キャラホビ2011 富野トークショー

石脇 改めまして、ガンダムAの編集長の石脇です。宜しくお願いします。これから角川書店ガンダムAプレゼンツのステージを、やらさせて頂こうと思ってるんですけど、まぁ…あの大監督ですので、どんなトークショーになるのか…。はっきり言って私、コントロール出来る自信ありません。予測不能なんですけど。台本とかも書いたんですけど、全く、その台本が意味を成さない事が分かりつつある、という所で、ぜひお楽しみください。それではお呼びしましょう。富野由悠季監督です。どうぞ。
富野 司会者の方からは、今の様な、とてももったいない様なご紹介を頂きましたが…過去の名声だけで生き延びている富野でございます。宜しくどうぞ。
石脇 監督今回、「ガンダム世代への提言」で対談本を…。
富野 それも僕にとっては今までの仕事のメモですから、現在進行形のものではありません。全て過去のものでございます。
石脇 まぁまぁ、この対談本は3冊でますので。
富野 自分自身が今の様に、自虐的に自己紹介をしなければいけない立場に陥ってるという事は、十分に理解しております。が、今日こういう所にガンダムAさんの方からお呼び頂きましたのも、まだもう少し仕事をやらして欲しいとも思いますので、今日はここにお邪魔させてもらいました。
石脇 ありがとうございました。実はもう一人、スペシャルゲストを呼んでいるんですね。この対談本で出ていただいた方です。大変富野さんと親しく、未来と宇宙の話などをされているという事で。東京大学大学院で航空宇宙工学の教授でいらっしゃいます。中須賀真一さんに登場願いました。宜しくお願いします。先生、こういうアニメイベントはどうですか? 初めて?
中須賀 いや、もう、熱気がすごいですね。相当コアな方が集まってるんじゃないかと。
富野 それは誤解ですよ。コアではありません。今、この世代が、実を言うと一般人に成りつつあるので。コアな人はもっと別な事をやっています(中須賀さんを見つつ)。
石脇 なるほど。では、中須賀先生のご紹介を兼ねて。先生、ぶっちゃけ何をされているのか、というところをですね、紹介させていただきたいと思います。どうぞ。これは何ですか?
中須賀 人工衛星なんですね。僕らの作る人工衛星は1kgという世界最小の人工衛星を作っています。普通人工衛星というと、何百kgとか何tとか大きいんですけど、小さな人工衛星を作って、とにかく安く、早く。こういう宇宙開発をやっていこうという事で。
富野 こんな大きさです、現物は(「提言」を2冊掲げて)。
中須賀 だいたいそのぐらいですね。まさにそのぐらいの衛星を作ろうとしています。
石脇 これは宇宙には、もう何基か打ち上げられているんでしょうか。
中須賀 はい、2003年、2005年、2009年に3基打ち上がって、ちょうど今頃、東京の上空をその内の1基が通過しております。
石脇 なるほど。今日、打ち上げられた…。
中須賀 いえいえ、我々じゃなくて日本のロケットが打ち上げられますけど、関係ありません。
石脇 中身がこうなってるわけですね。
中須賀 そうですね、右側が中(身)ですけど、まさに秋葉原で買ってきた部品。東大は秋葉原に自転車で行けるという絶好の位置条件にありますから。毎日の様に秋葉原で買ってきた部品で学生が作った衛星です。
石脇 なるほど。これは何ですか?
中須賀 ブームが伸びて望遠レンズの働きをして、分解能の高い地球の写真を撮れる「プリズム」という2009年に打ち上げました。これが軌道上ではこんな風になる、今動いている衛星ですね。地球のきれいな写真を撮って送っているわけです。
石脇 というとっても立派な事をされている先生なんですけど、実は先生、ガンダムオタクなんですって?
