キャラクターランドVol.9 富野由悠季インタビュー「シン・ゴジラ」をこう観た!

劇場版G-レコ関連部分

――「シン・ゴジラ」はいつ観られたんですか?
富野 公開の2日目でしょうか。たまたま時間が空いたから映画館に寄ったんです。
(中略)
富野 今、劇場用に作っている作品(G-レコ)に、軌道エレベーターが出て来るんだけど、何か違和感があった。どこがおかしいのか、なかなかわからなかったんだけど、客室の窓だったんです。設定画では窓が黒く全部黒く塗ってあって、それがかっこよかったので、気が付かなかったんです。乗客が乗っていれば窓には灯りがついていないといけない。映画版で慌てて描き直しました。そうするとやっぱり違うんですね。
こういうときって、おそろしいくらい気が付かなくなるものなんです。

劇場版G-レコの、修正部分についてここまで詳しく言及したのは初だと思われる。
確かに、放送当時この点について指摘した言説があるかはちょっと思い出せない。
鑑賞日についてなぜ取り上げたかと言うと、先日紹介したアフレコ日と被っていると思われるため。


第二形態にまばたき表現が抜けていることと同様であるこの例示によって、シン・ゴジラには水しぶき表現・全体的に水気が足りないのではないか、という指摘につなげていく(ただ、まばたきなしはケレンみだけでなく意図的であると思うのだが……)。

シン・ゴジラ評について

いくつかピックアップ。

  • 最初は普通に80点をあげられる映画だと思ったんですが、観終わった後にネットをあまり見ない僕にも、いろいろ情報が入ってきて、20点くらい点数が下がりました。一般的にはスルーできるレベルの問題でしかないと思っています。
  • 対中国が描かれていない。
  • キャスティングは見事でした。実写映画の監督はこれを見習ってほしいと思いました。
  • たとえばお姉さんが振り返ったときに、人はまず目を見る。おっぱいを見るのはそのあと!
  • 水気が足りない分、パサパサしている方は上手い。あのPC持ち歩いているお姉さん(尾頭)の姿とか、かっこよくて、息をのみました。

「いろいろな情報」は、先日紹介した荒木氏や、サンライズ1stの面々と思われる。

他作品言及

  • たまたまTVをつけて後半40分ほどだけ、アジアの役者は独特の湿りっ気のある顔をするので、それに惹かれて思わずラストまで観てしまった映画があります。水気たっぷりの映画。「イロイロ ぬくもりの記憶」。
  • 新海誠が「君の名は。」を35歳で作ってれば、絶賛したでしょうが、ここからが大変でしょうね。

先日言った様に、「君の名は。」やはり商業面でしか評価していないのでは。

ブレンパワードフィルムブック 制作者座談会

いま「ブレンパワード」を監督がつくった意味

――ブレンパワードを作っていく上で、どんな点で苦労しましたか?
安川 いちばん困ったのが、3話(「勇の戦い」)の作画作業に入ってるのにチャクラ・フラッシュがどうなるかわからないっていう(笑)。
富野 それまでは誰もわかんかったんです。本当に。だから僕自身も含めて結局「ガンダムぼけ」に陥ってたんだって。
河口 監督が一番重症の人ですよ。
富野 そう。15年間新作をやってなかったことが見事に表れた。チャクラ・フラッシュのフォルムひとつも、うかつに決められない。その切り口みたいなものがまるでわかんないんだよね。考えてみればサンライズの第1スタジオ自体、ずっと「ガンダム」をつくっているから、誰もほかに頭が回る人がいなくて。実際にフィルムを見て「なんだ、これでいいんだ!」って気づくまでに6、7話かかった。制作前に決めておかなくてはいけないことをおやりながら納得してた(笑)。
河口 富野さんにとっては、ガンダム教から脱退するためのリハビリ作品ですよね(笑)。なにしろ教祖ですから(笑)。
富野 いわゆる還俗する作業だったことは事実です。ひとつだけ偉そうなことを言わせてもらうと、この年齢で一度「ガンダム」以外の作品をやらなくてはいけない。やらないと僕は死ぬんだよね。「ガンダム」漬けの中で。全部が封印されてしまうだろうと感じていた。やってみたらこんなにもスタッフに迷惑をかけてしまって申し訳ない。と同時にいま、若い人たちが助けてくれてありがたいなと思っています。

脚本家の言い分と監督の言い分

――脚本の方にうかがいますが、ご自分が手がけた中で印象に残っている話数を教えてください。
高橋 書いていて面白かったのは15話の「一点突破」ですね。絵コンテで監督に全部つぶされちゃいましたけど。23話の「スイート・メモリーズ」は監督のプロットどおり書いたら、今度は「俺の分身みたいな脚本だ」って却下されて。しょうがないから全く違う話を書きました(笑)。この回はシナリオ前のプロットで3稿、シナリオで3稿まで行って計6稿、1か月半くらいはかかってるんですよ、実は。
河口 その前の20、21話(「ガバナーの野望」「幻視錯綜」)の脚本は隅沢さんが頑張りましたよね(笑)。1、2週間でポンポンとシナリオを上げて、1日で直しを上げて。
高橋 せっかく浮いたスケジュールを全部私が食ってしまって。すみません(笑)。
――淺川さんが印象深かったのは何話ですか?
淺川 一番最後に書いた22話「乾坤一擲」が好きで、16話「招かれざる客」は嫌いです(笑)。
面出 苦しんだから(笑)。
河口 ひどい打ち合わせだった、あれは。監督に突然「新キャラ出そう」って言われて(笑)。ナッキィはそこで生まれたっていう。
安川 生まれた理由も、土器手さんが「アムロにはカイやハヤトみたいなライバルがいるけど、ユウにはいない」って話をしたら、富野監督が「そうか」ってホントに出しちゃった(笑)。
河口 もとは淺川さんのつくった話があったのに、そこへ突然ナッキィが登場することになって。ナッキィの話になったんです。ひどいでしょう(笑)。
安川 登場するキャラクターの量が一年分なんだもん。あれだけキャラクターいたら1年かけて掘り下げられますよ。
高橋 だから隅沢さんはせっかく出てきてるんだからってカントとナッキィを21話でちゃんと活躍させる場面をつくったりしてて、苦労してるんだなぁ(笑)って。
富野 ん〜。そう考えるとホントにずっとリハビリしてたんだねぇ。
安川 しみじみ言わなくても(笑)。
河口 気が済みました(笑)?
富野 いやぁ、まだだなぁ。こうやって訳がわかんないとこでつくるっていうのはすごく面白いってわかったんで。予定調和でつくっていくのはやっぱりヤだなぁ。
河口 もうちょっと構成があって、それに自由度がプラスされてるのが良いんじゃないですか。
富野 それができるとね。
河口 次の課題ですよね。
富野 しかし富岡さんも偉いよね。こうまで素人集めて、よくやってるよね。
富岡 (声にならないような声で)ありがとうございます(笑)。でも、中盤から本当に面白いね。6話の「ダブル・リバイバル」以降、ドラマがはじまって。
富野 今になってみると3話の中頃から4、5話(「故郷の炎」「敵か味方か」)のもたつきってのは、なんだったんだろう、すごくくやしいねぇ。
高橋 ユウっていうキャラを描くには、あれだけ時間が要るんじゃないですか?
河口 4、5話が好きって人も多いし。
富岡 一本につき何か所かポイントがあるんだよね、富野さんの作品って。3回目ぐらいに見るのが面白かったりする(笑)。何回も見られますよね。

面出さんがひとりで書いたキャラクター、ネリー・キム

――面出さんが自分で最も印象に残っているのは何話なんですか?
面出 とりあえず8話の「寄港地で」は監督に衝撃を与えたようなので「いっかなー」と思ってるんですけど(笑)。
河口 本領発揮はネリーのときだな。
面出 そう、ネリーの話を前後編でやれた「カーテンの向こうで」「愛の淵」)のが面白かったですね。
河口 ネリーというキャラクターは面出さん以外の人は書いてないんですよね。
富野 だからあの話は、トミノ流に言うと、シナリオに全く触ってないもんね。それで気持ちが悪かったとか、こちらが我慢したってこともない。
河口 でも面出さん「17話でいいセリフ切られちゃった」って怒ってた(笑)。
富野 嘘でしょう?
面出 ネリーとユウが喋ってるところがまるまるなかったから「おおっ!? アクションばっかり」って。「私が書きたかったのはここだったのに、ガーン」と絵コンテ見ながら。
富野 これは言い訳になるんだろうけど、コンテの展開上で「この絵並びだったらこうでしょう」みたいな作為が入ることはあるな。それはコンテマンはコンテマンなりに考えたことがあるというのと、尺と枚数の関係もあって、チェックの段階でセリフ一辺倒では考えられなくて、セリフをつくっちゃうところがあるね。

