ANIMEX vol.15 富野インタビュー

1981.2.14 14:00-15:00 上井草駅南口「サンサン」にて


――映画ガンダム……作業は終了しましたか?
作業的には終わりました。今、フィルム作業が残っててネガ編集の段階で、これが一週間から10日かかる訳です。今それをやってます。
――2時間20分くらいですか?
うん。概ねそうです。
――で、描き足し、描き直しの割合は?
公式的には1/3、……「大人の世界」ってのは建前と本音があるんで公式的には1/3.実際は1/5。で実際にフィルムで見た感じで言うと「直ってないんじゃないの?」というのが殆どです。
――では描き足しが入ったくらいであまり描き直しがないと……。
そう思うでしょ? 違うんです。TV版であったまるっきり同じ芝居を新作してるんです。そういう事になるんです。それはフィルムでバァーッと見てる限り何を直したかっていうのは全然判りませんから、そういう目に見えない部分でも直したんです。だけども実際にフィルムを見た時にそんなにあったとも思えないし、そういうのがつまり「直したよ、直したよ」ってのが見える様な直し方っていうのは本来嘘です。だけども今回の場合には幸いにしてよく判ります。安彦のキャラクターが全然違うから……。もう1年、2年近く描いてないからキャラクターみんな変っちゃいました。みんなアムロじゃないからよく判りますよ。見てみると……。
――描き足しの分のコンテは富野さんが御自信で……。
勿論です。と言うのは、新しいコンテを切るよりもよほど難しいんです、継ぎ足し分のコンテを描くというのは……。ストーリーも踏まえながら同時にコンテを切っていかなきゃならないから決して楽なもんじゃない。
――今回は13話までで、その後の見込みは?
「かなりある」とお答えできます。ひょっとしたら2月22日に正式発表ができるかもしれません。それまであとこの1週間近くの間、ずっと詰めの作業がありますので、まだ今はなんとも言えません。
――では、一応ラストまで……。
ありうるでしょう。おそらくあと2本で……。
――最終回以降の付け足しは?
その話は全然しません。
――ふたりの会々誌「フェードイン」10号に「ひとりぐらしのアルテイシア」という詞を書かれましたね。
あれは遊びです。ただ、「あれが出発になってまた何かあるのではないかな」という風に考えてますから遊びとは言いますけどもちょっと違うんです。別に考えてる事がありまして……もっといい形にしてなんらかの形にしてまとめるつもりです。
――セイラ、キッカ、ハロと3役をこなす井上さんですがシナリオで台詞が続かない様に気をつけるという事は?
全然気にしてません。と言うのもそれは技術的にできるからです。僕はそういう物理的な気にし方ってのは一切してません。台詞が重なっても構いません。例えば初めは瑤さんにも3役やってもらうつもりなんて全然なかったんです。と言うのもやはり1度やってもらって「あぁいける」と思った時に瑤さんて人の「器用さ」みたいな部分がたいへん良く見えたから絶対に大丈夫だと……。現にお願いしたら簡単に出来ますあの人。技術的なカバーをしなくても出来る時があるんです。コンマ……コンマでもないけど1.5秒ぐらいあるとセイラからハロに切り替える事が出来る人ですから……。
――ソノラマの小説を書かれたきっかけは、あちらからの依頼ですか?
違います。半分以上売り込みです。ロボットものを書かせてくれる訳がないですか(笑)。高千穂君の尽力です。彼が仲立ちをしてくれて……。
――「クラッシャー・ジョウ」はGOサインが出て安彦さんは準備稿に入られたそうですが……。
僕は全然知りません。個人的な事で言うと「クラッシャー・ジョウ」、僕はやる気ありません。僕に関しては……。
――小説の3巻目は?
今日、ゲラがようやく上がりました。実際に書き出したのは12月の末よ。アフレコ、ダビングやってて編集やってて1ヶ月と1週間です。
――失礼ですが現在の平均睡眠時間は?
6時間半から7時間寝てます。寝ないと続きません。短期決戦でしたら完徹もしますし……。1ヶ月3時間ずつ寝ててごらんなさい……。僕は決して丈夫じゃないからね。直ぐ死んじゃう(笑)。当分僕、死にたくないから平均したら6時間半は寝てます。それで10時間寝る事も平気で出来ますから。
――ガンダムのTV2という話をよく耳にしますが……。