中須賀 いやまぁ、オタクという程じゃないんですけど、この辺にいらっしゃる方ほどではないんですけど、大好きで。
石脇 監督の大ファンで。
中須賀 そうですね。でも、私よりもうちの家内の方が大好きでですね。最初のファーストガンダム。全巻ビデオ録画していて、毎年5月のゴールデンウィークに最初から最後まで全部観る。付き合いなさい、と毎年全部観ております。
富野 ありがとうございます。と、いう事でお分かりの通りなんです。掛け値なしに東京大学で先生をやってらっしゃるこういう方がいるってことは、この先生が外から見た時にはアニメオタクにはみえません。だから、言ったでしょ? 既に一般化しているんですよ。ですからそういう世界ではないんだよ、こういう様なイベント会場でやってる事で、ここに集まってらっしゃる方のおそらく半分以上が普通の人です。時代がそういう風になってしまった。で、僕の様に50年アニメを作ってる様な立場からすると、本当にそういう時代が変わったという事を意識して、作品作りに携わらなくちゃいけないんだけれども。今度は逆に言いますと、いつまでも年寄りがやるという様な仕事でもない、とも思っています。ただ、そうは言いながらも、今皆さん方も経験なさっている通りです。3月11日以後の事で、大人たちがどういう風にものを考え、どういう風にやっていくかという事を見ていった時に、ほんとに色んな問題が分かる様になってきた。そうすると、大人には任せられない。まして年寄りにも任せられない。実際にやらなければならないのは私達なんだ、ってことを突きつけられた。そういう時代に今度はエンタメとしてのアニメっていうのはどういう風にしていかなくちゃいけないのか、コミックがどういう風にしていかなくちゃいけないのか、っていう事を考える時に、今の、普通の大人には任せられない。となったら、ずーっと昔からやってる年寄りか、ずっと若い人か。中間値はないところでものを作っていかなくちゃいけない時代が来たんじゃないのかなと、今思っている事もあるし。自惚れているところもあるし。それからもう一度働かせてもらって気持ちよく死んでいきたいな、っていう様な、そういう時代になってきた、という風に、時代を切り取ってます。っていう様なことがありますので、7年近くやらせてもらっているガンダムAの対談、石脇編集長の代になって三冊本にまとめて「ガンダム世代への提言」として、世の中にアピールしていきたいって事を考えた。それで、こういう様なブースも作っていただいた。俺スゴイでしょ(笑)。
石脇 はい、非常に興味深いお話でしたけども、監督、今構想中の新企画が?
富野 今、前フリでお話した様な気分もありまして、この数年考えていた企画がありました。その企画を考えていた時に、去年までで言えば、アニメ用の新企画。それから、ノベルスとしての新企画というのが、こんなものだろうと思っていたんですけども、どうもそれだけでは足らないという事で、去年で言えば、僕が一番嫌いだった宇宙エレベーターの事も調べて、宇宙で生活をする為には宇宙エレベーターっていうものも取り入れなくちゃいけないんじゃないか、とも考えました。その上で、企画を練り直していって、例えば、アニメとかコミックでやる物語というのは、千年先二千年先三千年先の物語でいいだろうという事まで決めました。で、決めたところで、エネルギーの事を考えました。つまり、特別な電力。例えば「超電力」みたいなものがあれば、ガンダムみたいなモビルスーツも動かしていいんじゃないのかな、と「思った」。思ったんです。で、最終的に企画を煮詰めるというのは、さっきお話した3.11にも、もう少しアニメでもコミックでもリアルに考える必要があるな、と考えましたので、「超電力」みたいなものでモビルスーツみたいなものを動かしたり、それからロケットの様に飛べるんだろうか、と考えた時に「全部、絵空事でいい」とは思えなくなった。それは、3.11の経験もしました。それから、この歳になって、ああいう悲惨な津波の現場を見たり、それから、原子力発電の問題みたいなものも改めて考えた時に、全部絵空事で考えるのはよくないな、ということで、ガンダムAの対談の時から付き合いの始まった中須賀先生に、例えば電力の話をしたわけです。フィクション上でも、超電力みたいな事だけでエネルギー論は考えていいんだろうか。そして、それでロケットを飛ばしていいんだろうか。と言った時に、超電力だけでは飛ばなかった。ロケットみたいには飛べられない様な感じがした。(中須賀さんに向かって)そうですね。だけど「はやぶさ」は…だって、飛んだんでしょ?
中須賀 ええ。「はやぶさ」はそうなんですけど、「はやぶさ」は大きな電力を使って、実は小さい「プラズマ」って粒子を放り出しているんですよね。
富野 やっぱり、プラズマの粒子ってのは電力で出るもんなんじゃないんですか?
中須賀 ええ。プラズマっていうのは電荷を帯びてますから、電力でプラスとマイナスの電極の間に置くと加速できるんですね。これでもの凄いスピードになって、これを放り出すから逆方向に反力が得られる。反動の推進力が得られるという事なんです。ただ何かを放り出さないといけないんですね。
富野 電力で粒子を放り出すっていう事は出来ないんですか?
