富士山静岡空港の将来を描く−スペースポート− 富野発言分

行ってきましたのでメモ。

富野 富野「さん」だそうです(色んな肩書の方がいるので、「さん」に統一したいという高野氏の意向)。まさか、「さん」ではなくて、こういう先生方とご一緒に、こういう壇に立つ、っていう様な地獄を見るとは思いませんでした(会場苦笑)。アニメ屋の人間というのは、もっと卑屈に扱っておりますので、こういう形でお話してもらうのは、本当にありません。が、高野先生…あ、「先生」っていっちゃいけないんだね。
高野 あ、いいです。
富野 すいません、やはり高野「先生」になります。お話をお伺いして、色々考えませんでした。色々考えませんでした、っていうのは、僕が基本的に「機動戦士ガンダム」の様な作品を作る、原作と監督の様な立場をやれる様になったというのは、実を言うと僕が宇宙旅行にしか興味がなかった子供だった、っていう事がありまして。今日はここでお話するに至って改めて、自分の宇宙旅行にいつ興味を持ったのか、ということも調べました。調べて、昨日漸く一年間も記憶がズレていたという事が分かりまして。今、ここに一枚出した画像が、日本の映画のタイトルでは「月世界征服」というタイトルです(パワーポイントの画は海外版DVDパッケージとポスター画像?)。1951年に日本で公開された映画です。「一年ズレていた」っていうのは、僕は、二日前までは小学校5年の時に観た映画だと思ってましたら、小学校4年の時に観た映画でした。それで、この映画が全ての始まりになってるっていう風に昨日確定出来ました。自分でも「あ、小学校4年の時だった」。というのはどういう事かと言うと、もう一つ大事な話があります。基本的にアニメとかまんが世界に興味を持ったのは、僕自身は「鉄腕アトム」からでした。「鉄腕アトム」の漫画連載、つまり雑誌「少年」で始まったのは、1952年、僕が小学校5年生の時です。ですからこの映画を観たのは「鉄腕アトム」を読み始めた頃に観たんじゃないのか、と思っていたら全く逆で。この映画の方が先でした。この映画の画像はネットから抜いてきましたんで、撮影しないで下さい(会場苦笑)。マルCについてはクリアしてありませんので。これと僕が映っていると、僕がとんでもないお金を払わなくちゃいけなくなりますので、ご勘弁頂きたい(しかし撮りまくる来場者)。という事がどういう事かと言うと、ネットでこれはDVDで売っているという事も分かりました。が、この映画は大変つまらない映画ですから、観なくて結構です(会場笑)。死ぬほどつまらない映画です。死ぬほどつまらない映画なんですが、これは映画史的にも、それからSF映画というジャンルにくくりましても、この「月世界征服」という映画は実を言うと大変歴史的な映画なんです。というのはどういう事かというと、この画像を見てもお分かりの通り、月の世界、月面をかなりリアルに描いた映画の最初のものです。そして、当時「総天然色映画」という風に呼ばれていました。で、再現した。それから何よりも宇宙服から何やらロケットのデザイン。このロケットは要するにペンシル型のロケットですが、何と原子力ロケットです。ですから地球から月まで一気にこれで行けました。そして月から地球まで一気に帰ってこれる、っていうお話です。登場人物が4人しかいませんから、映画としてロクでもない話しかない。そりゃあ描けないだろう。月に行って帰ってくるだけの話なんです。ただ、小学校4年の時に、これを総天然色映画で小田原の映画館で観た時に、本当にひっくり返ったのは、まずロケットが発射するというボリューム感とか、それから、無重力帯に入った時の描写とか、っていうのが当時の映画技術では、基本的に最高度です。最高度の技術を使って再現していました。それまでは、無重力帯での表現というのは映画でおそらくやってなかった筈です。今この手前、赤い宇宙服と、ブルーの宇宙服があります。実を言うと宇宙服らしい形をしていたり、それから赤とかブルーで色分けをしているのは、総天然色の映画だから色分けしているんだろうという考え方もあると同時に、そうではなくて劇映画として見た時に、キャラクターとして識別する為に色を付けておかなくてはいけない、という事も分かった。と同時に「妙だな」と思ったこともありました。が、それは中学校になってからでないと分かりませんでした。「妙だな」というのはどういう事かというと、宇宙服がこんなに色が付いていると、今の皆さんがご存じのリアルな宇宙服が、基本的に白っぽい色をしているという事は、決定的な意味があります。ですから、ブルーとか赤、宇宙服ってのは基本的にかなり危険です。ガンダムがブルーと赤と黄色を使ってるっていうのは、基本的にまんがだからやってる事で、あれはやってはいけません。ていう様な事を考えられているヒントになっている訳です。そして、「鉄腕アトム」が始まったという事が、僕にとっては基本的にSFというジャンルがある事が分かった。ロケット好きというだけで始まりましたので、ジャンルが分かったという事だけです。
