲しいと願う。


原作・総監督 富野 由悠季