中須賀 いや、出来ます。だから粒子が要るんですよ。
富野 え? 粒子も電力で生み出す事は出来ないんですか?
中須賀 いやそれは無理。それは残念ながら無理なんですよね。
富野 っていう様な、事を、へっへっへっへ。かなりごちゃごちゃやりましたね。
石脇 そうなんですか。
中須賀 だから、粒子は持っていくか、あるい宇宙空間の中にある粒子を使わなくちゃいけない。宇宙空間というのは、実は真空の様でいて粒子がたくさんあるんですよね。それを集めてくるというやり方もあります。とっても薄いのでなかなか集まらない。だからやっぱり持って行かなきゃいけないというのがあるんですね。これが難しい。
富野 というのをさんざ聞かされた。もう一つびっくりする様な話があります。今日日本で打ち上げるロケットもそうなんですけど、アメリカのスペースシャトルを打ち上げるロケットもそうで、テレビ画面で見るとロケットっていうのは火を噴いて上がりますよね。火を噴いて打ちあがるという事は、凄く単純に爆発力で飛ぶわけだから、要するに熱いもの。炎の力で飛ぶものだと今まで信じ込んでいたところがあるんですけれども。違うんですね?
中須賀 違うんですよ。炎の力というのは、圧力が急に大きくなる事でものを放り出す力。実際に放り出されるのはなにかって言うと、液体酸素と液体水素が混じった…何が出来るかっていうと水なんですよね。だから結局は水鉄砲なんですよね。水鉄砲の押し出す力を炎というか圧力の力でやっている。だから水を飛ばしながら飛んでいる。これが日本のロケットですね。スペースシャトルもそうです。
富野 炎で飛んでるんじゃないんですって。だから、ガンダムの画ってみんな嘘なの(会場笑)。水で飛んでるんですって。っていう様な今のお話は極めて原理原則で、アニメ・コミックの、つまり絵空事でものを考えていった時に、画面的にはあれでいいんだけれども、カッコがいいからあれでいいんだけれども。だってロケットの噴射口から水が流れてますよ、なんて画見たくありませんよね、って言うのと同じ事です。ですから、映像的にはあれでいいんだけれども、実際にものを考えることは、もう少しリアルに考えることは、やっぱり難しく言えばです。物理学の原則ってのはやっぱり守らなくちゃいけない。だけど、全部守って見て、画にならない事もあるんです。これ、大問題があるんです。宇宙に飛んでいるヤマトの甲板で、ほんとは立ってちゃいけない、という話もあります。で、それを「立つしかない」というのはどういう事かというと、別の問題もありまして、ガンダムの世界観もそうだし、今考えている新企画でも一番困っている問題です。困っている問題だからかなり嘘をついてやっちゃいますよ、っていう話も言ってます。そして、アニメはこうなんですからね、っていう過去のきぬがらも、今の様な話として、取り入れて、基本設定というのを考えて行きたいという部分はある。で、それは中須賀先生のご専門ではないんだけれども、中須賀先生の研究室から、例の宇宙エレベーターに興味を持って、テーマにして研究なさっている生徒さんもいらっしゃいます。そういう様なことも踏まえて考えていったところで、具体的にものを考えていく研究者、それから技術者も、こういう作品を観ながら育ってって欲しい。そういうヒントになる様な作品を作っていきたいな、という風にはまだ思ってますので、もう4、5年。力を貸していただきたい。というのが僕の思い。
石脇 いやー、すごい。宇宙エレベーターやエネルギー論など、要するに絵空事ではなく…。
富野 だけど、絵空事。で、楽しい作品にしていかないと、若い人たち。皆さんの事は言ってません。今の若い人たちっていうのは小学生か中学生に、興味を持ってもらう様なものを作らないと、20年後30年後には繋がらないんですよね。そういう20年後30年後に、今の原子力発電を経営している様な人以上の、いい大人の人たちに育って欲しいな、っていう、そういう作品を作っていきたい。人工衛星を打ち上げている学生さんたちというのも、実をいうと目指すところはそういうところですよね?