その話に関しては僕は、一切聞いてません! これは嘘じゃなくて聞いてません。全く聞いてません! だから……噂では聞いてますよ。2回程聞きました。だからその話に関しては基本的に僕のとこにコメントがありませんので……。つまりクエスチョンが来ませんのでね。考えませんし基本的に僕の方から言ってる事は「ありうるはずがない」という風に言ってます。「あれで終わった」と……。それでソノラマの方でアムロ殺しましたんで全部終わりました。
――アムロだけですか?
いいえ、かなり色々な人死にますけどね。それを殺した一つの理由としては「Part2を作る気がない」って事です。だからもしPart2があるとしたら他所の人が作るんじゃないですか、きっと(笑)。
――それはないんじゃないですか?
だって例えばヤマトもそうでしょ。確かにプロデューサーは一人の方かもしれないけども実際に作った中身の人たち……結局は違うじゃないですか。それで正直にたかが43本のフィルムを要するにこの2年間近く映させてもらったわけです。ヤマトの事考えたらかなり図々しいですよね。そうでしょ! ヤマトは結局一本一本シリーズから作り直して延ばしてきた。我々一本でこれだけやらせてもらいました。もういいですよ(笑)。ガンダムが可哀相です。もうこれ以上担がせる事ないでしょ。本当そう思いますよ。そういう意味じゃよくもったよ(笑)。
――あの視聴率の中で……。
そう、あの視聴率の中で、例えば打ち切りだっていうイメージが強いとこへもってきて結局もしあと映画2本例えば作ってごらんなさい。来春とか来月のGWぐらいまで現実的にかかる訳ですよ。何年ですか、ガンダムは3年ですよ! これでPart2って言ったらちょっと図々しいと思わない? 僕はそう思う(笑)。だから、信条的に僕は、ちょっとのれませんねぇ。
――後半では原画を描かれたそうですが、何話のどんなキャラを……。
よく覚えてないけどかなりあります! 止めのメカや何か描いてます。セイラなんか悪戦苦闘して描いて結局駄目であと動画家に任せて「キャラクター直せ!」って言って病院行っちゃぁ罵って、でまた帰ってきちゃ描かざるをえないので、それでも上手くいかなくて「えぇい、安彦の馬鹿野郎!」って言って……安彦が倒れた直後あたりが多いです。一番スケジュール的に滅茶滅茶になった。これは仕方ないですけどね。セイラが「お兄さん」と言って泣いて座るシーンは、あれ僕です。テキサスコロニーで膝付いてあの時車から飛び降りる処で、横向きで膝付いて泣くシーンです!
――14話でシナリオを書かれたのは?
あー、スケジュールがなかったから! よく事情は覚えてないけどとにかくスケジュールがなかったんです。で、シナリオを態々書いてる暇がなくてコンテに打付けて話を作ってきました!
――41話「光る宇宙」、あのコンテで富野さんのイメージ通りにいったんですか?
真逆!
――どういった点が、こうだったという事がありますか?
あ、それは今はもうありません! っていうのはもう覚えてませんから、もうその時のこういう気分っていうのは……そういう意味では順々に忘れていくもんですから、よく覚えてません。それでやっぱり一度出来上がったものというのは、それを認めなくちゃいけませんので……それを認めていく訳ですから。大体概ね何でもそうなんですけど作り終わった瞬間に「ああ違うな!」っていつも思ってます!
――いつもですか?
いつもです! あーこれは誰でもそうなんじゃないですか、もの作る人ってのは、もし気に入るものが出来たら次の作品作りませんもの……。不満があるから次の作品が書けるんですね。それとあとやっぱり書いてくうちに新しい発見がある訳です。あー今度はこういう様な……例えば「一行で書いた事が、こういう考え方がきっともっと大きな物語になるんじゃないのかな」みたいな事が見つかるから書くんです。その二つの理由です。
――3月末に徳間からガンダムの始末記を出されるとか?
始末記ではありません! 逆です。ガンダムまでの事です。それは読んでいただくませちょっと今は説明の仕様がありません。
――これからお書きになる……。
ええ、これから10日で書けるとは思ってないですけど時間的にそのくらいしかないんです。だから正直「今度の仕事こそ短期決戦になりそうだなぁ」と。本当に死にそう(笑)。
――映画のEPを聞きましたが、個人的にはB面の「スターチルドレン」の方が好きなんですけど、今回の映画では?