反響が大きかった第9話「ジョナサンの刃」

富野 現場とは違う意見で面白かったのは「ジョナサンの刃」。見てて辛かった、あそこまで本当のことを言ってもらっちゃ困る、って。その意見はかなり冷静な人なんです。つまりアニメであそこまでやってもらうと辛い、っていう意味があると思うよね。
高橋 自分が働いている母親だったりしてね(笑)。「わかってるんだから、やらないでよ」って。
面出 だけどあれは救う話だから、あそこでやっとかないと、後になって救えないんだよね。
安川 あの時間、親が働いてて子供だけで観てたとなるとえらいことですよね。
河口 いつか殺してやろうと(笑)。
富野 だけどそう思ってくれていいんじゃないの? それが刷り込み意識にはならないと思っている。アニメの枠の中でそういうふうに思って、気になるからって次を観たら、今度はお母さんがいなくなっちゃう。で、気が晴れるっていうのは、僕はあると思う。

サブキャラに関する意外な事実!?

高橋 アノーアが消えてアイリーンが艦長になるってのは監督は最初から決めてたんでしょうか。
安川 名前がキャリアーだから……(笑)。
河口 違う。艦長がいなくなった後どうするって。「誰かまだ何もやってないのは〜」って(笑)。アイリーン、医者だけどいいのかって(笑)。
富野 だから劇中で「士官学校では優秀な生徒だった」って理論武装して(笑)。
高橋 キャリアもちにしたんですよね。
河口 ひどいよな〜(笑)。でも、監督も新キャラを出すより今いるキャラの中で、って抑制があったから。その後すぐ忘れて「だめだ、新キャラだ!」ってナッキィ出して。それでみんなは「ヤバい、病気が始まっちゃったぞ!」って(笑)。
面出 企画書よりキャラが増えてるんですよね。桑原さんとか。
高橋 それを言うならケイディ(笑)。
面出 名前つけた時点でレギュラーになるから「わぁ、しまった」って。
――ケイディは4話に出てきたときに死んだかと思いましたが。
富野 みんなそう思いました(笑)。
――まだエッガひとりしか死んでないじゃないですか。
安川 ネリーの話を見ると、実は死んでないんじゃないかと思うんですけど(笑)。
河口 プレートを透かすと中に見えるってのは……(笑)。
富野 それもいいかもしれない。
河口 それで「どうやったら出られるのかな?」って(笑)。
高橋 改心したら出てくるとか(笑)?
富野 それ、最終回に入れよ(笑)。
高橋 面出さんなら何でもやってくれると思ってませんか。
河口 安川が言ってたんですけど、オルファンの中には江戸時代から入ってた人がいて……。
富野 (爆笑)
河口 「オルファン江戸村」とか「ウェスタン村」ができてるっていう(笑)。
安川 お侍が乗ってるんですよ、ブレンパワードに。妙な音がガサガサッとするんで見てみたら、畑があってお百姓さんが鍬持って耕してたりして。
河口 ナッキィとか、そういうキャラでも良かったかもしれない。
富野 ねぇ、それ惜しかったよ。今言うなよー(笑)。じゃあ、パート2はそこから入ろう(笑)。そういうところから行きたいなぁ、ネクストは。
――みなさん、いつもこんな感じですか?
富野 まったくそうです。
河口 ひどいもんですよ(笑)。
富野 だけど、かなり本気なんですね、こちらは。やっぱり、その方が面白いと思ってますからねぇ。

オリジナル作品の難しさと面白さ

――やはり最初は手探り状態だったと思いますが……。
河口 いや、むしろ後半が手探り状態でした(笑)。説明不足かなという気はしますけど……。話がポンポン飛んでっちゃったりとか。でも、それは意図してやってることですけどね。
面出 後半はキャラクターが固まったから書きやすかったんじゃないですか。
高橋 カナンとか、最初は設定しかないからわからないんですもの。
面出 カナンとかラッセとか、結構私、勝手に作っちゃった(笑)。
――キャラクターの性格は途中で変わってきたりしてますよね。
河口 みんなバカになってる(笑)。
面出 コモドとナンガがくっつくのは最初はなかったんですよね。
高橋 あれは第7話(「拒絶反応」)をつくってからですよね。
淺川 富野さんが言ったんですよ。
高橋 あの回のナンガは怪我して泳いでるんですよね不思議だな〜(笑)。
安川 後で松葉杖もついてたけど、足悪そうにも見えないし、どこ怪我してるんだろうな(笑)。
河口 最初からカップルになるって決まってたのは比瑪とユウだけでしたよね。
面出 ナンガとカナンとラッセは三角関係だったんです、企画書では。でもナンガはコモドとくっついちゃったから。
淺川 落ち着いてしまった(笑)。コモドはもっと色々やるはずだったのに。
河口 あんたら相手見つけたらそれでいいんかい(笑)。戦いの場はお見合いか、コンパか、って(笑)。
――キャラクターを書くときは、感情移入したりするのですか?
高橋 私は意外と感情移入しないですね。この人はこういうこと言う“らしい”とか、こういう動きをする“らしい”とか、“らしい”で書いて、私がその中に入って行くっていうのはほとんどなかったです。それはやらない方が良いと思ったんで。
河口 面出さんは感情移入するでしょう。
面出 私はセリフを書いてるとそのキャラクターになってるんですよ、頭の中身が。だから気がつくと「このセリフはヤバいだろう」とか「ここまで言っちゃいけないだろう」って思い止まったりするんです。言いすぎちゃダメかなって。
高橋 でも、そこを寸止めにすると、監督が全部入れるんですよね(笑)。
面出 「せっかく寸止めにしたのに全部入ってる〜」って、画面見ながら(笑)。
――面出さんが一番入り込んだキャラは?
面出 主役のユウは別格で、絶対的に中心にして書いてましたね。でないと周りのキャラクターに食われちゃうんで、そこは気をつけてました(笑)。あと、クインシィですね。最初は怒ってばっかりというのがすごく気になってて。だから「姉と弟」(第11話)のときに笑った顔を入れて、あれでキャラができたんです。それまでは、この人は何を考えているんだろうって感じだった。そうやってクインシィのキャラをつくったから、最後はああなったんです。そうでなかったら、多分、あのままオルファンと行っちゃったでしょうね。普通のロボットものだったら憎しみ合って、殺し合うっていう。でも、それだけはやめよう、救いがなくなるから、って。ほとんど全員救われる話にしよう、と。
――淺川さんはどうですか。
淺川 感情移入しやすいのは子供ですね。私自身、「ブレン」の世界観がわかりづらかったんで、世の中をまだ知らないチビッコのセリフが一番書きやすいんですよ。「あれ何?」とか(笑)。私がセリフを書くと短かったり、ひらがなが多かったりして、頭悪そうなセリフが多い(笑)。
――人気のあるキャラは誰でしょう?
河口 カナンが人気あるって聞きましたけど。一番まともそうだから(笑)。ジョナサンはよく育ってくれたって感じですよね。
面出 最初の頃はどうしようって言ってたんですよ。ライバルって負けるのが運命だから、ずーっと負け続けてて(笑)。でも第14話(「魂は孤独?」)で勝ち誇ってた(笑)。
河口 戦いで勝ったんじゃなくて口で勝った奴(笑)。卑怯な手段で買ってるんだよね、あいつ(笑)。
面出 あれは自分でもすごいと思った。ジョナサンはユウのちゃんとしたライバルになったんです。あの辺はユウとジョナサンが表裏一体だから、ユウが落ち込むとジョナサンが高飛車になって、ジョナサンが落ち込むとその逆、っていうシーソーになってちょうど良かった。オルファンの中で権力握るってのはライバルとして普通じゃないですか。それが動機が母親のことだったっていうのが、すごいな、と思った(笑)。こんなキャラ初めて、って。
河口 案外ちっちゃい奴だった(笑)。
面出 でもみんなそうなんですよね、今回は。全員、戦争とか軍隊のような大儀名分じゃなくて個人的な理由で戦ってたから、わかりやすかった。
――最終的に、人もほとんど死にませんでしたしね。
面出 最終回のプロットを立てながら、誰か忘れてないかなーと思ったら、「いかん! ナッキィ忘れてる」って(笑)。キャラが死なないってことは減らないってことだから。勝手に増えてく(笑)。
河口 いっそのこと二番艦つくって、二軍はそっちに移せば良かったのかも(笑)。レイト艦長のところとかに。
高橋 そう言えば、私は沈んでる(目立たない)キャラを書くのが楽しかったですね。そういうのを浮かすのが(笑)。他のことは他の方がやってくれるので、私は沈んでるキャラ担当だ、と。ヒギンズとかシラーとか、レイトとか(笑)。
――富野監督と仕事された感想は?
高橋 懐が深くなってるのかな、と。我々がぶつかったとき、昔だったら弾き飛ばされてると思うんですけど、「しょうがねぇなぁ」って受けてくれる(笑)。
面出 怒鳴られてないもんね。先輩ライターに散々脅かされたんですけどね。「勝手なことしやがって」とは言いますけど(笑)。
河口 富野さんのストレスを一身に富岡さんが受けてくれたから(笑)。
――富岡さんはいかがでしたか。
富岡 すごい苦戦しましたよ。僕、大変なのばっかりやってるんですけど(笑)。オリジナルをつくるのも大変ですね……。