鉄腕アトム」が始まった年にこれも雑誌「少年」にグラビアに載っていた一枚です(1952年1月号 科学大画報)。この絵は、とても大事にして現在までこの様に保存してありました。これが僕にとって決定的に宇宙旅行に対して興味を持たせるものになりました。決定的に重要だというのは、これは当時宇宙旅行を考える上で最高のブレーンである、フォン・ブラウン博士の考えです。ドーナツ型の人工衛星、それとロケットが単体で描かれてますけど、このロケットは三段ロケットのうちの、おそらく上の二段の筈です。翼が四枚付いていて、あそこでもう一度切れて、先端の部分だけが地球に帰還するんだろうというプランのロケットの姿です。これが「鉄腕アトム」の漫画が連載された年に雑誌「少年」でこういう様な形で、描かれているのが僕にとって宇宙旅行というものの興味を決定づけた絵だったんです。このイメージがあったので、それがその後の自分の仕事に繋がってしまった。こういう過去論のお話をしていく方が、アニメと宇宙旅行の関係性というのが分かるという風に思っています。どういう事かと言いますと、今日現在までガンダム以後30年です。実際にアニメというものが夢とロマンを標榜し、夢とロマンを標榜するだけではなくて、30代40代になりかけてるような技術者たちが、既にガンダムをきっかけにしてこの世界に入ったという様な方を、本当に知る様になりました。そういう様な事を考えますと、アニメとかまんが、それからSF一般が持っている、社会的な性能、任務、それから義務みたいなものがあるのではないか、という事が本当に分かってきました。そして僕にとってそれが今見ました二枚の画像で、基本的に決まった事であった。ですからその後、例えば理科系に進むにしても、文科系に進むにしても、中学卒業、それから大学入って、色々葛藤はあったのですが、基本的にお勉強が出来なかった生徒だったので、映画学科にしか進めなかった、という風な経緯をとりました。が、映画学科をやった事も実を言いますと、純粋に映画という仕事が文科系の仕事ではなかった。理科系の要素を持っていないと作れないのが映画という「文芸作品」だという理解も出来るようになりました。それらの事をより確定的にさせてくれた画像というのがありますが的なものがありますが、もう一つ忘れてた。
とっても大事な話です(スライド切り替え)。これは、僕が「日本宇宙旅行協会」の会員になったときの手に入れた会報です。現在の、ここにいる関係者の日本宇宙旅行協会と全く違います(ググると現在は「日本宇宙飛行協会」と改称し休眠状態らしい)。僕はこれに1952年中学2年の時に入会しました。5月6日に入会の申込書を出したっていう日記を昨日見つけました。で、これは1955年の2月25日の会報(第5号)の表紙なんですが(スライドには「トミノは1955年2月25日発行の三号から1965年11月30日の35号まで購読」)、なぜこの55年かと言いますと、カラーページになったのが55年だったからです。それまではモノクロの、8Pもない様な小冊子でした。そして、この日本宇宙旅行協会がこの時にやった大イベントというのが真ん中(スライドには57年7月1日発行とある)にある「火星の土地売ります」っていう……まぁ遊び事をやってました。で、火星の土地に1万坪千円で権利を売るよ、というのをやりまして。細かく書いてある所にちゃんと断り書きがしてありまして。実は千円の細目は、200円は手数料で、800円はこの協会への寄付金として、入金していただきます、とちゃんと書いてありました。で、様な事をやってましたけど、この日本宇宙旅行協会というのは、原田三夫という当時のいわゆる科学一般についての啓蒙をする事を私財を投げ出してでもやってる様な方でした。極めてプライベートな協会でしたので、自動的に消滅するという運命をたどりました。が、少なくとも僕は、ここに書いてある通りです。1965年の11月30日の35号まで、手に入れているという事ですので、大学1年生くらいまではこれを読み続けていた。右側にある日本宇宙旅行協会のバッジは一週間ほど前に撮影したもので、現物があります。これは僕にとってはお宝です。何度も言います。こちらの日本宇宙旅行協会とは一切関係ありません(会場苦笑)。先程ちょっと話が出ましたけれども、映像的に、徹底的になくなった画像というのが次のこれです。とても汚い写真なんですが、1956年1月2日の読売新聞に掲載された写真です。実はちょっと事情がありまして、読売新聞のものをスキャンしてみましたけれども、こんなにキレイにスキャンできませんでしたので、もうちょっと別の出所のものを、プライベートに持ってるものでしたので、これについては撮影していただいても結構です。代用しました。