僕は両方ともいいです。ハハハ……。ただ、今回映画ではアップテンポが似合わないんで結局使うつもりではいたんだけどもはめてみると全然合わないんで結局使いませんでしたけどね。「スターチルドレン」、やっぱりねぇー。意外と地味な話になっちゃってるから……。ただ、「スターチルドレン」、僕、個人的に好きですね。もっともワンフレーズ作曲直した人がいるんだけどそんな事もやってる暇もなくて一生懸命作ったテープをみんなで「うわー」「出来るかぁー、さぁやってみるかぁー」と……。だから去年の暮れ大変でした。
――ガンキャノンは実質的に意味があったんですか?
結果的には意味がありませんでした。だけど実際に実のとこを言うとアレに関して……ガンキャノンに関して言うと、実は僕と安彦の中で思い込みがあってね。本来ガンダムってのはガンキャノンだったんです! 最初……アレでいけないかいう考え方があった訳なんだけども実際にこれアニメーションにしていく段階で大変なメカニック上の欠陥というのを気がついたんです。それなんでやっぱりアニメーションには向かないと思うけど実写だったらいいでしょうね、とても……。で、デザインを根本的にちょっと直さなくちゃいけません。メカの置き方……その辺さえ上手くいけばきっといいと思います。アレは課題ですね。もうしばらく……、あのあたりのデザインポリシー、デザインの考え方ね。と言うのは、これからもうちょっと研究していく必要があると思います。
――劇団薔薇座の方をよく使われてますね。
イデオンに関しては嘘ですよ。戸田さんだけでしょレギュラーで使ってるのは……。と言うのはどういう事かって言うと、イデオンに関しては薔薇座ってのは極度に少ないです。寧ろ他のプロダクションの比率から言ったら無いに等しいです。で、ガンダムの時にやや多かった事は事実です。アレこそ偶々でした。意識してませんでした。
――ダイターンの時、鈴置さんを選ばれた理由は?
アレは松浦監督です。あの人が薔薇座で鈴置さんをみつけて、で、その関係で薔薇座が多くなったって事は全然ないです。ガンダムの時に関しては解らない人にとにかく基本的にはオーディションの部分と今までこちらの知ってる範囲の中で選んだというだけの事で……。薔薇座、多くないですよ。だからプロダクション比率で言ったら寧ろイデオンなんかの時、本当はもう少し意識して薔薇座の人を組み入れなきゃいけなかったのか、ぐらいに僕は悪い事したなと思っています。
――配役に関しては富野さんはあまり関知されないんですか?
半分関知します。その為に録音監督っているんだから。
――さて、万丈は人間ですかメガノイドですか?
と、言うよりも万丈のメガノイド説は、考えたくはないです。と、言う事です。端的に……。
――当初から40本の予定だったんですか?
アレはそうです。1〜2本余分があったかもしれません。ただ、あの週計算をしてった時に例えばここからここまでのオンエアって時に企画の段階では42〜43本を想定したかもしれませんけど基本的にあんなもんです。
――鈴置さんのLPで間嶋里美を起用されたのは?
別に、あの人ならああいう歌を歌えるだろうから……それだけですよ。ああいう風に歌えると思わなかったでしょ、皆さん!
――驚きましたね!
だからです。そういう意味でのある部分僕が意識してるのはそういう意味での新人発掘っていうと可笑しいんだけどもその人……例えば「これだけじゃないだろうな」っていう部分で試させてもらうという様な事をしました。だから寧ろアレは「鈴置君というよりも間嶋さんがああいう人だって事を知って欲しいな」って部分がかなりありますね。あまりそういう意味での都合だけではお願いしません。つまり「人との付き合い」ってのは、そういうもんです。自分の便利になるという部分だけで人に接してったら相手に嫌われます。僕も……。将来の為のきっかけになると思います。例えば歌のお話が間嶋さんにあったとしますよ。「じゃ、あなた歌った事があるのか」となった時に1曲でもあれば基準になるでしょ。ましてあのハッシャバイなんて歌は大変難しい歌なんですね。ああいう風にやれたって事は他の普通のテンポの曲だったらかなり上手にこなすでしょう。そういうものが見えますから彼女にあの曲がいった事が悪い事とは思ってません。
――ザンボットは、とにかく線が多かったです。
あまりそうは思いませんけど……ガンダムの方が多いんじゃないですか? だからそれは迷信なんですよ。大物だから多い様に思えるんですよね。それは違います。そういう事で言えばイデオンなんかもっと多いです。
――最近は、どんな漫画を読まれてますか?