  • 富野監督が一番好きなキャラクターは比瑪。「あの声が戯作者とか演出家として面白いっていうのがある」
  • ユウが働いていた店が「すいとん屋」というのは、富野監督も気に入っていたそうだ。
  • 面出「カントはブレンに乗ったり、オルファンには行かないと言っちゃうところが面白いキャラでしたね」
  • ネリーの登場した17、18話は雪の降る森が舞台。位置関係などの細かい部分はうやむやにできたのは美術スタッフにはありがたかったらしい。
  • 凍った湖の上でスケートをするネリー・ブレンというのは富野監督から出されたアイデアだ。
  • ネリー・ブレンやバロンズゥにコンパネ・シートがないのは、話の途中で必要がないことに気づいたからだそうだ。

(1998年8月3日収録)

abemaTV放送記念ということで。BD発売時には、これの完全版(あるのか?)を収録してほしい。
日付から分かる様に、この対談は最終回放送前。タイミング的には、脚本最終話脱稿後、コンテ作業前といったところか(最終回に入れよう、くだりがあるので)? 隅沢氏以外の脚本陣が揃っている富野作品インタビューは珍しい。

富野由悠季監督名古屋講演「次の世代を意識すると仕事力がつく」

行ってきたのでレポ。取り急ぎ嫉妬部分とG-レコ劇場版続報部分のみ、

最近ムラムラっていう嫉妬心を持っているだけでなく、これも射程距離に置いておかなくちゃいけないんじゃないのかな、と思っている作品は「シン・ゴジラ」と「君の名は。」(会場爆笑)。本当にクソーッ、と、本当にクソー、クソーッと思っていますが、できることならばあの近くに行ってでビジネスしたい(会場爆笑)。いや本気ですよ。だってそういう風に思わなかったら食っていけないじゃないですか。要するにガンダムっていう昔の名前で出ていますで食えると思います? もうそんな時代じゃない、っていうのは、特に「君の名は。」はとどめ。証明されています。じゃあ絶対的に「シン・ゴジラ」とか「君の名は。」とか、諸々幾つかのアニメがありますが(サイリウム?を振る動きしつつ=「劇場版ラブライブ!」?)(会場笑)、そういうのの後追いで企画した時にどうするか、って言った時に、突破する方法は一つだけあるとは思っている。この場合は個性というのが実を言うと武器になるかもしれない。まだ個性でない、自分の悪い手の癖、手癖とか、どうせ富野的な偏りなんだよね、っていう偏り的なものでしかないにしても、そういうものを使って、いやぁ、「君の名は。」的な新海を、あいつを潰す為にオレはこういう風なクセをもってやれば突破できるんじゃないのかな、という風に極めて癖をもって突っ込んでいけばひょっとしたら違う回路が出てくるんじゃないのか。ていう風に思い出すことができるのは、今回のこの経験を書くに当たって、「オレこういう経験一度してるんだよね」っていうことを、ガンダムのお陰ですっかり忘れてた事例を思い出したんです。そして、「え? 巨大ロボットものをやれっていうの?」って企画が来た時に、こういう様なキャラクターでやってほしいんだよね、って時に、だけど巨大ロボットものであればとりあえず半年とか一年くらい仕事になるそうだから、ってフリーランスとしては仕事に飛びつくわけです。その時にあるのがまだ個性にもなっていない自分の手癖です。オレはこういう風にしかできないけども、オレだったらこう考える。その当時の事で、もうこの固有名詞を出しても本人からも怒られないでしょうから出す固有名詞、永井豪を潰す(笑)! なーにがまんが家風情のロボットものだったら、こっちの方が強いかもしれない。っていう風に、その代わり僕の場合ターゲットの名前があるほうが闘争心が燃えたので(会場笑)、永井豪を潰す! だからそれは西崎何某も同じことで、そのくらいに思わないと、全部コピーになっていきます。
(中略)
マーケットが広いと錯覚できたので「宮崎アニメに絶対勝てる!」「あいつは潰せる!」とかって。本当にこの歳になったから言えるんですけど、何でそういう風に自惚れられるのかなって(会場笑)。よく分からない(笑)。だから行けるとか個性があるとか、大変怖いことであって。自分で墓穴掘ってるんですよ。だからそれはやっぱりしてはいけない。ただ、僕にもとりえがありました。宮崎アニメ全部観てますもんね、劇場で(笑)。観るたびにクソーッ、観るたびにクソーッって落ち込むわけね。落ち込むんだったら観なけりゃいいのにと思うのは、やっぱりそういう反省をもって、粛々と大人をやってかなきゃいけないんじゃないのかな、という風に思っていたんですね。
(中略)
これは実写の方に怒られるかもですけど、実写よりも(アニメは)人気が長続きする。つまり時代的な劣化が少ない、というのがアニメの特性。多少絵が下手であろうが実写のものよりも長く受け入れられる。観られるものになっちゃってるというアニメの性能があるんです。って言った時に、今の大人向けに作ってどうする? そういうことで言うと、ひょっとしたらまだガンダムは「君の名は。」には勝てるかもしれないな、今ふと。この部分は絶対カットしてくださいね(会場笑)。だってあれは大人のものだもん。
(中略)
映画版のサイズのものは、来年早い時期に観られると思いますので(観客どよめき)。ちょっと雰囲気が変わってると思います(会場拍手)。

  • シン・ゴジラ」「君の名は。」直近の荒木哲郎氏の記事にて、富野監督の「シン・ゴジラ」言及が語られている。これはただの勘ですが、その言及とこれまでの富野監督発言の傾向から、「シン・ゴジラ」については内容面と興業面について評価しているものの、「君の名は。」については興業面のみの評価なのではないか(この時点では)、という気がしています。
  • 「諸々幾つかのアニメ」これの第一候補を「劇場版ラブライブ!」としたのは、現在唯一視聴報告がある(第28回東京国際映画祭、グレートメカニックG2016SPRING)ことと、タイトルを挙げなかったのはサンライズ作品だからなのではないか、と思ったからです。他の候補としては、「KING OF PRISM」(弟子筋の菱田監督、モーション的にはこれ)、「劇場版アイカツスターズ!」(サンライズ1stグロスで見ている可能性がある)が挙げられる。
  • 永井豪」もったいぶっているが、最近だとアニメビジエンスVol.04、グレートメカニックG2016SPRINGでも過去の敵視として挙げている。
  • 「宮崎アニメに絶対勝てる!」鈴木敏夫氏がかつて富野監督に「鈴木さんね、『コナン』はよくできている。いいものは宮さんにかなわないかもしれない。でも、お客さんを集めるのは僕のほうです」と言われたことを熱風11年12月号と逆襲のシャア友の会で語っている。
  • 「大人向け」これまでのG-レコ言及から、子供向け=小学生以下向け、大人向け=中高生以上向け、ということ。
  • 「映画版のサイズのもの」もちろんG-レコのこと。作業に入ったのはおそらく去年6、7月からなので、作業期間上やはり完全新作ではなく再編集総集編であろう。先日の宇宙エレベーター学会の報告は残念ながら勘違いの可能性が高い。