フレーミングや何から、読売新聞と全く同じです。これはどういう写真かと言いますと、読売新聞が1956年の1月1日元旦の日から「宇宙のコロンブス」という写真つきの連載記事というのを一ヶ月間掲載しました。その時のこれは2回目の写真です。つまり、三段式ロケットを富士山のふもとの基地で組み立てて、それを打ち上げるというグラビア記事を構成しまして、一ヶ月近く、週に2、3回だったと思います。連載してくれまして。これが僕にとって基本的に宇宙旅行ってのをリアルに考えていく、ヒントになったというのが、この画像です。ただ、今日この場所でお話しするに多少相応しくないなと思うのは、富士山がちょっと近すぎる、というのが多少問題で(笑)。ですが、基本的に、日本人が宇宙旅行を考えると、こんな風な映像になるんではないかということに関しては、大変自分自身がものを作っていく、創作をしていく時ヒントにもなったというのがあります。だけど一番大事なことは三段式のロケットをこの様な形で実際に建造していくのではないか、というのを1956年という年に読売新聞の科学部のスタッフがやっているという事です。これは先程お伝えした「月世界征服」の様な映画以後、所謂「SF映画」というものが何本かそれなりの作品が公開されたという事があって、刺激を受けたんだろう。それから何より一番重要なのは、先程お話したフォン・ブラウンという方が発案したプランニングを具体的に映像化してくれた、という意味ではかなり大きな役目を果たしていると同時に、僕の様な人間は、これによって啓発された部分があります。
その啓発のとどめがこの絵(56年19日、24日号の絵と読売新聞土曜? の同年3月「宇宙飛行機」の絵)です。三段式ロケットで人工衛星軌道まで上がれる。が、実を言うと、この読売新聞の連載で、僕自身が漠然と考えていた「月まで行くにはどうするんだ」という部分を解説してくれたのがこの画像でした。つまりフォン・ブラウンって方が考えている、人工衛星軌道から月まで行ロケットは別物である。ペンシル型ではない。別物であるという事でこのデザインを提示していたという事です。ただ、不思議な事に、僕は俗に「フォン・ブラウンのムーンシップ」という風に言ってますし、読売新聞にもその様に紹介されているんですが、なぜかこのデザインはその後画像として現れる事はあまりありませんでした。って事はきっと人気がなかったんだろうと思います。ただ、人気がなかったんだろうが、僕にとって一番衝撃だったのは、このデザインの在り方でした。つまり、空気抵抗を一切考えないで済む。それから例えば燃料タンクが下に4つ、正確に言うと8つ。もっと正確に言うと真ん中にも小さなタンクがいっぱいあるんですけども。タンクがナイロンで作ったもので、ナイロンで作ったものだから軽いし球体で容量を確保する。なんとこのタンクは中身が無くなったら月に置いて行ってしまって、月の修理の時の資材にしても使うんだよということが、実際にこの連載記事で解説されているものでした。そして、このムーンシップのキャビンというのは一番上に載った球体です。そこがこの画像の通り三層になっていて、こういう画像を見せられた時に、宇宙で使う道具というものは、この様な不細工な形をしたもので良いのではないか、という事が本当に確定できた。それを、僕にとっては1956年の時点で確定できたっていう事が、その後の宇宙ものの作品を作る時に僕にとっては徹底的な資料になってしまった、という事です。