あまり見ません。意識して見てるのがあるとするとですよ、例えばスタジオに漫画の雑誌が転がってますね。その中で覚えてて見るのがあるとするとアラレちゃん……ああ「Dr.スランプ」とあの「のたり松太郎」、最近ちょっとつまんなくなったんであまり見ないんだけど……なんとか派出所ぐらいかななぁー(こち亀)? ジャンルなんてのは関係ないんです。面白ければいいんです。だから今あるのかどうか知らないけど東大通みたいなの見てた時期もあるんですけどね。
――小説などは?
あまり読みません。と、言うのはだいたいものを読んだり見たりする事が出来ない人なんですよね。あまり……。小説読むのも煩わしいし映画館へ行くのも面倒だから……。
――TVは、どんな番組をご覧になっているんですか?
TVは殆ど観ません。
――現在、放送中の「ギャラクティカ」なんてのは?
全然、「ギャラクティカ」つまらないから……全く……。
――「スター・ウォーズ」は?
観ました。2本とも……。腹が立ってます! 「毛唐に出来てなんでこっちに作らしてくれないか」って、そういう事です(笑)! 内容は、娯楽的に面白いです。だからアレでいいと思ってます。
――ペンネームの井荻麟というのは、隣の駅だからですか?
そうです!
――雑誌で「ガンダム」と「イデオン」を比較してるのをどう思われますか?
別に……。雑誌社のご商売ですから構いません。そんなのに口を挟むのは、それこそ内政干渉と同じですから……。ただ、ただただ頭が下がるだけでね。よく素材がないのに毎月毎月記事を埋めると……。
――ご自分のお作りになったキャラで一番好きなのは?
ありません。概ね好きですから。だから嫌いなキャラクターがあまりない訳です。同じ様に好きです。好きに関して言うと……失敗して、だから「申し訳ないな」と思うキャラクターは、いくらでもありますけど……作り損なって悪かったってのは、ありますけど……だって嫌いな訳ないじゃないですか、自分で作ったものだから、半分以上……絵こそ違えですよ。自分の絵じゃない訳です。他人に描いてもらう絵だけどもやっぱりイメージは自分が作って設定してる訳だし……嫌いになり得ないです!
――BGMの指示は?
しません。録音監督任せです。
――「イデオン」ですが、コスモが何故主人公なのかライナー・ノート2には?
解りません。僕、あの人あまり主人公意識ありません。別にイデオンの場合そういう意味での主人公、要するにロボットのスポンサーが、ついてるうちは一応コスモを主人公「らしく」してきましたよ。そういう意識であのストーリーを組んでませんから……。それだけの事です。イデオンの場合にはあれに登場した人物は、極端に言えば全部主人公なぐらいに要するにマスの人ですから。話が、その辺がもし映画化にでもなったらまとめられてよく判るんじゃないですか? そういう風にとらえていかないと「イデオン」っていうのが解らなくなるんじゃないかな、と、そういう終わり方をしてます。
――流星はどんな意味を持って地球やバッフ星に降るんですか?
それも最後まで見て頂かない限り解りません。
――アディゴの超高速度戦闘ですけど今までにあまり例を見ないですね。
かつてのタイガーマスクの方が、もっとスピード感があったんじゃないかって気が僕は、しますけど(笑)。ただ、凄く単純にそういうものをああいう風な形でこういう類な番組を見せたって事は、無いかもしれませんね。
――33話「ワフトエリアの賭け」のラストでコスモの投げたコインが表になったのはイデの力ですか?
ではないです。つまり何故ああいう風な芝居に態々したかってのは、人の運命ってのは、あんなもんでしょ。そういうもんなんです。若いうちは判らなければそれでいいんです。ただ、「あの事を覚えていてほしい」という事です。いつかそういう事、必ずあります、皆さんにも……。
自分で決められるほど、自分の生き方……決められるもんじゃないんですよ。本当に自分が死ぬ時までの事、予測して要するに自分の進学校決める人がいますか……そういうもんです。
――ベスの髪型は、昔のリチャード・ジョーダンをご覧になって……。
それは知りません。湖川に任せてますから。そういう意味ではラフは見てますよ。最低限の条件だけはチェックさせてもらってます。
――波導ガン発射シーンのボツコンテをチラッと見たんですけど丸っきりお遊びでコンテを描く場合もある訳ですね。
ありますよ、それは……。と、言うのは要するにプランニングの段階っていうは、なんでもかんでも絵にしてみる訳です。だから最終決定稿なんてのは、ギリギリの処まで中々出るもんじゃありません。大体そうです。それは、最初の決定稿だけでバァーッと話を済ませちゃう作り方っていうのは、かなり気楽な作り方をしてるでしょ、僕はそう思います。