久々に、オレらが見たかったトミノ監督、という感じでした。仕事力というか嫉妬力を堪能しましたね。

AM16年10月号 富野由悠季監督の「シン・ゴジラ」「甲鉄城のカバネリ」言及

http://animage.jp/now-animage/
荒木哲郎氏と平尾隆之氏の対談連載に、まさかの富野由悠季監督のシンゴジラ言及。言及部分のみメモ。

荒木 先日、富野由悠季さんにお会いして、お話する機会をいただいたんですよ。
平尾 へえ。
荒木 でね、もちろん「カバネリ」の話とかもいろいろさせていただいたんだけど、その日ちょうど富野さんが「シン・ゴジラ」を観てきたということだったんですよ。
平尾 非常に興味深いです(笑)。
荒木 実は、この話を連載でしてもいいですかって一応、確認も取ってきました(笑)。でね、最初は何を観てきたのか言おうとしない雰囲気だったけど、「何をご覧になったんですか?」って聞いたら「『ゴジラ』」みたいな(笑)。「自分も観ました。どう思いました?」って聞くと、最初はまぁ、富野さん一流の物言いというか「また庵野は樋口と絡んで、ああいう趣味のものばかり作って……」「石原さとみの唇ばっかり見やがって」みたいに毒づいていた(笑)。でも、そうやって話していくごとに伝わってくるのは、「これは……よっぽど気に入ったんだな」という印象でしたね。なんだかんだ言って、最終的には絶賛くらいの感じだった。きっと、富野さんにとって庵野さんや樋口さんは、言ってみれば「弟子」の一派みたいな感覚なんだろうと思うし。だから「あいつらがまた変な趣味に走った作品で……でもまぁ、なかなか面白いもの作りやがった」みたいな感じで話していて。聞いていて何だか羨ましかったね。
平尾 それは何となく、富野さんらしい言い方ですね(笑)。ちなみに「カバネリ」についてはどんなこと言われたんですか?
荒木 「最初から上手くいくわけがないと思っていた。そもそも列車が良くない!」って(笑)。列車はレールの上を走るだけで、自分で曲がりもしないし飛びもしない。そんなものをアクションの主体にしようとした時点で何もわかっていないと。富野さん自身は「キングゲイナー」のシベリア鉄道の時にそれに気付いていたから、オーバーマンというアクションの主体になるロボットを出した、「オレはそこに気付いていたんだ!」って言われて、「はぁ……」みたいな(笑)。
平尾 ははは(笑)。
荒木 あとは「とにかく見たことのない舞台装置を作るのが、自分の物語を語るための第一歩だ」という話も印象的だったな。

富野監督は試写等ではなく8月中普通に観に行った感じか。
別ページ掲載の新海誠氏と荒木氏の対談でも、富野監督の名を挙げる場面があるので、ゲットしてどうぞ(ダイレクトマーケティング)。

緊急ニュース!富野由悠季と市川紗椰「聖戦士ダンバイン」HD化計画を語る 対談ロングバージョン特別版 メモ

http://www.animax.co.jp/programs/NN10001998

アニマックスオンデマンドのロングバージョン文字起こし

市川 皆さん今晩は。市川紗椰です。そして富野さん、宜しくお願いします。はじめまして。今日はお忙しい中ありがとうございます。
富野 いいえ。市川さんに会えるのでとても嬉しがって来ました、富野由悠季です。
市川 恐縮です、お気遣いいただけて。

聖戦士ダンバインHDリマスター化

市川 先程HDリマスターをご覧いただいて、率直な感想からお聞きしてもいいですか。
富野 現場の人間は、ああいうもの見るのとても嫌です。まして昔の、16mmの映写の性能と今の性能は違う訳だから。俗に言うデジタル技術も使われている部分もあって、映写自体が。フィルムの画像を言ってしまえば良くしちゃってる部分があると、汚い部分とか手抜きの部分がいっぱい見えてくる様になるんで、もっとボケた画像でなければ困るんだよっていうのが本当のところ。
市川 ちょっと荒っぽいところを残した方が良い?
富野 ところがそれが迂闊なことが言えなくて、荒っぽく残すとどうなるかって言うとただ荒れるだけになるんで。むしろクリアに見せる方が今のデジタルってのは得意かもしれないという部分があるし。それからやはり画面の解像度によってボケてくれる部分が曖昧になって良いという部分もあるし。それから一生懸命考えてみないといけないという部分で実を言うと、視聴者の想像力を刺激している部分があったりするんで。ここまで綺麗に見せられちゃうと、やっぱり手直しをしたい部分しか見えてこなくなる、という。僕なんか作ってる立場ですから。それで見た瞬間に変なもので思い出すんですよ。現場の時の手抜きとか。それからこのカットリテイクしようと思いながらアイツが向こうに行っちゃったから直せない、とか。色んな事情があってということまで思い出す。
市川 1コマ1コマ覚えているものなんですね。
富野 嫌ですけれど覚えていますね。だからどうしてこうなったかという記憶がこうやって出てくるから、見てて気持ちの良いもんじゃないです。
市川 先程試写近くで座らせていただいたんですけど、一度溜息に近いものが聞こえたんですけど。
富野 だからそれはそうです。絶望的にダメなんだよねっていう様なことが本当何cutもある訳です。だから自分の作品というのは基本的に見ません。今回のこれも一度DVD化した時に、一度見ているかなぁ、っていうくらいの感じで今回が2度目だと思うんだけど。忘れてると思ってるわけ。そしたら今言った通り。うわー、思い出す(顔をしかめつつ)。
市川 (笑)具体的にここっていうのはあるんですか?
富野 そりゃあります。だけど逆に言うと、今度は良い所もあって。やはり当時のアニメーターとか当時の背景マンというのはこういうところでこういう風に頑張っているというのが掘り起こされて見えてる部分があるから、どっちを採るかなという話ですね。
市川 そうなるとリマスターの過程の拘るところって当時の人たちの……。
富野 テープの時代から言うと、3、4段階こういう復刻版みたいな作業をやってきてて思うのは、あまり楽しくはない。っていう記憶しかないですね。ただここまで来ちゃったら今度はデジタル上旧作を作り直すところまで来ているかな、っていう別の側面もあります。今度はこれはまた復刻版とは違ってくる。
市川 え、作り直すってどういうことですか?
富野 アニメに関して言うと、動きは直せます。
市川 そうなんですか。
富野 はい。もうそういうレベルに来ています。コマを増やすとか減らすとかっていうことが、もう自在に、実を言うと自在にできるんです。もう今。
市川 それは馴染むものなんですか?
富野 馴染むという言い方じゃなくて、コマを増やしていくんです。逆に言うと減らしてもいけます。そういうこともやる気になればできます。問題はお金と、お金の問題もあるけれど、実を言うと時間の問題なので。そこまでやって、より良い作品にしてみせるという程の、例えば価値があるのかっていう時に、ダンバインは「うわー、まぁこのままで、これでおしまいだなぁ」ってなりますね。
市川 (笑)そんな。そうなんですか。
富野 そうです。
市川 そっかー。個人的にはダンバイン好きとしては、全然そういう作品も。
富野 本当それが嘘、嘘にしか聞こえないのは。
市川 なんでですか(笑)。始まる前にも仰ってましたよね。
富野 そう。
市川 嘘だと思うって(笑)。