中須賀 仰る通りですね。是非我々が期待したいのは、今の宇宙工学で出来る世界に留まって欲しくないなと思うんですよね。
富野 もちろんそうです。
中須賀 どんどん新しい世界を切り拓いていって、我々はあとはアイディアを出していただければ、どうやってそれを実現するのかを考えていきたい。そういう先駆者であるっていうことをほんとに期待したいなと思います。
富野 っていう様な言葉も、いわゆるアカデミックな世界から、そういう意味では中須賀先生だけではないんです。JAXAで具体的な仕事をやってらっしゃる様な方からもそういう話を伺う様になりました。つまり、目標値は掲げるのは、やっぱりアニメとかコミックの仕事だろうと。そして、実際に大人になった時にそれを実行し実践し良いカタチにしていくのが俺たちの仕事なんだ。それから次の、今小学生の子達がやっぱりやってくれる、そういう記号とかを、フックになるような、ヒントになるような言葉。そういうようなものを提供していくのが我々の仕事だと思っています。事実、「ガンダム」という単語があったおかげで実際に先生のような研究室に入る学生さんも現に、いたわけだし。それはなにも東大だけではなくて、やっぱり日本中にいることも知ってくると、やはりアニメとかコミックの力というのは、改めて気をつけなくてはいけない。という事はほんとにこの歳になって身に沁みるんです。身に沁みるからこそ、多少リアルな接点から伸びたところでのアニメの作品というのを作っていきたいなというのが、この歳になってつくづく思うことである。っていう事がありますので、もう4、5年皆さん方の応援を頂かないと。アニメの番組って、一人の力では絶対に作れないです。そういう意味ではこれはお世辞でも何でもなく、ファンが、現れてくれないとほんとに実現化しません。力を貸していただきたいなと思っています(会場拍手)。
石脇 そういう意味ではあれですよね、未来の子供たちへの可能性という意味では中須賀先生がやってらっしゃる超小型衛星。あんなちっちゃいのが飛ぶんだ、っていう。
中須賀 そうですね、僕らの狙いは、今、大きな人工衛星っていうと国しかオペレートしてないんですよね。ほとんどが国。つまり国がやろうとするとどうしても使い方が公共事業的な。例えば天気予報を視るとか気象を視るとか、地球の写真を撮るとかね。非常に限られる用途でしかないんです。僕らの狙いはそうではなくて、宇宙開発は全員がやっていく。世の中の人みんなが、自分の夢を宇宙で実現したいなと。それを実現できる世界を作っていきたい。その為には衛星がデカくて高いと駄目なんです。非常に安くて早い人工衛星を提供する事でいろんな人が自分が宇宙で何かをやりたいことを実現する。実現されていく。宇宙ってのが日常生活の中で当たり前になっていく世界。そういう世界を作っていきたいんですね。その為には今言った宇宙の敷居を下げる。この為の人工衛星だと。ていう風に考えて頂ければ良いですね。
富野 ですから、ロケットについての考え方も、水鉄砲だというのが分かっていかないといけないという問題がある。いくつかあるんです。ですからロケットの原理の問題だけではなくて、今中須賀先生が言ってる通りです。宇宙ともう少し接触をとれる人が大勢出てくると、日本からだって、人の乗ったロケットで人工衛星軌道まで上がれる、みたいな事が行われるはずなんです。それが今日本で行われてない理由というのが、10年ぐらい前から、今の世代の大人たちが腰が引けててやれなかった、という様な事実も分かってくる様になりました。だから、もうちょっと敷居を低くして人工衛星軌道でものを考える、という様な事もやっていいのじゃないかと。そういう様な事も、それこそ福島の原発のような事故を起こさないような研究者とか技術者を生むことになってくることにも繋がってくることです。ですから、ほんとに今、日本で種子島から打ち上げてるロケットが、人の全く打ち上げられないようなロケットが打ちあがっているように信じられているんですけども、実を言うとほとんど嘘なんですよ。なんでこのことが報道されてないかって言うと、「日本ではできない」と思い込まれているとか、人を人工衛星軌道まで運ぶのはとてもリスキーなものだと信じ込んでいる技術者と、信じ込んでいる関係者がいるんです。「原発は絶対に安全だ」って信じ込んでいる関係者がいた。そのことと同じくらいに、日本の宇宙事業開発には、人が人工衛星まで打ち上げられないと信じ込んでいる関係者がいっぱいいるという、すごいギャップがあるということが分かってきました。そういう事も含めて、もう少し科学技術というものも、一般的に分かる言葉に落としていかないといけないということもほんとに感じるようになった。そうなってくると、むしろこういうような話は年寄りがした方がいいんです。若い人がすると、現場で話をしなくちゃいけなくなってくるから、若い人が話をした瞬間にクビ切られます。職業を失う。僕は今更職業を失う心配はないんで、こういう話は少ししていきたいなぁという風に。