そこで、アニメで宇宙旅行の様に宇宙を利用するためには何を考えなくちゃならないのか、っていう事で今考えているのが、宇宙エレベータを考えようと、こういう形の宇宙エレベータがあるのではないか、という風に思っています(キャピタルGの宇宙エレベータ概念図提示)。この(図の)説明は今一切しません! が、この様な素っ頓狂な形にしているのはどういう事かというと、ムーンシップが一番大事な事で、こういう事が……画像元に戻すにはどうしたらいいの? え、反対? この不細工な形のもので、宇宙では使えるんだ、という事があったので、ガンダムの様な……アニメ的なものは、戦艦と言っても、「宇宙戦艦ヤマト」ではないけど、ああいう風な形でも良いのではないかな、と思って好き勝手やらせてもらった事もあります。ただ、自分にとって一番……(パワーポイントを操作してもらう)…次のやつ出して。…違う、その前。その前。その前。その前。違う違う、もう一つ前。
…何度も言いますが、先程から年号の事言ってます。1951年この画像。どういう事かというと、子供にとってという言い方じゃなくて、人にとっての記憶です。人にとっての記憶で一番刺激的なもので、大人になっても残っているものはいったいなんなのかという事を、あまり自覚していなかった自分であっても、究極的に宇宙利用とか宇宙旅行の事を考えた時に、この絵(「少年」グラビア)に戻ってしまった。戻ってしまう自分の物事に対して社会に対して興味を持っていた時に、基本的にこの画像に突き当たってしまうというのが僕にとって現在もアニメの仕事をさせてもらう様になったんじゃないのかなと思っています。
で、今日はここでこの画像をこれだけ見ていると、「ふーん、いつもこの画を見ていたんだ、ねぇ。トミノっていう人は」とお思いになられるでしょうが、実を言うと嘘です。本当に今回の事がありました、というのと、この2、3年、昔自分が集めていた絵というのは、本当に探しました。探した上でようやくこれを見つけ出しまして、ああ、自分にとってこれが記憶の原点になる、という。それから物事を考えた時の原点になっているという事で、この絵を皆様にお示ししているわけです。その事が一体どういう事かというと、僕にとってアニメの中で、宇宙を描くことが例えロボットものであっても、多少リアリズムを持ったものを考えるときには、どんな事だろうか、という回路をを考えてきたつもりです。そういう回路を考えていった時に、やはり原点にあるのはこういうものである。つまりドーナツ型人工衛星が僕とっての芯であって、実を言うと現在周っているISS、あれは人工衛星ではない。とても気持ちが悪い、という風に思っています。というのは、慣性重力で擬似重力も発生させる事が出来ない所で半年も人間を暮らさせるのは、それは拷問なんじゃないのかな、という風に思ってます。そして、そういう風に思うことが、次の技術をどういう風にしていくかという事や、現在あるISSスペースシャトルが飛ばなくなってどの様な保全をしていくのか。どの様に継承させていくのか。継承させていった時に、あの形のままでいいのかどうか、という事を我々が…ごめんなさい、NASAと、関与しているJAXA、高野先生も関与しているかもしれませんけども、どの様に改革してドーナツ型にしていくか、みたいな事を本当は考えて欲しい。だけどその為の方法論が見えていない。そういうものを見せていきたい。どうして僕がドーナツ型に拘ったかというと、ドーナツ型でなければ擬似重力を発生させられないんですよね? っていう単純な事です。そういう意味ではそれを指し示してくれたフォン・ブラウンっていう技術者であり、科学者であり、実は研究者であり、未来志向を持った人の発想というのがある訳で。そういう意味では極めてクリアーに原理原則を押さえているプレーンな。それはすばらしいことなんだと。それをどうリアルに落としていくかという事を考えていくためには、やはり、この様な画像から全てを出発しなければいけないんじゃないのかなという風に思っている。そして、説明を割愛しましたけれども、この様な素っ頓狂な絵が、もし! 近い将来アニメ作品を作らせていただく様になれば、宇宙エレベータを考えていける様になると思う。この形はどういうことかというと、現在まで現れている宇宙エレベータの画像というのは基本的に僕は、怪しい画像だという風に思っています。つまり、技術論をかなりシンプルに考えすぎていて、ちょっと危険な気がしている。もう少しシステムとして考えていった時に、このくらいのボリュームを考えなくてはいけないんだよ、というものの形で指し示してみて、それをアニメの中で一度使ってみて、それを実際にこれから50年検証してくれる若い世代が出てくれれば良いな、という風に思っている。そういう様なことを考えながら、アニメの仕事をさせてもらっているのが、トミノですけれども。今年70になりましたので、余命幾許もありませんので、年寄りの戯言と、聞き流してもらいたい。という風に思います。どうもありがとう(会場拍手)。

