AM 10年12月号 富野に訊け!! 第97回

QUESTION100「9月号のお答えについて重ねて質問です」

東京都/じゅん
富野由悠季
毎号、読んでいます。2010年9月号の「富野に訊け!!」のお答えが、失礼ながら(私ごときの意見ではありますが)、少々乱暴であるように思われました。
過去の名作だけが「本物」であると、確かにそうではありますが、「本物」を味わった上で「新作」を見ると、新たな発見ができて、おもしろいものです。
質問者は、少し大人になって、つまらなく感じているのでしょう。「アニメージュは買うな」は笑ってしまいますが(スミマセン)、あまり適切なアドバイスではない気がします。

自分の受け皿を広げることでアニメをもっと楽しめる。まずはいろんなものを見聞きして本物に触れる機会を作ろう!

9月号で僕が言ったことは、決して乱暴な意見ではありません。それなりの大人はみんな思っているであろう、きわめて一般的な意見です。それを乱暴だと思うのは、こういう意見を聞いたことがないからで、あなたのお勉強が足らないからだという言い方をしておきます。
「新作を見ると新たな発見ができておもしろい」というくだりがありますが、それはもちろん当然のことです。でも、本当に新しい発見ができているかどうか、実を言うとかなり怪しいですよね? もっといろんなものを見聞きすることで、新しい発見をして喜ぶのではなく、もうちょっと違った作品の楽しみ方ができるようになります。広い心の受け皿で楽しむのと、ピンポイントで楽しむのとでは、同じ作品を見るにあたっても楽しみ方は大きく違ってきますから。この違いが分かるためには、やっぱり見聞を広めるしかないし、だから本物を見る機会を増やさないといけないということです。
じゅんさんが不勉強だと推測できる理由を、ひとつ具体的に挙げます。「『アニメージュは買うな』は笑ってしまいますが」という文章じたいが、この15〜16年、世間のあらゆるところで使われてい表現であり、粗雑な反射神経に基づいたありふれた価値観です。それをそのまま持ってくるのでは、感想とは言いません。もっと自分なりの感じ方を確立してから、自分の言葉で書くようにしてください。
そういう意味で言うと、「乱暴であるように思われました」という部分だけは、じゅんさんの個性ある感じ方として一応評価はします。けれど、初めに言ったように、あまり物を知らないからこそ「乱暴だ」と言えてしまうわけで、このハガキを読んだ僕の第一印象としては、やっぱり「ああ、何も分かってないんだ」ということになってしまう。
だから、僕の立場で分かりやすくまとめるとすれば「意識して物事を読み書きしてください」という言い方になるのですが、逆に言うと、理解できないことは「理解できないまま書いてみる」訓練をする方法もあります。理解できることだけ意見を言うという態度では、学習することを忘れてしまい、わがままになってしまうだけかもしれません。そうした態度が、今の日本の「自分の意見を言うことが先決」という、他者への配慮に欠けた社会風潮を生み出しているのです。じゅんさんがこの訓練を1〜2年かけて習慣づけていけば、きっと物事を理解できる切り口を見つけられるようになるでしょう。少なくとも、何が理解できていないかということは分かるようになるはずです。