中須賀 どんどんやってください。やっぱり僕らそういう既成概念に非常に囚われてますね。それをまさに切り崩してきたのが「ガンダム」であり、これからも是非そうあってほしいなと思いますね。
富野 という風に、ガンダムにも社会に、科学技術に役に立ってるらしいんで、大変嬉しく思ってます。
石脇 ガンダム好きの研究者ってのはどんどん増えてて、かなり有望な方々が育っていると。
中須賀 そうですね。ガンダムの中にはね、さっき仰った荒唐無稽な話もあるし、科学に則られない部分もあるんだけれども、実はもの凄く科学に則った話もいっぱいあるんですね。あれ見てたらね、鳥肌立つくらい良く考えてあるなと思いますよ。そういうので感動した学生・若い人たちがどんどん宇宙の世界に入ってきてくれてる。だからやっぱり、相当効果大きいと思いますよ。
富野 っていう話が出来るようになったのも、実を言うとファーストガンダム世代の人たちが社会で意見を言えるような、つまり中堅の研究者になってきたり、技術者になったからです。つまりこの十数年、順々に社会的に発言できるようになるまで、みんなで我慢してきたっていう部分もあると思う。だからこれからこそです。オピニオンリーダーたるガンダムちゃんとしては、頑張って、次のオピニオンを確立していけるような作品は作っていきたいなと考えているっていうことで。そういう風に信じていいんだろうか。
石脇 私に聞かないで下さい(笑)。
富野 (会場拍手)ありがとうございます。ほんとの話をします。楽屋ではね、このトークショーのトリは、じゃあ僕は何を目指すかっていときに、「ガンダムを潰せ!」って、ガンダムを潰す作品を作りたいって言おうと思ったんだけれども、という話をしましたが、それは止めまして、ガンダムの上に更に、次の新しいオピニオンを建てる、っていう作品にするという事でいいかね? ガンダムは潰す必要はないわけね。
石脇 是非…よろしくお願いします。中須賀さんは今されているプロジェクト、どういう風に皆さんに広めていくか何かお考え…。
中須賀 さっき申し上げたように非常に小さくて安くて早い人工衛星を作る技術を今作ってます。大事なのはそれをどう使うかなんですね。それは何かっていうと、皆さんが、とにかく多くの方々が、衛星使ったら一体なにができるだろう、というのを、例えば環境保全であるとか。それから災害監視であるとかですね。地球の温暖化防止とか色んなものにどう使っていくのか是非考えてもらいたい。そのアイディアを頂いて僕らは衛星を使ってそれを実現していく。こういうインタラクションを多くの人びととやっていきたいですね。それは日本だけではなくて今世界中に呼びかけています。だから世界の方々とこの小さな衛星を使ってどんな事ができるだろう、僕らは考えていく。こういう形でみなさんと合流したいなと思っています。
富野 というのも、中須賀先生の研究室で作った打ち上げの人工衛星のデータというのが取得できるようになっています。その画像も取得できるようになってるんですけども、例えば極端な言い方をすると、90分に1回しか日本の上空を飛んでこないという問題があったりする。もっと世界的に言いますと、軌道の偏差の事がありますんで、90分に1回じゃないんですよ。例えば地球とか日本列島を監視するために低軌道衛星の人工衛星は何十基か打ち上げなければならない。低軌道衛星でも定位させるにはどうすればいいかは、そのシステムをどういうふうに組むのかというのは、やっぱり中須賀先生以後の若い人に組み立ててもらわなくちゃいけないというのもあります。それは必ずしも大きなロケットを作ってぽっぽやさん気分でやらなくてもいい方法があるはずなんです。そういう事が高い位置の静止衛星軌道に監視衛星を上げるよりはいい方法があるかもしれない。
中須賀 ええ、低いところにたくさん上げる方が分解能が高いんですね。ところが数が要るんです。そのたくさんの数をどう獲得するかということがこれからの課題なんです。
富野 そういう意味でまさにです。ネットの社会です。ネットワークを決めるもののために電子工学的、宇宙工学的にどういう位置に安定させるかという話はガンダム1機動かすのよりめんどくさいかもしれないんです。そのためには興味を持ってくれる若い青少年! 若い青少年に頑張ってもらいたい!
中須賀 ほんとそうですね。これからの若い世代に期待したいですね。
石脇 監督の新企画の件なんですけども、(ニュータイプエース宣伝中略)そこに監督の新企画が載る…載るんですよね?
