アニメージュ 10年8月号 富野に訊け!! 第93回

QUESTION96「要領の悪い自分がテキパキ動けるようになるには?」

東京都/花籠(23)
私は何をしてものろいことが悩みです。去年の春に就職したのですが、先輩から指示された仕事が、なかなかその日中に片付きません。私自身はゆっくりやっているつもりはまったくなく、一生懸命頑張ってやっているのです。でも、周りからは余裕綽々のんびりマイペースに作業をしているふうに見えるようで、みんなをイライラさせています。
思い返せば、子どもの頃からそうでした。例えばみんなで一緒に宿題をしていたり、一緒に体操着に着替えたりしていても、いつも私がビリでした。運動神経が鈍いわけではないのです(徒競走はいつもクラスの女子で1〜2番でした)。きっと、要領が悪いのだろうと思います。
富野監督のしてこられたTVアニメの仕事は、常に時間との戦いだと思うのですが、私も限られた時間内に効率良くテキパキ動けるようになりたいと思っています。何かコツはありませんでしょうか。アドバイスお願いいたします。

本気で直したいと自分自身で思わなければ――自己啓発するよりほかに“要領の良くなる”方法などない!

相談の文章からだけでは、何もお答えできません。というのは、この文章には花籠さんの一番上っ面の部分しか書かれていないからです。
文面から読み取れる限りでは、運動神経が鈍いわけでもないのに、職場で周りの人をイライラさせるまでに仕事がのろいというのは、これはもうはっきり要領が悪いと言えます。でも、花籠さんの本質的な問題は、実はそこではなく、もう少し前の段階にあるのではないでしょうか。
これは推測なのですが、こういうタイプの人というのは、自分が何をやるのものろい、要領が悪いというのを自分自身で許してしまっているんです。ひょっとしたら、根本的に生意気なのかもしれません。だから現状で良しとしてしまって、本気で物事を効率的に処理しよう、要領を良くしようという意志がない。こういう人に対しては、僕も本気でアドバイスする気になれないということです。
花籠さんは今23歳だそうですが、23歳と言えば、世間的にはもう成人として扱われる年齢ですよね? おそらく社会人になってから自分の要領の悪さに気づいたのでしょう。ということは、逆に言えばこれまでの22年間、そのことを深刻に考えてこなかったということです。最近は、小学校や中学校でも、ちょっとのろまな人がいじめられずに快適に過ごすためには、それなりに要領良く立ち回らなければ、やっていけないはずですよね。それをやらずにすんでいたということは、今日まで過ごしてきた環境が、今ふうに言えば“ゆるい”環境だったと、想像します。そんなぬるま湯の中では、ずっと要領の悪さを直す機会がなかったわけですから、今さら僕が要領を良くするためのハウツーを教えたところで、たぶん無駄でしょう。きつい言い方になってしまいますが、これが僕の回答です。
あえてこういう言い方をしたのには、理由があります。花籠さんの要領の悪さが本人の自覚の問題である以上、周りがどうこう言って直るものではありません。性格を直すというのは、飽くまで本人の問題なのです。僕の回答を読んで、腹を立てるにせよ情けなく思うにせよ、何かを感じるのはあなた自身です。それによって、花籠さんの中に自覚が芽生えるのを待つよりほかに、都合の良い処方箋なんてあるはずがありません。
もうひとつ、ちょっと厳しい言い方をしてもいいだろうと思う理由は、花籠さんがとにもかくにも就職できているということです。少なくとも今現在、社会に出て働けているのだから、決して無知無能のはずはない。だったら、僕の話を理解して、自己啓発することくらいはできるはずです。それならば、要領くらいは自分で発明してください。それができなければ、30歳になったときに困るのはあなた自身です。