市川紗椰が語る 聖戦士ダンバインの魅力

富野 教えてほしいんです。
市川 はい。私がですか?
富野 なんでこんな巨大ロボットものが好きなの? それで一回見てもらえれば分かる通り、ダンバインってそんなに大きくないんですよね。本当のこと言うと巨大ロボットものではないんだけれども、何でそんなものを好きになったのですかとか、どういうきっかけで知る様になったんですか?
市川 元々ですか。私、小学校中学校アメリカに住んでたんですけども、リアルタイムでガンダムWの放送が始まったんですよ。英語版で。それを見てすごくハマって。そこからあらゆるロボものを漁る様に見る様になって。
富野 だけどアメリカにいてどうやって見るの?
市川 日本に毎年来ているのでその時に色々探して回って。古本屋とかでテープとか探して。
富野 と言うことはテープでも見てたの?
市川 テープで見ました、私は最初。テープというかVHSで。その時はその中のひとつだったんですけど、結構自分の中ではインパクトが大きくてダンバインが。
富野 ダンバインと出会ったのっていくつくらいの時なわけ?
市川 中学の1年とか2年とか。
富野 でしょ。その頃の女の子がダンバインみたいなというのでは、どういう部分が一番惹かれたというか好きになったというか、え?と思った?
市川 最初色んなロボットものを見てた中で、異色じゃないですか。現代から異世界に行くっていうところがまず簡単にそのまま引き込まれるんですけど。割と一番ハマったところが、現実世界に、地上に戻るところがものすごく自分の中で引っ掛かって。ずっと……なんだろ、一番異世界にいるのに見た作品の中で、一番リアルに感じたんですよ。リアルというかその悲惨さだったり。一回その世界からリアルに行くからこそ結構グッと来たのがあるのね。
富野 と言うことは、一般論的な聞き方になっちゃうんだけども、つまり夢見る年頃にとっての異世界に行けるかもしれないという、物語の世界の中にも現実があって、向こうにも行くとか帰ってくるとかいうことが、やっぱりそれが面白かった?

市川 自分の中ではこういうものってあるかもしれないと思えるところが結構好きでした。中学生にとっては。
富野 今それでふと思ったのは、アメリカと日本行き来してたら、要するに向こうとこっちってのは同じだよね。
市川 あぁー。そうですか。
富野 だってアメリカの文化圏、日本という文化圏というのは、日本を地上だとしたらアメリカの方がバイストン・ウェルでしょ。
市川 世界観としては近いかもしれないですけど。
富野 どうして今みたいな言い方を思いついたというと、日本人のファンはそういう言い方をしませんでしたね。
市川 あ、そうですか。
富野 やはり単純に行き来の問題よりもファンタジーものとして、っていう様な事をロボットものに組み入れてという事で。今市川さんが気がつかずに仰っているんだけれども、自己体験をなぞっているとはやはり思っていないわけ。
市川 なるほど。
富野 それで僕今初めてこうやって聞かされて、ちょうどそのころ行ったり来たりして暮らしてましたって言われると、やはり文化圏の違いが持っている感覚論から出てくる言葉だな、ってのはちょっと感じましたし。だからなんだという事もあります。これはもう想像になっちゃうんだけども、だから日本国内しか知らなくってダンバインを見ていた子と明らかに違う何かがあったんだろうなと。
市川 でもそこはもうひとつの点が、結構アメリカって西洋ファンタジーのものってありふれてて。ダンバインもその中のひとつなんですけども、「聖戦士」って「Holy Warrior」ですよね。そういう宗教観がどういうところにあるんだろうとか、そういう風に見たりとかしてたのも。でも意外とある様でない様なところが私は面白かったんですね。そういうのってあったりするんですか? 聖戦士ってとこ未だに気になる。
富野 今の言葉遣いもなの。やはりアメリカという違う文化、空気感。そういう方の仰ってる事だなぁ、って本当に感じます。日本しか知らなければそういう言葉遣いは出てこない。本当に出てこない。「聖戦士」ってのはアニメの中の、ダンバインの中の言葉くらいの、方タイトルくらいのしか持てないんですよ。今市川さんが言っている部分の言い方というのはどういう事かと言うと、何て言うのかな、自分の気持ちの中の何か気になってるなという事としての「聖戦士」っていう言葉遣いであって、その分もダンバイン見ててもはっきりしないよね、っていう言い方。まさに正しくて。その部分は僕は絶対に触らなかったし、触ってないの。迂闊に触ったら面倒臭いというのがあったのと。
市川 確かに(笑)。結構パンドラの函ですよね。
富野 そう。日本人、つまり僕はなんだかんだ言っててもやっぱり仏教圏の人間なんだと思ってた時に、仏教圏の人間が考えた聖戦士論っていうのは無いに近いんですよ。じゃあ西洋ファンタジーと言われている「聖戦士」を考えた時に、何なんだろうかなぁと言った時に、そういった他の作品好きじゃないんです。およそ読んでなかったんで、ダンバイン作ってる時でも調べようともしなかったんで、触りたくなかったってこともあるし。この歳になると少しは、一つにはハリー・ポッターロード・オブ・ザ・リングあたりなんですけども。以後のところであれだけ聞こえてくれば、少しは考えるんだけれども、じゃあ聖戦士論ってのを迂闊に触るとどこに行くかっていうと結局まさにロード・オブ・ザ・リングのあそこに行っちゃって、アーサー王は出てこないまでも、アーサー王に願掛けをしていった時に何が起こるかって言うと、結局キリストの文化圏に対してズッって行くわけね。それだけは絶対にしない、そのholyとかは何なんだって言った時に、ダンバインやっていた時にこの問題だけは意識してたから。考えるの止めたのね。だからその部分を突き進むっていう気はなかったし、あともう一つ今度は僕の年代の仏教徒ではないんだけど仏教文化に浸ってた人間から迂闊にその部分に触って西洋ファンタジーに対して失礼があっちゃいけないとも思ったんで、触らなかったっていう意識はあります。というのは勉強してなくてそこには触るなっていうのが本当にあったからです。更にこの歳になって最近そういう事をちょっと知る様になると、やっぱり迂闊に触ってなくて良かったなって。歯が立たない。歯が立たないあるレベルというものも分かってきたんで、この歯が立たないという部分は、これを見てくれている人で、色んな人がいると思うからひとつだけ言っておきます(カメラ目線)。例えば聖戦士の事を触るとキリスト文化圏に行っちゃうよ、という部分があって。じゃあそれを迂闊に言えないんだよって実を言うと「キリスト教」という風に一掴みにできる様な教徒とか宗教論はなくて。ものすごい派閥闘争やった、闘争心というのが西洋の文化圏なので、迂闊に東洋人が触ってはいけない。という事がこの1、2年、はっきり分かったんで。
市川 この1、2年ですか。
富野 1、2年あらためてちょっと勉強せざるを得ないことがあって調べてみたら、とにかく歯が立たない。
市川 勝手な中学生としては、例えばショウがバイクとかで。それってもしかしたら死んだとして。死後の世界で、っていう風に見てた中で一回リアルに行くので、それで全部崩れたのが良かったんですよね、自分の中で。割とそういう目で見れるんだけど、そうじゃないとなると結局バイストン・ウェルって夢の世界というところに戻って。その夢の世界って誰もが持ってて、あるかもってところが割と刺さりました。
富野 本当にありがとうございます。そういう風に説明してくれた人初めてで。本当に息も抜けたし、僕は勘でしかやってなかったんだけどもそれが正しかった部分もある。それから地上に戻るという部分に関して言うと、僕の意識でない部分があって。要するにスポンサーがね、っていうわけ。
市川 読んだことあります。
富野 地上に出してくれないと困るんだよ、って言われたからんだよ、って言い方があるわけ。参考までにそのスポンサーは、現在いるバンダイではありません!
市川 (笑)。ではありません。
富野 不承不承やった部分があるわけ。不承不承やったから、今市川さんが言った部分。そこまでは吹っ切れなかったのね。だから何となく後半ああいう形になったんですよ、って作業論の中で何となくやってだけであればある程、「聖戦士」って何なの、地上に対しての聖戦士、バイストン・ウェルに対しての聖戦士って何なの、っていう部分がちょっと曖昧なんですよねって、そりゃ曖昧だよって。作り手が何も考えてないんだから。、っていう言い方をしますし。しておきますし。それから今言った通り、じゃあこれから作り直せるかと言った時に、やはりあらためて今のキリスト文化圏の持っている問題ってのは分かってるとそう簡単には触れない。
市川 でも色んな要素があってそういうメタ的な作業上こうしなきゃとか制限があったからと、元々の富野さんの意思とかそれが全部合わさってできたからこそ私みたいな人が勝手に色々考えが入れれるんですよね。余地ができるというか。
富野 勿論そうだと思います。何と言うか本当説明しづらいんだけども、全部が全部好きで作ってるわけではないんですよねっていう部分はある。これだけ品揃えしたんだから、品揃えした状況の中で、つまり地上界とバイストン・ウェルという、本当(笑)、海と陸の間にある(ジェスチャーしつつ)。うまい設定だよねとこう思ってると(笑)、やっぱりその部分だけ以上のことはしない様にするということで、言ってしまえばダンバインやってる頃はロード・オブ・ザ・リングっていう日本語はなくって。指輪物語なんですよ。指輪物語をそのまま持ってくる様なことはとにかく排除する。
市川 バイストン・ウェルの世界観を作る時に、やっぱり意識とかあったんですか?
富野 それは迂闊に読むとコピーが始まる。だからそれはもう。それはかなり必死です。だけれども、実を言うと、うわこちらの方が本物なんだから、読めばいただけるものはあるんだろうと本当に思うんです。けども作り始めたら絶対にそれはしません。