※ブログ注:ここで決定稿(たぶん)掲載。

――イデオンの戦いの期間は?
まぁ、たかが半年……、半年もないでしょうね。
――34話「流星おちる果て」で、ベスの見た夢はイデが見せたのですか?
あの辺は判りません。どっちか?! ただ、イデが見せたんでしょう……。
――最終回、カララのオールヌードセルが画面を過りましたが、あれは意味が?
あります! 最終回の気分だけは伝えたい……その辺の事がもっと明確な形で本当の最終回が存在するんですよ。イデオンって……そういう物語ですから! 単にロボットが戦い敵と味方が戦っていったいなんだったのかという部分と、そういう人の魂の問題っていう形で最終的に提出される部分があるからです。
――では、ラストで四散したのは魂ですか?
だ、という具合に思って頂いていいんではないでしょうか? だ! とは言いませんよ。
――「断定はしない」と……。
勿論です。断定するほど簡単なものだとは思っていませんから……。人の心の問題とか魂の問題とは……。だからそれを神と言っても構いませんし、たかが、その生まれ変った赤ちゃん達という風に思って頂いても結構です。どうでも結構です。ただ、そういう問題を、総括したのが「イデオン」という作品であっただろうという出し方をした訳です。
――で、これからのお仕事のTVシリーズは?
ありません! ガンダムとかイデオンを作った監督にですね、仕事が来ると思いますか……。
――視聴率やその他の面でですね。
視聴率面もあるでしょうけどもああいう作品っていうのは直接的に例えばスポンサーを潤す事が出来なければ来る訳ないでしょ。「まず、スポンサーが見捨てる」って事ね。だから今年はいいとして来年どうするか本当に困ってます!
――ライナーノート2は一応夏ぐらいまでは?
夏ぐらいまでは続くでしょうね。
――38話「宇宙の逃亡者」でギジェが死の間際に「これがイデの発現」と言ってますが、それ以前にも何度か「これが発現か」と言ってますね。で、最終回に四散した時は、ナレーションで「発動」と……どれが本当なんですか?
それは解りません。と、言うのはどういう事かって言うと、物事の現れ方っていうのは……そう、一つのエポック・メーキングがあってそれを基本的に断定するっていうのは中々出来ない事ではないかと、僕は思ってます。そして、ギジェが言ってるってのは、明らかにこれは、ギジェの感性で言ってる事だという風に理解します。だから、もしそれがそう杓子定規的にピタッとなる様な世界を作っていたら例えばギジェならギジェっていう人のキャラクターっていうのは、つまりああいう風に色々な事をしょっちゅう考えてる人……、色々な事を考えてるからハルルから切られても腹を切る様な事もしないで生き長らえる。そして、その後でダラムに捨てられても生き長らえるみたいな生活をしているキャラクターですから、そういう時点での例えばギジェの言ってる事をとってね、「イデ」が本当にそうなのかという事はあり得ないと思います。で、むしろ僕も本当の意味でそういう事を敢えて言うならば最終回の処でのカララとジョリバをテレポートした処からが、本当の意味での「イデ」の現れです! と、言ってもそれは偶々あれが最終回になって打ち切られているからそれが見えないだけの事でして。実は、あの後の結局ボリュームの中で具体的に「イデ」が何をしようとしたのかという事を描いてるんです。物語としては……。ですから今回のイデオンに関しては、まぁ、ああいう形で終わらざるを得なかったが為に基本的に作品論を含めてのお話っていうのは、「正直したくない」ってのが本当のところです。ま、一応今回のが最終回がそうだという風に思ってください。で、それまでは「ギジェの思い込みでの台詞でしかない」という事です。
――で、あの後をお作りになるという話が聞かれますが、映画とか?