富野 (ガンダムでの宇宙旅行について)ガンダムを作っていた時に考えていたのは、ここでお話されている様なレベルっていうのは、宇宙旅行っていうレベルではないんで、基本的に無視するっていう。宇宙移民であるという事を考えていった時には、弾道飛行もクソもないわけです。が、この2年程宇宙エレベータの事を考え始めたのはどういう事かといいますと、根本的に液体燃料ロケットを使うという事で、人が移民する様な交通機関になりえない、という事がようやく分かってきた、という事がありまして。宇宙エレベータの事を考える様になりましたということです。宇宙エレベータの事を考えると今言った様な問題が出ると思うし、そういう話になると稲谷先生がいらっしゃるのに、先生の仕事を全く無視しているんじゃないのかと。そうなんです、無視する視点の話なんです。ところが、その問題の宇宙エレベータ論を考えないと、ロケットありきだけを考えていると、宇宙旅行をするとか、宇宙へ移民するとか、全てロケットを使わざるを得ない、という所へ帰結します。そういうものの考え方が、ちょっと視界が狭くなっているんじゃないのかと思う。ではその事が液体酸素と液体窒素を燃料として推進剤として使ったロケットは要らないのかという話になりますかというと、全くそういう事ではありません。ロケットがなければ宇宙エレベータは作れません。そういう単に技術論ではなくて、システムをどの様に構築していくか、という事がなければ、宇宙エレベータ1本も建設することができないという話が鮮明に分かってきます。そういう風な事を考えるために、今言った様な、宇宙エレベータの事を持ち出したんです。個人的には先程お話した通り、宇宙旅行と言っても、フォン・ブラウン博士の発案の、三段式ロケットと、あのドーナツ型の人工衛星に憧れて宇宙旅行というのを考え始めた人間ですから、宇宙エレベータなんてのは、現在只今も認めたくもありません! 認める気もありません。実現させる様な勢力があったら、それを潰しに行きたい(会場笑)とまで思っています。そのくらいアンビバレンツ、股裂き状態になっているにもかかわらず、宇宙エレベータの事を考える事によって、何が分かってきたかというと、液体ロケットが交通機関になりえるのか、という事です。それは使い捨てロケットの問題。そうではなくて何度も使えるロケットの開発費の問題。だけどスペースシャトルはそれで挫折をしてしまった。どうして挫折をしたかというと、液体ロケットの限界が技術的に見えていくのではないのかという問題。それやこれを積みまして、お金などの問題を考えていった時に、とても深刻にならざるをえないんです。ですから宇宙を利用するという事を考える事自体がナンセンスなのかもしれない、というとても危険なところに入って、いや、こういう所でそういう発言をしてもらっちゃこまる、という事が左右から飛んでくる、という事も了解しています。
が、アニメ屋です。アニメ屋というのはどういう事かと言うと、そういうものに縛られないところで可能性として考えてみるという事をする。その事によってシミュレーションしたことが、じゃあリアリズムを持ってどういう風に実現させるかという話になってくるわけで。それはアニメ屋の仕事ではない訳です。ですから、アニメ屋がやることはどういう事かというと、360度なのか、それから無限大なのかという可能性を考えて、その上で現実の回路という風に設定していくのか、設定していかざるをえないのか、設定することをやめようぜ、という風に考えるのか。そういう色んな糸口を開示していくのが僕の仕事だと思ってますし、エンタメ、エンターテインメントの仕事でもあるんじゃないのか。だから、宇宙エレベータありきでものを考えたくない。けれども宇宙エレベータありきで考えなくちゃいけない。これから50年〜100年ぐらいの時間があるんじゃないのかなと思ってる。ですから稲谷先生だけではなくて、その後継者の人たちもまだあと5、60年は液体ロケットの開発をやってもらわなくちゃ困る、という事もあります。
じゃあ、現実問題として、静岡で、スペースポートの話はどうするの? って。こういう風に先生は仰ったんですか? 交通機関の問題まで考えていく。つまり、JR東海と、リニアモーターと停車駅の問題と、それから道路交通網の整備という事まで全部かかわらなくちゃいけない問題になってきますので、そう簡単に、進めていい問題なのでしょうか? という風に言わざるをえないのが今の僕の立場であります。ただ、地場産業を振興する、地域振興のために、この様なコンセプトがありうるのか、ありえないのか、といえば、基本的にありうるのではないか、という風に思っています。
もう一つ、今、無性に話したくなっている話があるんですが、とても危険な話なので、やめさせて頂きます(会場笑)。まぁ、そこまで言ったらどうせ、何の話だ、と言う事に関して言えば、こういう言い方だけは許されると思います。東京スカイツリーを考えるに触れて、防災の話はしたくない。なるべくするのはやめようぜ、っていう、そういうシンポジウムもありました、っていう話です(会場苦笑)。これ以上は絶対申し上げられません(会場苦笑)!