バイストン・ウェル

市川 当時ってダンバインが初じゃないですか、西洋ファンタジーって。今だとRPGの世界とかいっぱいありますけど。そこをすごくベーシックなことで恐縮なんですけど、世界観を描こうと思ったきっかけというか、何かイメージがあったんですか? 夢なのかなにか。
富野 (手を振りながら)そこに関しては、僕の中に元々あったとは思えないのね。さっき言った通りファンタジーものあまり好きじゃなかった、子供の頃からずっとそうだったから。殆ど読んでいません。だから知らないんです。ただね、アニメの仕事を始める20代の前半くらいから、ようやく日本でもフェアリー系の絵本や何かがかなり輸入されてくる様になって、そちらの部分から、一応当時は若い男の子だったのでスケベ根性でそういうの買って読んでいるところから始まっていって。うーん、これは何なんだろうという事を本当に10年くらい考えた末、実写ではできないけれどもアニメなら良いなと思ったという様な事があた時に、ああいう羽根付きなフェアリーを劇中に取り込む話は作れるかもしれない、巨大ロボットもので。という条件だったんです。
市川 なるほど。
富野 で、僕には巨大ロボットものを作るという命題がなければ宿題がなければ、やはりこの手の作品を作るというところにはやっぱり行かなかった、ってのは基本的にそういう素養がある人間ではないからというのは自覚的にありました。
市川 じゃあ世界観を描く時って苦労されたというとおこがましいんですけど。元々自分の中にないと。
富野 明らかにないからダンバインをやったお陰でオーラロードだとかバイストン・ウェルの海と陸との間という概念がバタバタバタと出ているから当たり前だと思ってるんだけど、その言葉がなかった時、本当に地獄でした。
市川 (笑)
富野 ただひとつだけ思えたのは、人間には劇中で出てくる「生体力」が絶対にある筈だ、その生体力を単純に有機的なものと考えるんじゃなくてもう少し外力としてっていう風に考えていったら、まぁアニメの中でこの程度の人型のものを動かすことをやっても良いんだろうなと思った。そこまでは簡単なんですよ。じゃあその次にどうするかな、っていう風に考えた時に趣味の世界になってくるんです。って言った時にバイストン・ウェルの事を思いつくまでに一年は掛かってますね。
市川 そんなになんですね。
富野 そしてどうしてって言った時に、異世界なんだけども、リアルな世界がここにある。隣にある。だから傍なんだよね、って言った時に「by」という言葉が使える。
市場 なるほどー。
富野 そして、そうかbyかって、英語のbyだよねー、ってその次に「落ちる」ってんで井戸。
市川 「well」、なるほど。
富野 それで、じゃあこの言葉を繋げる真ん中、っていう風に考えたんだと思う。ある日突然バイストン・ウェル、ポンと出てきた時に、これでいける。
市川 もうピンと来ました? その時。
富野 くるっとピンと来た。そしたらもうオーラロード。
市川 そこから全部。バイストン・ウェルってものすごいインパクトある名前で惹かれる方多いと思うんですけど。
富野 そう思うでしょ。
市川 はい。
富野 やっぱりね、市川さんが初めて。僕に言ったのは。
市川 本当ですか。私が気になるのはバイストン・ウェルみたいなインパクトのある名前の中の国が「アの国」とか「ミの国」とかすごいシンプルで記号的な感じになるのって意図があるんですか。
富野 ありました。人類が今日までの文化を歴史を積み上げてきて地球の周辺にオーラ力が溜まってようやくバイストン・ウェルって異世界ができはじめてきた。バイストン・ウェルって人間の希望とか欲望とか夢とかの原理的なもので出来上がってるかもしれない、ってんで、人々のものの考え方とかシンプルであってほしい。それから指輪物語の話をしました。ああいう風なボキャブラリーがあった時に、それを使うとコピーになるから。なるべく、って言った時に、まず国の名前っていう固有のある大きな地域を示す名前はバイストン・ウェルの人たちはすごく単純に「ア」「イ」とかっていう風に自分たちのここは「ア」(両手を広げつつ)、向こうの人は「イ」、そういうところから名前を作ったんじゃないのかな。その残り香みたいなものが「アの国」「イの国」。
市川 まだちょっと原始的な感じはあるっていう、
富野 だから技術的と言うよりもオーディナリーな人の気分の中にいきなり近代機械文明みたいなものがドンと入ってきた時に、そのズレ、ギャップみたいなことが描けたら良いなと思ったの。
市川 アしか出ない。
富野 そう。
市川 アって言っちゃいました。