富野 掲載はされるんですけど、今言った「新企画」というのが、あまり簡単に新企画と言えなくて…まだ僕が個人的に考えているアイデアでしかない。先程お話した通りの気分があって、宇宙エレベーターっていうものも中心に考えていた時の舞台設定はあるんだろうか? という事を考えてみたりした。そしてロケットの事を考えたくなくなっている舞台設定というのはこういうものなんだよね、っていう様な、そういうアイデアなんで…なんて言うのかなぁ。一般的に言う「新作」という意味とはちょっと違うんで、編集長にお誘いは受けているんだけども、簡単に「ハイ」って言えない。現にノベルスだって書かせてくれないんだもの。いい返事もらってませんから。だから、まだ新企画とは言えないなぁ。明らかにまだ頭の中にあるノベライズをしたい。できたらしたい。
石脇 はい。そういうことですので是非期待してください。
(PV上映)
石脇 そこ(誌上)で発表しますんで、監督、いいですよね?
富野 だから、発表するのはいいんだけれども、単純に…新企画なの。新企画だけれども新作って言うと速攻で作品化っていうとこに話が行くんですが、今回の場合まだそういう立ち上がりではなくて、なんとなく気分先行になっちゃってる部分があるんで、ちょっと僕の立場ではお話し辛いな、っていうのがある。それだけのことですので、ご支援頂きたいと思いますので、宜しくどうぞ(会場拍手)。
石脇 さきほど少し申し上げましたが、監督の「ガンダム世代への提言」、一冊読むのに時間がかかりますが、賢くなった気分になります。僕はなりました。
富野 宣伝するつもりはないんだけども、結果的に宣伝になることを言ってしまいます。自分自身もこの原稿のゲラをチェックさせて頂いて、ほんとにびっくりしたことがあります。何がびっくりしたかと言いますと、1回目がもう7年半くらい前になります。1回目から1年分の原稿をチェックした時に一番びっくりしたことが、お話されてるテーマ、それから対談者の仰ってる事が今の時代に全部当てはまって、古い話が何一つなかった、っていう事がもの凄くショックでした。という事は、自分自身が「トミノくん、えらい」と褒めたいというのは、こういう風な人選をして良かった、と思えました。と同時に、対談はガンダムAの対談です。つまりロボット漫画専門誌の対談にOKしてくださって、お話してくださった皆さん方、かなりいい勘をしている。つまり、普通の人ってのはこういうところにいるんだよ、という事を承知した上で皆さんがその場その場で職場でもっているお話をしてます。つまり、嘘がないんです。そして、ほんとの話をしてくれてるために、7、8年前の話なんだけど今の話に聞こえる・読めるので、ほんとにショックでした。このショックを皆さん方に感じていただけたら嬉しいし、その為には買ってください、ということになります(会場拍手)。
石脇 それでは最後、お二人から一言いただければと思っております。それでは中須賀先生。
中須賀 先程申し上げたとおり、我々は小さな人工衛星を作って、小さな人工衛星が宇宙に行ってる限りは人間はまだ行かないんですね。でもこの次に来るのはおそらく皆さんが宇宙に出て行くと。宇宙に人間が出て行くかどうかを日本では議論していますけれども、もう僕は議論の必要ないとおもいます。必ず出て行くんだと思ってます。大事な事は、人間が宇宙に出て行った時に何を考えるか、そこで何をやるかなんです。そのためにには一人ひとりが自分なりの哲学を持ってることがとっても大事だと思います。是非ですね、皆さんが将来、特に若いお子さん達は宇宙に行くことが絶対あると思います。そのときに備えて、是非、人間から宇宙、それから地球というのをよく考えておいていただきたいなと。で宇宙にいった時に、その時にどう考えるか。ということを準備しておいて頂きたいな。そういう風に思います。それが皆さんへのメッセージです(会場拍手)。
石脇 ありがとうございます。では監督、一言。
富野 中須賀先生の仰った「哲学」、ものを考えるヒント、というものも、アニメとかコミックとかノベルスで間違いなく込められることができる、というような作品は、やはり作っていかなくちゃいけない、というのが僕のようにキャリアが長くなってしまった人間であれば、キチンと自覚する必要があるんじゃないのか、と思ってます。だけれども、教科書になるようなものを作るんじゃなくって、やはり今の子供たちが見てくれるようなものを作りたい。作れるような自分になりたいということでありますので、体力が続く限り、この仕事をさせていただけたら嬉しいな、という風に思っています。本当に今日はどうもありがとうございました(会場拍手)。