さぁ、それはあのー部分的に作画を進めている部分が現にあった訳です。と、言うのは具体的に1月終了の話があった時に既にその後の作品には作画に入ってましたからそれを途中で止める訳にはいきませんので……。で、それ以降の事については、まだこれ以降の事になりますので、現段階では何とも言えません! ただ、我々の気持ちとしては、とにかく何らかの形で発表する様な形をとりたいと思ってますから。あのー、とにかく僕の方としては、去年の12月いっぱいぐらいまでで、その1月終了以後の4本のコンテっていうのは切ってありますんで……。イデオンっていうのは基本的にちゃんと終わってます! ただ、それを具体的にフィルム化する作業が出来るかどうかという事でこの1〜2ヶ月状況的には対外折衝に入ってる段階で何とも言えません。出来るかどうか……。ただ、「映画化の方向で考えていきたい」という風に思っています。
――では、放送された最終回は、残り4本分の凝縮版ではないんですか?
凝縮版ではないんですが、「気分だけは、こんな気分だよ」って事だけで後のラストシーンは、付けたんです。詰めたというよりもあくまでも気分です。「こんな気分の話なんだよ」と。ただ、それが今、予定しているその本当の終わりのシーンっていうのは……例えばあのラストシーンで赤ちゃんが2人飛んでたんだけどもあの形にもう1つ、今回のイデオンの物語に関係した人たちがちゃんと存在する様な形で終わるという部分がたっぷりあるんです! ですから、とにかく皆殺しにもなってなきゃ何にもなってない訳で。要するに僕が始めに言った様な事が、全部実現してないのは所詮本当の意味でこちらが予定していたストーリーを全部こなしきれなかったから何にも解らないというだけの話です! それで非常に冷たい言い方で申し訳ないんだけども……だけれども例えば我々の社会的な立場ってのはこうです。
(富野さんのご意向でオフレコとします)
で、それはだから凄く単純に言っちゃいますと、あの最終回のラストシーンで「イデは発動した」ってナレーションがありますよね。あそこをチョンと切って次に繋ぐ事が出来る訳です。我々の仕事は……。すると後4本の2回の戦闘の中で登場した人物が全部死んでいく話がダァーッとある訳です。だから何も話が出来ません、という事です。僕は、そういう立場です。これは作品を発表しない限り、今、言った様な事っていうのは誰にも言えません。あなた達にお話し出来るっていうのは大変個人的なレベルでの接触でするから、あなた達のファンジンに載ったとしても10万も20万も流れるものではなありませんからお話するだけで……。
(オフレコ)
僕の方としては、「とにかくイデオンについては何も言えない」ってのが現実です。「あそこまでやってなんかサラッと終わっちゃいましたね」「ええ、そうなんですよね」としか言えないです。「よく解りませんでしたけどね」「しょうがないですね。作り方が悪かったから……」と、これしか言えません。これが活字にしてもらう時の僕の発言の立場なんです。
――難しいですね。
難しいです。ですからイデオン・ライナーノートがちゃんと今月号載りましたでしょ(3月号)。来月号の原稿も既に渡しました。そしてライナーノートは活字になるものですから「対外的な言い方では」と、いう風に態々断ってある通りで、要するにTV版をPart1、以後をPart2と考えているという風な言い方をしなければ物事は収まらないんです。「実はあの続きは、こうでして」って言っちゃったら結局あれは最終回じゃなかったなんて事を言う事になるんです。で、Part1、Part2っていう言い方だって本当はそういう言い方になるんですよ。ただ、言えるのは、今はおかげさまで、ヤマト以後Part1、Part2っていう言い方が持て囃されているからそういう言い方をする限りお互いの面子は立つ訳です。これが大人の世界ですから……。
(オフレコ)
――で、見込みはあるんですか? 映画化の……。
「あるでしょうね」としか言えません! 今は……。それに期待するしたありません。そういうもんです。ですから今はそういう意味で大変危うい立場にいる訳です。
(オフレコ)
――最後に、根本的な制作信条を……。
要するに楽に作るのは止めようという風に自分に言い聞かせている! それだけです。嘘をつかない……。その事とライナーノートで嘘をついたんじゃないかという事は全然違うんです、その辺はこれから自由にお考え頂いて結構です!
――大変お忙しい処、本当にありがとうございました!