富野 (00で宇宙エレベータが登場していることについて)既に(登場)してますし、そのガンダムの世界では宇宙エレベータを壊してもいます。壊したことに拠っての大惨事という事件も描いています。そういうものを見るにつけ…あ、そのガンダムは僕のものじゃないんで。他人事として見ていた時に、宇宙エレベータの問題点が分かった訳です。硬い構造、つまり剛構造のものでは宇宙エレベータはありえない。ですから、先程チラッとお見せしたとおり、柔構造の宇宙エレベータを考える。ところが、今日現在まで出ている宇宙エレベータの想像図というのは、ケーブルがみんな直線なんですよ。まっすぐに伸びきってます。あんなもん10万km伸ばされて、ピンと張っている様な、つまり糸になるのはとても疑問に感じました。そういう事もありまして、柔構造のケーブルの在り様というのは、研究してみたいし、アニメの上で使うことによって、構造の問題、使い勝手の問題も含めてですけど、ありうるのか。
東京スカイツリーで言ったのはどういう事かと言うと、300年の間に、全部新規に作り直す事が出来る、組み立てなおす事が出来る様にしていかなけれはいけないんじゃないのか。どうして? 300年500年、あのまま保つ訳ねぇだろ! それだけの話です(会場沈黙)。…そういう工学が目指すべき次の道筋というものを、東京スカイツリーの姿が、僕は見せているという風に思っている、っていう話です。この話を突き詰めて、迂闊に防災に行くと、社会的に袋叩きに遭うっていう問題があります(会場苦笑)。ですから、指摘できるのは僕の様なアニメ屋だから指摘できるんです。建築業界、ゼネコンの人たちは、この話は一切口にしません! 作った人ですから、作ったものがどうなるか、みんな知ってるんですよ。それを口にしないっていうのは原発の話と同じじゃないですか、っていうところまで行きます(会場苦笑)。アニメ屋だから言えます。

