NT10年04月号 富野由悠季インタビュー「次へ、踏み出せ」

NT25周年に寄せて

栄枯盛衰がある中、干支が二回りするだけの時間を生き延びたということは、それだけで価値があることです。それは認めざるを得ないし、そこには認めるべきものがあると思います。懐古趣味・原理主義に陥らず、次の12年を生き延びる道を探ってください。おめでとう。

組織を硬直化させないためにできること

―― 85年、「機動戦士Ζガンダム」の放送年に創刊した本誌が25周年を迎えました。
富野 昨晩、前号についていた300号記念の別冊付録を見ながら、この25年って、ここに書かれているとおりのことだったよね、と思いました。それ以上に付け加えることはないですね。だから、「ニュータイプ」のようにこうやって続いてきた媒体は大事にしていってほしいと思います。
―― これからの本誌にはなにが必要だと思いますか?
富野 僕のような年齢の人間が、今「ニュータイプ」を読んでいるような読者が、なにを好んでいるのかというようなことはわかるものではありません。でも、逆に年長者だから言えることがあるとするなら、懐古趣味や原理主義に陥るということではない、ということを声を大にしていいたいですね。そうなってしまえば、感性も頭脳も、そして組織も硬直してしまっているということですから。
―― 組織も硬直化する、ですか。
富野 たとえば自民党衆議院選挙で敗れ下野していますが、民主党が政治と金の関係であれほど逆風になっても、世間に「やっぱり自民党」という流れが生まれていないでしょう。あれは組織が動脈硬化を起こして、自らを再生することができなくなっているからです。一方、伝統芸能である歌舞伎。伝統を保持するだけでなく、新しい世代の役者が出てきて、時代に乗っていけるように切磋琢磨しています。組織が柔軟であれば、そのように時代に合わせて変化していくことができるはずです。それがフットワークのいい組織ということで、その努力は必要なのです。
―― 硬直化した組織は、「ガンダム」シリーズの地球連邦を始め、富野監督作品にもしばしば登場します。
富野 あれは自分が学生時代に自治会に参加した経験があったからできたのです。それを通じて、世の中の組織や、いわゆる大人たちが、身過ぎ世過ぎのために、情実で物事を動かしているということが身に染みてわかってしまいました。そうやって身近なところから体感的に組織論を学び、それが仕事の中に自然に反映されるというのは、雑誌をつくっていてもあるでしょう?
―― というのは?
富野 たとえば角川ホールディングスという組織体。それがここに来るまで、どういう社会情勢の変化や様々なトラブルにどう対応したか。あるいは現在の角川映画というのは、昔の大映を継承していますが、あそこは永田雅一という独裁的な社長の下で、娯楽から芸術まで独特のフィルモグラフィーを形作った会社です。どうしてそういうことが可能になったのか。それを振り返ってみるだけで、組織を硬直化させないためにはどうすればいいか、を考えるヒントになるはずです。「角川ってなんだろうね?」「『ニュータイプ』ってなんだろうね?」という視線を自己開発することで、今自分がいる環境を見つめ直すということが、硬直化を免れる第一歩だと思います。思考回路が内向したとき、そこから生まれることばや思想は間違った方向へと進んでしまうものですから。

新しいキャラクター論を探る時期にきた

―― アニメ雑誌はアニメ作品と切り離せません。アニメ自体は、これからどうなっていくとお考えですか?
富野 とても難しいことですが、こういうことは言えると思います。たとえばキャラクター論ですが、当面は今主流の目が大きくて、アゴが細い造形でいくとは思います。しかし、その中で次の新しいキャラクター論を探っていく必要になった時期ではあると思います。もうひとつ、意識すべきなのは今の大学生ぐらいの感覚でしょう。ある雑誌で、平成生まれの大学生が「僕らにとっては昭和の軍人も、全共闘も同じです」と発言しているということです。そういう彼等の目線を意識したときに、アニメやあるいは漫画において、どういう物語がありうるか。こういったことを考えることは、これから必要になるのは間違いないと思います。
―― 富野監督自身は、どのような作品を監督したいとお考えですか?
富野 今、非常に気になっているのが、現実そのものがフィクション化、漫画化してきているということです。たとえば今の政治って漫画そのものでしょう? そういう現実をリアリズムで描くエンターテインメントができないか。今度の小説「リーンの翼」は昔のノベルスを改訂し、OVAリーンの翼」の物語と合わせてひとつの物語にしたものですが、そこではリアルとフィクションがごっちゃになっている状況というものを取り入れて書くという試みをしてみました。その延長線上にどういうアニメがありうるか。高いハードルですが、そこの部分を、考えています。

角川アニメチャンネル 月刊ニュータイプ25周年メッセージ 富野由悠季

ニュータイプ25周年おめでとうございます。
が、25周年でめでたいというのは、ニュータイプが25年、年をとってしまったということですから、ここにいらしている方は「そんなの知らねぇよ」という方もいっぱいいらっしゃると思います。逆に「全部知ってるよ」というのは、大変ですね、これから。死ぬまで元気に生きましょう。
僕にとってみてニュータイプの創刊というのは「えっガンダムが終わっちゃって二番手のガンダムの仕事を始めた時に創刊されても対応できない」っていう「あーあ、もうあとはやるしかないのよねズルズルズル…」という歴史の25周年でしたので、あんまりめでたくはないです。
年をとるってのはこういうことですから、こういうこと平気で言います。
それで「俺たちは私はそんな風な25年の人生にしたくない」と思って欲しいんです。思うことが次の25周年を作ります。そういう意味で、歴史というのは繰り返しになりますけども、若ければ若いほど明日はあるんだぞじゃなくて、明日は俺が私が創ってみせる、という風に思って、ニュータイプのような歴史もあるということを参考にして皆さん方のこれからの未来の指針にしてもらえばありがたいと思います。ガンダム富野由悠季でした。