資料提供をいただいたので記事にしました。名無しさん、ありがとうございます。誤字脱字、句読点等厳しい部分は修正してあります。
編注にて、オフレコ部分のヒントが朝日新聞の記事にあると記載がされていましたので、別記事に掲載します。
また、インタビュー交渉はアニメージュ尾形氏とのこと。同席有無は不明。

朝日新聞81年2月20日号 私とTV 本音と建前の相克 富野喜幸

この二年ほど、テレビによって身についた習慣から抜けられずに困っていることがある。たまに見ようとする土、日曜日の夜九時のニュース。ところがNHKにチャンネルを合わせて、だいぶ以前からこの時間ニュースはやっていないことに思い至り、ぶ然とする。何のためのNHKか。民放と同じ編成にする必要はあるまい。週に一度ぐらいはニュースを大観する番組こそNHKにあるべきで、変に若気の至りナマ半可なドラマなどは他局に任せればよい。と、これは聴視料を払ってる立場でのNHKに対する苦言……。
しかし、公共放送の立場から、より一般受けする番組編成を考えようとする“送り手”の気持ちはよくわかる。私の場合も、一般父兄からきらわれ、俗悪の代名詞のようになっているロボット物のアニメーション制作を専従としているから、本音と建前がどういうものかを、よく理解しているつもりだ。
ところで、私の場合、立場上からも他の人たちの制作した番組もよく見る。そして思うことは、かつて映画がいくつかのジャンルに分化していったように、いまアニメの世界でも、さまざまな分化が始まっているということ。幼児マンガ、一般的なマンガ、名作もの、SFアニメ、CMなどの視覚伝達媒体としての実験映画的な部分、など種々のジャンルが生まれ始めている。そのなかで、『まんが日本昔ばなし』や、かつての『アルプスの少女ハイジ』などの出来ばえには頭が下がる。
活字世代、テレビ世代といわれるように、いまマンガ世代を経てアニメ世代といわれる人たちがふえてきているように思う。となれば、よりよい作品を通して、この人たちに語りかける必要もあろう。私の場合、『機動戦士ガンダム』を通してそれを試みたのだが、視聴率やCMなどの関係からも、ロボットものというオブラートに包まざるを得ない。それにどれだけの付加価値をつけるかということなのだが、この辺にも本音と建前の相克がある。

先の同人誌からの引用ですが、直接的なヒントではなく、「本音と建前」についての別発言紹介、にとどまっている。
ネット世代向けはリーンなら、Gレコはどこに当たるのか。

「ガンダム」富野監督の語った「アトム」と手塚治虫

消えたときの為にコピペ。
http://sankei.jp.msn.com/entertainments/news/130623/ent13062318000017-n1.htm

産経新聞文化面で月1回掲載している連載「テレビ還暦」。5月28日付で国産初の連続テレビアニメ「鉄腕アトム」を取り上げた際には、スタッフの一人だった「機動戦士ガンダム」の生みの親、富野由悠季さん(71)に話を聞いた。紙面では書ききれなかった富野さんの言葉をここで紹介する。

とんがった“まなびや”

 富野さんは日本大卒業後の昭和39年、手塚治虫さんが設立したアニメ制作会社の虫プロダクションに入社した。38年1月に「アトム」の放送が始まり、1年数カ月が過ぎたころだ。

 当時の虫プロには、SFライターや漫画家、元教員といった雑多な若きクリエーターたちがスタッフとして参加。富野さんだけでなく、「タッチ」の杉井ギサブローさん、「銀河鉄道999」のりんたろうさん、「装甲騎兵ボトムズ」の高橋良輔さん、「あしたのジョー」の出崎統さん…ファンにはおなじみの有名監督らが虫プロを“まなびや”に巣立っていった。

 富野さんは「視界は全く見えないが、『何かをできるかもしれない』と思ったとんがった人たちが集まっていたのは事実。だから僕のような落ちこぼれも交ぜてもらえた」と懐かしそうに振り返る。

 富野さんの入社時には、すでに使い回しや省略表現でセル画の枚数を節約する「リミテッドアニメ」の手法がある程度確立されていたという。「アニメは全部動かさなくても伝えられるということを教えてもらった」と富野さん。ただ、「週ペースでものを作ることにすでに現場は慣れていましたが、とにかく忙しく、演出論などを議論をしている時間はなかった」とも明かす。

「コンテ描けます?」

 富野さんは「アトム」の第96話「ロボット ヒューチャー」で、初めて演出を担当する。きっかけは、シナリオがないまま描いていた絵コンテ(シーンの進行をイラストとともに説明した表)の前半が手塚さんの目にとまったこと。手塚さんに呼び出され、「富野君、これ君が描いたの? 後半、コンテ描けます?」と尋ねられた。

 「初めてのことで、自信なんて全くない。でも、人間、そういうときは『描けます』と言ってしまうんですね」

 それから約3カ月後、手塚さんに誘われて喫茶店に入った富野さんは、「明日から演出部に来てもらえる?」と告げられ、本格的に「アトム」の演出を手がけていく。

 最盛期ほどではないしても、多くの漫画連載を抱えていた手塚さんと、富野さんは打ち合わせ以外ではほとんど話をしたことがないという。ただ、番組の視聴率が悪化して“キレる”手塚さんの姿は印象的だったようだ。