富野 (アニメは未来を示してくれて有り難い、という意見に対して)逆に言うと、そういう問題点がクリアできる工学論がありえるのではないか。それを目指さなければいけないよ、という事で20世紀型の、つまり剛構造の工学論ではダメなんじゃないの、ということがハッキリと見えてきた。それだけの話です。ですから、目座すべき方向が見えてきてるんだから、きちんと言ってくべきであって、ガンダムありき、みたいな馬鹿な話は信じちゃいけないって話です。
僕は人型のマシンというのは極めてナンセンスだと思ってまして。人型のもので一番性能が良いのは我々人類ですからね。それをわざわざ工学的に作る必要があるというのは、僕には、僕には実は分かりません。すいません、ガンダム作った人間です(会場笑)。

富野 (カーボンナノチューブの話を受けて)今のお話から、先程話した様なスタンスでいるのですが、実を言うと、もの凄くショックな発言を受けました。カーボンナノチューブを使って、機体を作るというところは考えてなかったです。宇宙エレベータのケーブルにするところは考えてはいたけれど。今の様な、機体の重量を考えた時に、100年後のスケールを考えると、かなり安く液体ロケットであっても、低軌道衛星までそれなりの重量で打ち上げる事が出来るロケットが出来るだろうと思ってますし。あとロケットの在り方の問題でもあるんですけど、短時間で衛星軌道に昇れる速度、っていうのがもう少し長時間をかけた推力によって上昇すれば、もう少し一般人が、高野先生は訓練することも面白いと仰ってたんだけども、年寄りにとってはそれは嘘で、過酷なことですから、勘弁していただきたい。、まぁ2、3日ランニングしたら飛べるという、穏やかな上昇であってほしい。そういうロケットっていうものは、僕はやはり開発する必要があると思ってます。おそらく100年スパンでそれができる気もしてます。
そして僕は月の観光旅行ってあまり賛成しないんだけども、現在のISSの周回軌道上を周ってる高度までの観光旅行というのは、なるべく早い段階で進めるべきだという風に思っています。それはどういう事かというと、こないだのNHKでのハイビジョンでの中継ライブをごらんになった方もいらっしゃると思うんだけれども。地球を2日3日周回する間に見下ろす事ができるという事によって、特別な訓練をしたことがない普通の人たち、その人たちの中に絶対に入れなくちゃいけない人がいまして。政治家志望の人たちを乗せて一週間くらい地球を見させるだけで良いです。おそらくその事が人に対して物事を考えるっていう視点を、もっと大きな視界を手に入れる事ができるのではないのか、と思っている。僕はそれが一番重要な教育効果があるんじゃないかと思っています。そうしますと、各論で考えるとめんどくさいし、組織論があるし、政治力学の問題もあるんだけれども、そういう事を解消させる為に、実を言うと、政治家と経済人を衛星軌道上に載せて一週間くらい降ろさないぞ、っていう観光旅行をやって(会場笑)。っていうのが一番良いことなんじゃないのか。地球ってのはこんなもんだぞ。お前らが思っている様に好きに使えるもんじゃないんだ、っていう。だって、90分で一周しちゃうんですよ。そういう実感というものを手に入れるという事が、人の認識論を変えていく部分になるんじゃないのかなと思う。今、「アストロノーツ」、つまり特別な人しか行けない為に、地球を見た人、宇宙を体感した人の言葉が、きちんと人びとに伝わっていない感じが凄くするんです。その苛立ち感がありますので、やはり宇宙エレベータが出来る前であるからです。穏やかに離陸するロケットを開発していただいて、何とか今言った様な人たちを、観光旅行に連れてっていくというのが、急務でないか、という風に思っています。

富野 (なぜ静岡空港がふさわしいのか?)それについてはもの凄く単純です。静岡空港は日本列島の形を考えた時に、一番東はじですから。
高野 日本の真ん中にある?
富野 本州です。本州の位置、それから、太平洋側に面している、と言った意味で述べたら、地形的に一番有望なんじゃないんですか。ただ…。
高野 地球の自転を利用してロケットを打ち上げれば、燃料が安くなる。
富野 そういう意味では本当は浜松基地の方が良いのかな。