キャラクター

市川 自分の話で恐縮なんですけどもうひとつ初めて見た時に引き込まれたひとつの理由が色使いだったりとか、キャラクターのビジュアルからグッと来たというのがあったんですけど。特に女性キャラクターが印象的で。
富野 それに関しては全く僕の仕事じゃなくて。
市川 湖川さんの。
富野 キャラクターマンの、ダンバインに関しては作画監督をやった湖川さんが全部やってます。それで当時は衣装デザインだけ別にスタッフを雇うなんて発想は合もなくてやってましたから。殆ど全部、湖川さんが勝手に描いてます。
市川 そうなんですね。
富野 そうです。僕の言う事なんか何にも聞いてくれません。色決めるのも湖川サイドでやってて。それで時々訳の分からないものが出てくると、それは湖川くんの作画グループのスタジオがあるんです、そこの若い奴に描かせたのを湖川が手を入れて「はいこれ」みたいなことをやってますんで。僕の権限外、僕の興味外。
市川 そうなんですね。
富野 そうは言っても初期のメインのキャラクターに関しては一応色を決めるところぐらいまでのことは意見を聞いてもらってますけど、後は基本的に僕に関係ない仕事ですね。だからすいません、僕にはああいう趣味は、まぁ、ありますね(笑)。
市川 あるはあるんですね(笑)。信頼関係なんでしょうけど。すごいなと思ったのが、もちろん好みとかキャラデザとか色々あったんですけど、割と善い人はみんな顔に出ているところがすごくて。そこはキャラクターの内面とリンクしている様に感じたんですよ。善い人は善い人そうで、悪い人はそうで。中途半端な人が良い感じに中途半端なんですよ、見た目が。
富野 それは20何年経って見せられてもつくづくそれは思いますね。湖川のキャラクターって上手いなっていう事と。それからあとひとつ。キャラクターの絵をもらって、演出するトミノさんは偉いなァって(笑)。
市川 なるほど(笑)。そういうのってあるんですね、見ていたら。
富野 絵がなければ、やっぱりコンテを描くという作業をやってるんだけど、演出の作業な訳です、それはできません。だから結局キャラクターシートがそばにあって「あ、こういう顔ね」とか「こういう姿してるのね」とか演技とか反応とか変わってきます。
市川 例えば私トッドが好きなんですけど、彼も中途半端な感じが、いい加減な感じが顔に出ている印象なんですよ。もうちょっとシャキっとした感じだったら彼の行動とかも違ったんですか?
富野 それは違ってくるでしょう。違ったでしょうでなくそれは違いましたね。だけど初めからそういう設定にした部分もあって、湖川くんにしてみてもあのトッドになっちゃったという言い方もあるし。今回の1話なんかであらためてトッドの出番ってこうか、というのと、こういうこと言わせてるんだなと思い出して嫌なことがあるんです。どういうことかと言うと、僕の方で言ってみると、絵柄は良いんだけど、演技の問題として、僕はやっぱりヤンキー知らないんだよね。本物の。それをどうしたら良いんだろうな、設定的にはこういうキャラクターの方が都合が良いんだけども、これで良いんだろうか、っていうのは今回また思い出しちゃった部分で、ガクッってきて。
市川 そうなんですね。迷いというか。
富野 そういう意味ではっきりしてなかった部分というのが、こちらのそういう人を知らなさ過ぎる問題というのはあるんじゃないのかな、っていう気は。ただ、アニメの仕事をやってるとそれこそ基本的に無国籍ものなわけだから。そういうものは考えなくて良いんじゃないかという言いながら、やっぱり台詞で一言、アメリカ軍のとか、カリフォルニア出身のショット・ウェポンとはマズいんだよと思ってるとか、それはあります。
市川 そうなんですか。そこら辺が好きだったんですね、私は。
富野 だからそういう風に言っていただけるとそれは偶然でしょう。上手くいったんだよね。つまりヤンキーのかなりできてるんだけども調子の良い奴、みたいな部分は実を言うと考えてます。必死で考えてます。きっとこうだろうこうだろう、手を入れていくんで、かなりしんどい作業です。
市川 地上編の二回目に行く時に、トッドがご自宅に帰られますじゃないですか、ボストンに。その時に意外とマミーって言うし、つまみ食い真っ先にするあいう感じが結構好きなんですね(笑)。出てるなぁって。
富野 ボストン行ったことないから、ボストンねぇ……何でボストンにしちゃったんだろうか、って自分が行った所にしときゃ良いものを、って言った時に、どうしてもなんか理由があってね、とにかく東海岸にしたかったのね、トッドの出身地。そうしておかないと合衆国全体がリアクションしていく時の表現がとても面倒臭くなる。ロスとワシントンってダメだ、っていう様な事があったんで、ボストンにした。えーっ、ボストンってどんな所なんだろう、って、それはもうあの時は、それこそ今の人は分かるんだろうけど、GoogleMapのあれないから。そりゃ地獄ですよ。
市川 地獄ですか(笑)。
富野 地獄です。だから今の話で思い出した、トッドがドア開けた瞬間に、ドアの後ろの景色が気になってるの、実を言うと。これ描けない。行ったことないから。現場で背景に回すわけ。適当に描いてあってもしょうがないよね、って。こちら注文つけられないから。
市川 指示が。
富野 だから泣く泣く採用しているみたいなことはそれはあります。
市川 えー、見てる分にはこれぞトッドというのが見れてただただ興奮するだけです。
富野 だから本当ありがとう(頭を下げる)。
市川 他に印象的なキャラクターとか、このキャラクターは理想通りにいった、みたいなのいるんですか?
富野 そういう意味ではあまり上手くいってないなと思ってるのと、それから上手くいったと思ってるのあるんですよ、だけどそれはね、自分が好きだからなの。
市川 十分じゃないですか。
富野 自分が好きだからという部分で周り見ると、ミュージィ嫌いなんだ、っていう(笑)。
市川 そんなことあるんですか。
富野 迂闊に言えない。言うときっとバカにされる。
市川 え、そんなキャラいます? 本当ですか。
富野 だからこういう時職業柄こういう回答をさせていただきます。いや、基本的に全部原作者でもありましたから、自分の造形したキャラクターみんな好きですよ、嫌いなのある訳ないじゃないですか。って回答で文句ある(笑)?
市川 んー、文句はないですけど、もう知りたいっていうのとモヤモヤ。
富野 だけど見分ける方法はあるんですよ。それはキャラクターというよりも絵柄の印象ということでトッドが好きだ、みたいな事と、やっぱり作り手が気にいってるキャラクター、一生懸命描いているキャラクターっていう絵がある訳だから。そういうの見て自動的にそりゃそうよね。
市川 結構おっきなヒントな。
富野 だから作画監督でもありキャラクターデザイナーでもある湖川っていうのはこういうキャラクターが好きなのよね、っていうのはそれはもう線の描き方根本的に違うんだもの。それはそれこそ今回みたいに画面が綺麗になればはっきり見えますから。
市川 そうですよね。
富野 そうです。
市川 より一層見たくなる(笑)。湖川さんの好みそうですけど、富野さんのもね、うかがいたいですけど。
富野 だからダンバインの時にははっきり意識した事があって。こういう風なファンタジー的なところにも手を染めたんだから、日本のアニメという切り口から入ってくる様なキャラクターにはしたくはなくて少し西欧的な気分を入れていきたいよね、っていう事で、本当湖川くんとやってもらったし。メインのキャラクター、つまり大人のキャラクターというのは全部湖川好みという言い方があるんだけども、そうじゃなくて、基本的にこの年齢の女性を描くんだったらこうでしょ、というサンプルを描かせた。という努力をしたというのはあります。

オーラバトラー

富野 プラモデルのレベルで言っても、これ言うとスポンサーに怒られるんだけれども、あまり値段の出るモデルじゃないから。
市川 これですか(横のダンバイン指しつつ)?
富野 そうです。だからこれ大事に持ってて、20年後に高く売れるとは限らないよ。
市川 でもそういう問題じゃないんじゃないんですか、価値は。
富野 今度はこちらの価値論で言った時に、これちょっと違うんだよねっていうのがいっぱい目につくから。
市川 なるほど。一回ここは目をそらしましょう。聞きたいですけど。
富野 ダンバインのプラモデルに関して言うと、一番初めに要求したことがあるんです、メーカーに。ところが、それで一度は成型作ってもらったんですけど、これじゃあプラモデルは作れませんって泣かれてそのバージョンを止めたってのがあるんですが。
市川 妥協しちゃったんですか?
富野 妥協じゃないんです。技術論的に無理だろうというのが、実を言うとオーラバトラーの表面というのは恐竜みたいにザラザラなんです。だから一回目はそれで作ってもらったんです。作ってもらって組み立てもしました。僕自身も組み立てました。大問題が起こった。張り合わせの時にどうしてもカッターナイフを使うザラザラの継ぎ目の部分がものすごく難しかった。
市川 なるほど。
富野 何よりもまだ当時のプラモデルの製造工程では、表面がザラついた、日本語で言うと梨地的な、梨の皮の表面、あんな感じに仕上げるというのはかなり面倒臭くて。何よりも組み立てた時にその継ぎ目どうするんですか、って問題があって。一回目はそれで商品化もしてるんですけども、最近はたと気がついてこの30年見てませんね。それは。
市川 見てみたいです。
富野 だけど今言った通り形にならないんです。結局こんな大きなものになっても、その辺のことは作ってくれてますから、うわー、これでオーラバトラー……。とても良くできたモデルですので、まだどっかにあったらお買い上げください。
市川 そんな気を遣う富野さん……。