 「スタッフ全員が呼び出され、手塚先生が『君たち、これだけ視聴率が落ちているのは同じようなことをやっているからですよ!』と怒鳴る。われわれは『また怒った』と後で言っていましたね」

虫プロ“出入り禁止”

 実写志望で、リミテッドアニメの手法に違和感も覚えていた富野さんは昭和42年、虫プロを退社する。別の職業を挟んだ後、フリーとなった富野さんが初めて監督を務めたテレビアニメが、サンケイ新聞(当時)で連載されていた手塚漫画「青いトリトン」(海のトリトン)だった。

 プロデューサーは、その後「宇宙戦艦ヤマト」を手がける西崎義展さん。富野さんは手塚さんの原作に飽きたらず、西崎さんに「原作、無視していいですか?」と告げて、設定やストーリーに手を加えた。
「その仕事が来るまで、本当の意味で自分がオリジナルが好きかどうか分からなかった。単純に海獣をやっつける展開が気に入らなくて、最終回はシナリオなしで勝手に描きました。ライターとはけんか別れして虫プロには出入り禁止になるし、(虫プロのあった東京の)練馬付近にはしばらく近づけなかった」

 アニメ「トリトン」のラストでは、主人公トリトンが戦っていた敵の一族が、かつてトリトンの一族と共存していた「仲間」だったことが明かされる。正義と悪の境界が宙づりになる最終話は、今も語りぐさだ。

 富野さんのその後の作品には、物語終盤で登場人物の多くが死亡するなどして主人公や視聴者を揺さぶる作品が少なくない。「アトム」と「トリトン」での体験が、富野さんの作家性を培ったといえそうだ。

 一方で、フリーとしてさまざまな現場を経験したことも大きな糧になったという。「アルプスの少女ハイジ」では、後にスタジオジブリに参加する宮崎駿さん、高畑勲さんとともに仕事をする。

 「虫プロでの経験はその後のヒントになったが、同時代のスタッフのアニメ論、映画論が聞けなかったのはいやだった。宮崎さん、高畑さんと出会い、アニメを映画として作っている同世代の作り手がいると知って、命拾いした。両方を体験できたからこそ、制作予算のあるロボットアニメをやるとき、『もしかしたら映画らしく作れるかもしれない』『どういう物語を付加するかが重要だ』と思うことができた」

「群衆は付和雷同する」

 「ガンダム」シリーズをはじめ「無敵超人ザンボット3」「伝説巨神イデオン」など数々の人気作を手がけてきた富野さんは、誕生から50年がたつテレビアニメを「手塚治虫という天才がいたおかげで新しい媒体ができ、その成長過程を見ることができた」と振り返る。

 最近のテレビアニメについては「見ていないので作品評はできない」とした上で、深夜放送が一般化していることについて、「夜は寝る時間でしょ。その時間に起きている人を想定してビジネスができる社会は異常だと思う」と言い切る。

 一方、「作品には、時代が最終的に評価を下してくれる。作家の名前が忘れられても、作品が自立するものがある。僕個人がぐだぐだいう必要はない。だからこそ、50年たっても語られるようなものを作っておきたい」と創作への意欲をにじませる。

 デジタル化やインターネットの普及など、アニメを含む映像メディアの環境は大きく変化しつつある。ただ、富野さんは主にネットの普及を冷ややかに見ているようだ。

 「人の平準化が進むだけでは。群衆は付和雷同する。群衆を一気にニュータイプにする方法が見つからないと、世の中は明るくならない気がする」

 「ガンダム」シリーズに登場する設定をひきつつ、そういたずらっぽく批評した。

 富野さんが初めて演出を手がけた「アトム」の「ロボット ヒューチャー」の回では、未来を予測できるヒューチャーが、金もうけをたくらむ博士に利用され、「人間の役に立つ力なんでしょうか」と自問自答する。アトムは「切り抜けていくんですよ」と励ますが、ヒューチャーは予言通り、博士の手にかかって破壊されてしまう。

 新たなテクノロジーやメディアを、人は使いこなすことができるのだろうか。人は変わることができるのか。希望と悲観が交錯する作品群を発表してきた富野さんの「問い」は、虫プロ時代から変わっていないのかもしれない。

(三品貴志)

深夜枠批判と付和雷同以外は既出。
この発言から、Gレコは地上波ゴールデン枠狙い?