富野 (静岡ガンダムの話を受けて)基本的に静岡県は製造業として立憲しているということもあったんだけれども、やはり本州のこのポジションにあるという意味付け。シンボルとして考えた時に、先程ああいう読売新聞の記事をお見せしたんですけれども、極めてシンボリックだなと思った。技術論的に考えれば多少ナンセンスなんですよ。あまりにも北側によりすぎていて、日本列島で、という事はあるけれども、弾道飛行に限って言えばまぁ許せるかな、という事もあるし。実を言うと、ある程度の物量の弾道飛行が出来るだけの技術、もってした時には、衛星軌道まで打ち上げるという事は、なんとかかんとか出来ないでもないんだろう。それからむしろ、その課題をもって技術者に頑張ってもらうという方が、次の世代に繋がる。コリンズ先生が仰ってる様に、新産業を立ち上げていく為に、あるハンデキャップ、というものを設定していった方が良いのではないかという部分があります。それから基本的に赤道直下で打ち上げるのがベストではあるんだけれども、実際に我々が思ってる程の良い位置条件が手に入るとも思っていないという事も最近想像が付きました。それは宇宙エレベータをどこに設定するか、ということを、舞台の上で考えても、ポジションというのはかなり限られてきます、ということも分かってきた。逆に言うと、日本列島というのは地球上で北にありすぎるというハンデキャップがありすぎるんです。そういうあれやこれやの問題をクリアしていくっていう事がこれから100年200年の技術者なり、政治的にものを考えていく、我々が訓練する場としてとても良い場所だと思ってますので、そういう風に考えた時に、静岡の地は日本列島の地図見てください、言わずもがなです。羽田と成田もちょっと奥まってるという感じと、成田は個人的に嫌いなんで(会場笑)。こちらの方がよろしいんじゃないですか(笑)。あのシンボルという意味、分かんないんじゃないかもしれませんが、世の中にポンと出てきたときに、大きな意味を持つんではないかと思ってますので。富士山の背景っていうのは、ゴジラが出てくるより富士山があった方が絵になるっていう言い方もありますので。静岡県でよろしいと思います。

富野 (カーボンナノチューブ採用で重量が100分の一になれば滑走路の長さは関係ないという話について)あの、滑走路の問題は、(稲谷)先生からヒント頂いているんですよ。シャトルの着陸の事を考えたら、4000m級の滑走路がなくちゃいけないんじゃないのかと思ってるんだけれども、あれだって、まだ制御できますよね? もう少し、ゆっくり進入する速度というのは。
稲谷 上がりが厳しいので、ちっちゃい羽しか付けられない。さっきの様なフォン・ブラウンの羽があれば、もっとフワフワ飛べる。
富野 それこそ、カーボンナノチューブを使える様な翼、例えば、ひょっとしたら伸び縮みが出来ることだってあり得るかもしれない。
稲谷 高野先生、細かいことから始めないで、大きな事から行きましょう(会場笑)。
富野 高野先生はもの凄いリアリストだから。衛星軌道上に太陽パネルを張る事をかなりリアルに考えているから(笑)。

富野 (宇宙旅行に女性を誘える要素はないのか? という質問者に対して)こないだのNHKスペシャル観たら、地球の景色見るのってロマンチックですよ。特に夜景と雷は、あれ素敵じゃないですか。あれ絶対女の子だって見たいと思うけどな。ただ質問の仰る意味は、もの凄く大事だと思って。確かに、女の子というか、何て言うのかな…行っても良いなと思わせる「肌合い」みたいなものが、弾道飛行をやる…そうだ、「弾道飛行」というネームがとても嫌いなんですよ。ちっとも肌合いがないよね(会場笑)! 物理学なのね! 「物理学の飛行はやりたくない、宇宙旅行なら良いよ」っていう、そういう肌合いがとても大事で。「女の子と行けねぇじゃねぇか」というのは、一番男が気を付けなくちゃいけない問題じゃないのかなと思います。
高野 技術用語ですから…技術者の女の子は理解できるわけで…。
富野 そんな事を言えば、今日本人の宇宙飛行士だっているんだから、女性で!

翌日、ニコ生で放送

http://live.nicovideo.jp/watch/lv64024822
ニコ生の運営コメント

観客の少ないイベントでしたが富野監督は大変喜んでいました。
稲谷教授と富野監督も最後は意気投合しておりました。
カーボンナノチューブは宇宙エレベータだけでなく宇宙機の材料としても有効なことに
興味をもっていたようです。
今後のお二人の交流にも期待しています

機材トラブルがあった関係で、後日再編集再放送予定。

そのほか

  • 放送では客席がチラっと見えましたが、大体50人くらい? だったと思います。その中で現役議員が一名。
  • 左翼最後列に亜阿子さんと日登の人。高野氏の人数数え間違いにツッコミを入れていた声は亜阿子さん。
  • 基調講演にのみ静岡第一テレビのカメラが入っていました。

聞いてる最中は、去年のサンフェスのRoG関係発言が思い出されました。これが下地になっているんだなと。
カーボンナノチューブ機体案でGレコ破棄とかないよね? 00でもそれに当たるEカーボンはありましたが、物語にそんなに絡まないので気付かなかったのかな。