聖戦士ダンバイン

富野 僕の年代ということじゃなくて、僕の様な人間にしてみれば、西洋ファンタジーにもっていた憧れとか、敗北感。仏教文化圏からは絶対にできない。仏教文化圏からファンタジーやると、かぐや姫になっちゃうし、それから乙姫様になっちゃうし。っていうんで、フェラリオがいないんだよね。
市川 はい、そうですよね。一番象徴的なのがフェラリオですよね。
富野 だもんで、やっぱりそういうものをやってみたかったんだよね、文句あるかというので、だけど全部仕切ってるというのがダンバインなんですよ、僕にとっては。だからそういう意味ではやらせてもらって気持ちも良かったし、自分の仕事としても一番苦手なものだったから、これでノベルスを書くみたいな事をやってもみて、元の話に戻りますけれど、ロード・オブ・ザ・リング以後のファンタジーものの系譜を見ていった時に、とても歯が立つもんじゃないのと、本当に歯が立たないかという事をあらためてダンバイン見てて、いや、今度はこちらの目線からの作り方ってあるんじゃないのかなという事も感じられる様になった。つまりすごく穏当な固有名詞があるんだけど、全部ジークフリードじゃないだろうという様なファンタジーものの作り方ってあるんじゃないのかな、という気がしてます。
市川 聞きたいことが止まらないぐらいまだまだいっぱいあるんですけど、そろそろしめなさいという天の声が。本当はそれこそフェラリオの事とか小説版も色々聞きたいんですけど。今日はここまでって事なんですけど。
富野 またこういう機会が出てくれば良いんですけどねぇ。
市川 是非、私はいつでもですけれども。本当にありがとうございました今日は。
富野 そんなこわい顔しないで。
市川 もうなんか恐縮で。
富野 ありがとうございますという事と、僕にとっては市川さんみたいな世代の方と会って、見てくださる方がいるという意味で言えば、今言った事も言える様になるという事です。だからそういう意味では全部終わった訳ではないのかもしれないな、っていう感触もいただきましたので、本当に嬉しく思います。
市川 こちらこそ。
富野 本当に今日はありがとうございます。
市川 ありがとうございます。無茶苦茶楽しかったです。貴重なお話を。
富野 とんでもない。

アニマックス配信外の発言 アニメージュ2016年9月号文字起こし

――市川さんは「ダンバイン」も含めた富野監督の作品に、どんなイメージをお持ちですか?
市川 「えっ、こんなことしちゃうの!?」と、良い意味で夢を壊してくれるイメージがあります。ご本人の前で言うのもおこがましいですが……。
富野 そう言っていただいて構わないですが、本人はそう言われると、何を壊しているのかが全く分からないんですよ? 壊しているつもりがないから。
市川 そうなんですか?
富野 「劇としてこうする」とステップを積み重ねた結果だから。「作っているんだから、壊してはいけない」という感覚です。
市川 なるほど、逆なんですね。でも、そうして物語の世界が作り上げられていけばいくほど、観客の中の固定観念は崩れていきますね。そのぶつかり合いが、ファンとしてはたまらないんです。
――富野監督はドラマを「作っている」けれど、それを受ける側の中で何かが「壊れていく」。
市川 そうですね、「変わっていく」というか、「何かに染まっていく」というか。
富野 そう作るのは、せっかく見てもらえるのなら、ムダに見させたくはないからです。ちょっと違う価値観や、違う目線をドラマに入れる努力はするということ。ですが、僕は体質的に劇作家ではないので、そうしないと作劇ができない、という言い方もできます。そういう部分が苦しさとして出ていて、市川さんが言われた様に「壊れている」という風に見えちゃうのかも……という感じはあります。その辺りをもう少し優しく表現できる演出家だと、もうちょっと人気も出るんだけどね、って、特にこれからの時代、優しい語り口が必要じゃないかなとも思うけれど、僕にはそれができないんだよね……。
――ですが、ある意味「優しくない」からこそ、市川さんの心にも深く印象が刻まれているのでは?
市川 そうですね、それに、変えられても全く嫌な気持ちはしないんですよ。作品から、何かを持って帰れる様な感覚があって。例えば「ダンバイン」で私が印象的なのは、バイストン・ウェルから描かれていたキャラクターの国籍の違いや、そこから生まれる関係性が、地上編でより浮き彫りになる展開で、「ダンバイン」ならではのドラマだと思います。
富野 そう、そういう意味では、作り手がこんなこと言っちゃいけないけど……「ダンバイン」で鳥肌が立つ様な瞬間も、なきにしもあらずなんです。アニメでこれができたのなら、もう少し評価されても良いのに、どうしてダメなんだろうって事は、ずっと考えてはいます。そして、考えていると今度は、作り手である自分自身の問題が出てくる。るまり、自分の中に「作劇術」を持っていないという問題。すごく分かりやすく言っておくと、シェイクスピアになりたかった。
市川 あぁ……。
富野 でも、あの巧みな人間関係のドラマが、僕には作れない。
市川 富野さんの作品も、説明的じゃなかったりする部分は、シェイクスピアと似ていますよね。
富野 もちろん、それは意識しています。けど「映像作品としての劇」の組み方のセンスが、もうひとつ足りない。上手じゃないんだよね……。
市川 でも、富野さんの作品には、見た跡に確実に何かが変わるという感覚があります。だからこそ私は毎回、「見て良かった」と感じるんですよ。

アニマックス配信外の発言その他

富野:僕は仕事柄、絶対に自分の作品は見直さない人間なんだけど、今回渋々見返してみて、やり方は考えないといけないけど、今の時代に合わせた作りようはあるなと感じました。

実は、今のデジタル技術でオーラバトラーの実写化をできないか考えたこともあったのですが、どうしてもメカ論として突破できない部分があって、コックピットのデザインが分かりそうで分からない。『パシフィック・リム』に出てくるような操縦方法ではなく、あそこからもう少し突き詰めていけば、通用するような時代になってきたのかなという感覚はあります。

監督はオーラバトラーのサイズがちょっと小さかったことが気になっていて、反動で大きく印象に残るような……ハイパー化のような作劇をしました、いくつかハードルを越えればあの世界観を実写でやれそうな気もしていますと、気になる話題を披露。市川さんは好きなオーラバトラーを聞かれ(対談では好きなキャラクターの話のみでした)、ダンバインの名を。トカマク機のカラーが好きとマニアックな一面ものぞかせていました。

市川さんのブログ

http://saya-ichikawa.com/blog/3143/

富野さん、正直もっと怖い方を想像してたけど、いざお会いしたら全くそんなことなく、暖かい笑顔で出迎えてくださりました。「かわいい」と言ったら殺されるだろうが、お茶目な一面もあり、とてもピュアで優しい方で、あんなたくさんにお話できて光栄です。
現場の緊張感は凄まじかったけど。

また、アニマックスの収録分は対談全体の一部みたい。

Gのレコンギスタ劇場版アフレコ実施か

Gのレコンギスタ劇場版アフレコ実施か

この田中氏のtw、いつもなら「あぁ^〜また富野監督か、たまらねぇぜ」となるだけですが、次のtw。

このtwも合わせると、本日G-レコ劇場版のアフレコが行なわれた可能性が高いのではないでしょうか。


これらのtw群から、先週もアフレコが行なわれたのではないでしょうか。
追記:アフレコ自体はあった模様。char-blog.hatenadiary.org福井さんのその後の反応。ameblo.jp

JapanEXPO2016小形P接触

今月に入って、富野監督だけでなく小形P、声優陣もファーストガンダムの様にゲリラ戦を展開。

おまけ

LegacyEffects提携富野作品のリメイク対象がイデオンだったことを暴露。
多根氏はこれ喋っちゃって大丈夫なんですかね……(ポシャったからOKという理屈?)?

サマーコンファレンス2016 パネルディスカッション「世界に広がれ!〜Be connected to the world〜」富野由悠季発言メモ

富野 評価をされるってのはBEATLESくらいになってないと評価とは言えないんだ、って話です。最低限度、BABYMETALくらいにうけなければダメなのよね、って感覚はあります。
宮崎 BABYMETALお好きですか?
富野 ほら、この説明してると時間がないから。どういう風にうけたかってことで、BABYMETALはネットで調べて下さい!
(中略)
富野 赤信号ってのは人工的なシステムでしょ。津波ってのは人工的なシステムではないでしょ。どっちを大事にするって価値論を、我々は語ったことがあるのか。ものすごく僕良い例を話してる。自分でも感動してる。規則だルールだって言ってるけど、ここまでシステムが完璧になってくればなってくるほどなんです。我々はそれに捕らわれていて津波がくるってわかってても、だけど今は……って。足跡がついてるじゃないですか、ってじっとしている子たちをあなた方は育ててませんか。って時に、生命力とか耐久力とかくそ食らえですよね。そういう話です。そういうようなテーマでオーラバトラー戦記を作りたい。

とりあえずBABYMETALとオーラバトラー戦記言及分。